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紅茶の島のものがたり vol.11 冨井穣

2009年06月12日 | 金曜(2009年4月~):冨井穣さん

第11話


お茶の味覚にもお国柄がある





 緑茶の加工工程を大まかに分類すると、
①蒸気で蒸す
②揉む
③乾燥させる
 という手順になる。茶葉は摘み取った時点から発酵が始まり、うま味のもとになるアミノ酸が徐々に減少していくため、速やかに蒸気で加熱して酸化酵素の働きを止める必要がある。すると茶葉の中には渋味の原因であるタンニンがそのまま残り、紫外線量の多い沖縄では当然、渋味の強いお茶になる。それでは、どうにかしてこの渋味を抑える方法はないだろうか。

 そこで山城が最も注目したのは、静岡茶の蒸し方だった。
「静岡の生葉は沖縄より柔らかいにもかかわらず、蒸し時間が全般的に長い」
 これはいわゆる「深蒸し」のことで、茶葉がドロドロになるまで蒸すことから「ドロ蒸し」とも呼ばれている。
 深蒸し茶が開発されたのは約40年前。国立茶業試験場がある牧之原台地のお茶は日照時間が長く、茶葉が厚く堅くなりがちだったため、他地区に比べ渋味の強いお茶が生産されていた。そこで渋いお茶をいかにしてまろやかな味に仕上げるかを研究した結果、蒸し時間を長くして茶葉の繊維を柔らかくするとタンニンの量が減少することが判明し、渋味を取り除いた緑茶を作ることに成功したのである。

 また静岡で深蒸し製法が主流になった背景には、水色の問題もある。静岡は首都圏など水質があまり良くない地域が商圏となるため、茶葉の蒸し時間を短くすると水色が十分に出ず赤っぽいお茶になってしまう。そこで茶葉を深蒸しにして粉末状に仕上げ、まんべんなく水に混ざるようにして、緑茶らしい色を表現しようとしたわけだ。
 ということは、静岡以上に日射量の多い沖縄で深蒸しの技術を応用すれば、渋味が少なく水色も鮮やかな緑茶を作ることができるのではないか。

 しかし、である。
 深蒸しで仕上げたからといって、うま味成分が増えるわけではない。山城が常々「緑茶加工は減点法」と口にするように、緑茶は摘採後すぐの茶葉の状態をいかにそのまま保持できるかにかかっている。つまり、深蒸しなどの工夫によってマイナス要素を少なくしても、結局はそれも原料の品質次第ということになる。例えば簡単な数字上の比較をすると、優れた加工技術で品質50点の茶葉を1%の減点材料で仕上げたとしても、技術が足りず品質100点の茶葉を50%しか生かせなかったものにはかなわない。また深蒸し製法といえども緑茶の一加工技術に過ぎず、渋味が少なくなる一方でお茶特有の香りは損なわれてしまう。

 さらに、品質の問題以上に山城が痛感したのは「味覚の地域性」だった。
「静岡で学んだ技術を使って沖縄で深蒸し茶を販売したとき、お客さんから“こんな粉みたいなお茶は飲めないよ”と言われて、土地によっておいしさの基準が異なることに気づきました。仕上げ茶葉の形状にも地域差があり、緑茶は一般的に細く針のようによれているものが良いとされていますが、沖縄では細かすぎると敬遠されました」

 こうなるとあとは、生産者の考え方次第でどのようなお茶を作るのかが決まってくる。栽培されたお茶がすべて、シングルモルトウイスキーやスペシャルティーコーヒーのようにブランド茶として売られているわけではない。ブレンド用や増量用の茶葉として使われるものもあれば、抹茶アイスクリームなど加工食品の材料に使われるものもある。また最近はお湯を沸かして急須でお茶を飲む人が激減し、高級茶の売れ行きは停滞気味。代わってペットボトルや缶飲料の需要が増加しており、業界全体が薄利多売の方向に進んでいる。
「沖縄で緑茶作りを行うメリットは、気候が温暖なため他地域より多作が可能なこと。だから、静岡茶などに比べて単価が劣る分、量でカバーできるんです。今後の新たな可能性としては、沖縄の茶葉はカテキン成分の含有量が多いので、その効能を前面に出してPRしたり、味が劣ると言われても“それが沖縄茶なんだ!”と逆に差別化の手段として利用し、個性の確立を目指すことなどが考えられます。ただ、いずれにしても一生産者の努力だけでは難しい話で、官民一体となった大キャンペーンなどが必要でしょう」

 こうした状況の中で山城が目指したのは、言うまでもなく味の追求だった。沖縄の緑茶をいかにして静岡茶のレベルに近づけることができるのか。研修1年目が終わりに近づき、独自に研究を重ねながらうすうすとその限界に気がついていた山城は、本格的に紅茶の勉強を始めようと考えていた。


※写真について
普通蒸し茶(上)と深蒸し茶(下)。一般的に蒸し度が高くなるほど茶葉の形が細かくなり、水色は濃い緑色になる


text:冨井穣



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