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紅茶の島のものがたり vol.23 冨井穣

2009年09月04日 | 金曜(2009年4月~):冨井穣さん
第23話
自信から確信へ


 おぼつかないスタートを切った山城紅茶だが、明るい兆しは随所に見え始めていた。
 会社設立2カ月後の2007年4月下旬、「NO.927コク重視」がうるま市の地域推奨品に認定された。そのちょうどひと月前、うるま市商工会から出品を依頼され、「エントリーだけしてみたら?」と言われるがままに書類を提出していたものが、期せずして選ばれたのだ。しかも当時は本格的な営業活動前とあって、茶葉はほとんど出尽くしてしまっていた上、パッケージなども準備不足。締め切り間近だったため大慌てで茶葉をかき集め、包装は手元にあったセロハンテープでのり付けする始末だった。そんな急場しのぎでの応募だったから、市から認定通知があったときは山城も崎浜も「そういえばそんなものがあったっけ?」とまるで人ごとのような気分だった。地域特性を生かした商品を自治体が推奨品として認定する取り組みは全国各地で行われており、取り立てて珍しいものではない。それでも駆け出したばかりの2人にとって、第三者からの「お墨付き」は大きな自信になったことだろう。
 とはいえ、推奨品に選ばれたからといってすぐに売上に結びつくわけではない。地域のイベントに出展したり、親類や知人の口コミを通じてポツリポツリと個人客は増えていたものの、ホテルやみやげ品店などの取引先は5月になっても6月になっても一軒も現れなかった。電話口でにべもなく断られるのは営業マンのさだめ。富裕層の利用客が多くひそかに期待していたゴルフ場では「プレイ後はビールしか飲まない」と突き返されるなどニーズを読み違えることもしばしば。訪問までこぎつけたエステでは女性客と店員の怪訝な視線にさらされ尻尾を巻いて逃げ帰った。
 営業スタイルを変えてみようと、沖縄のビジネスマンらしくかりゆしウエアを着て営業に出向いたこともある。しかし、今まで以上に相手の食いつきが悪い上、崎浜曰く「何だかみすぼらしい」ので作戦変更。それなら一層のこと、飾らずに茶園にいるときと同じ格好で訪ねてみようと、結局は赤いつなぎに落ち着いた。
 そんな試行錯誤を繰り返しながら、ようやく8月になって、国際通りにある「ホテルJALシティ那覇」との取引が決定した。「宿泊客のほとんどは観光客。旅行者なら現地の食材を使った料理を楽しみたいと考えるもの」という総料理長の思惑と、山城らの紅茶作りの理念が一致したのだ。みやげ品としてホテル内に山城紅茶のパッケージが並べられ、レストランのメニューに「山城紅茶」の文字が加えられた。さらにランチタイム後のアフタヌーンティーを山城紅茶で楽しんでもらおうと「アイランドティーフェア」が開催されることになった。
 いちど流れが好転すると、不思議とその後も好調の波は続くものだ。9月以降になると道の駅やカフェ、ホテルなど続々と取引先が決定。メディアの取材も頻繁に増え、噂を聞きつけた大手飲料会社の視察客が茶園を訪問することもあった。
 そして10月には、沖縄県商工会連合会・各市町村商工会主催の「第10回特産品コンテスト」で「NO.909職人仕上げ」が優秀賞(食品の部)を受賞。その翌週に那覇市で開かれる「沖縄の産業まつり」への出展も決まった。産業まつりとは、沖縄の全産業から「ヒット商品の卵たち」が一堂に会し展示・即売などを行う県内最大の総合産業展。開催に先立ち、会場では特産品コンテストの授賞式が行われ、山城と崎浜はいつものように真っ赤なつなぎ姿で壇上に上がった。
 日によく焼けた顔をほころばせ、はにかむように表彰状を受け取る2人。背中に刻まれた「上等紅茶」の刺しゅうの文字が、「山城紅茶」の名を強烈に印象づけた。さぞ喜びは大きかっただろうと思いきや、
「非常に恐縮な話ですが、授賞式を迎えるまではそこまで大きな賞だと思っていませんでした。しかも“No.909職人仕上げ”をエントリーしたのは、一企業につき応募は一商品までという規定があったため、仕方なく選んだだけなんです。4種類の味を1セットにまとめた商品があれば、“山城紅茶”全体が受賞作になっていたはずなので、もったいないことをしたと今さら後悔しています」
 と山城は言う。この頓着のなさは産業まつりでも存分に発揮され、山城紅茶の展示ブースに客がまったく寄ってこないことを不思議に思い、その原因を考えていたところ、どこにも「紅茶」の文字が書かれていないことを発見。たまたまそこに転がっていた廃木に「山城紅茶」と大急ぎで書いて看板を設置し、ようやく他のブース同様にPRが行えたという。脇が甘いといえばそれまでだが、ビジネスにも茶目っ気は必要だ。それが山城紅茶の魅力の一つなのだから。




写真は2007年5月、うるま市推奨品の認定後に出展した地域イベントの展示ブースのようす


text:冨井穣




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