オー・ヘンリーショートストリーセエレクション マディソン街の千一夜/千葉茂樹・訳 和田誠・絵/理論社/2007年
おはなし会で、オー・ヘンリーの短編が話されていたのに刺激されて、さっそく読んでみました。
ショートといっても大分長いのですが・・・。
「それぞれの流儀」も楽しい。
ホームレス同然の暮らしをしている元警部と伯父から家を追い出された大富豪の息子。
その日に食べるものにも事欠く生活。
元警部「一皿のビーフィシチューのために人殺しだってやるし、浮浪者からウエハースだって盗む。一杯のチャウダーのために宗教を変えたっていい」
若い男「ぼくだってウイスキー一杯のためにユダ役を演じてもいい」
この元警部のところに耳よりの話をもってきた同僚。警察内部の権力争いに偽証してくれたら金をくれるという。食べるものにも事欠いている元警部だが、友だちを裏切ることはできないと、きっぱり断ります。
大富豪の息子にも耳寄りの話がもちこまれます。しかしこの男も伯父からすすめられている婚約話が継続しているときくと、大邸宅に帰ることを断ります。よほど嫌な相手だったようです。
そして二人ともパンの無料配布の長い列に並びます。
どん底の生活のなかで、どんなことでもやるというほど追い詰められていたのですが、人としての矜持を失わない二人の男に、おもわず拍手です。
ネルソン・マンデラ/作・絵:カディール・ネルソン 訳:さくま ゆみこ/鈴木出版/2014年初版
南アフリカのアパルトヘイト政策に反対し、投獄されても信念をつらぬき、大統領になったネルソン・マンデラの伝記なのですが、紙数の関係もあって かけあしなのが残念です。
当時の南アフリカで弁護士になるというのがいかに困難なことだったでしょうか。
学校でコーサ語の名前がつかえず、学校の先生は、ロリシュラシュラにネルソンという名前をつけたところからはじまります。
アフリカ民族会議(ANC)のリーダーだったネルソン・マンデラがロべン島にある刑務所にいたのは27年半。
想像を絶する年月です。刑務所の中でも本を読み勉強し、なかまの囚人をおしえています。
何よりも希望を失わず、戦い続け、そして勝利する・・・・。
涙がでてくる絵本です。こんな先人たちの思いを無駄にしないようにするのが、今に生きる私たちの義務でもあります。
加代の四季/作・杉みき子 絵・村山陽/岩崎書店/1995年
明日、学校でスキーがあるのに、使ったばかりの靴がびしょびしょで、お母さんが新聞紙をまるめていれておいてくれましたが、どうもスキー靴は明日まで乾きそうもありません。
どうしようと困惑するマサエに、おばあちゃんが「かわかなかったら、わらぐつはいていきなさい」と口をだします。
「わらぐつなんてみっともない。だれもはいている人いないよ。だいいち大きすぎて金具がはまらんわ」というマサエに「そういったもんでもないさ。わらぐつはいいもんだ。あったかいし、かるいし、すべらんし。それのわらぐつのなかには神さまがいなさるんでね」というおばあさん。
「めいしんでしょう」というマサエに、おばあさんは、わらぐつに神さまがいるという話をしてくれます。
昔、この近くの村に気だてがやさしく、いつもほがらかにくるくるはたらいて村じゅうの人たちからすかれていたおみつさんというむすめがすんでいました。
おみつさんが、ある秋の朝、朝市へ野菜を売りに行く途中、四つ角のげた屋さんに、かわいらしい雪げたを見つけます。はなやかな冬のよそおいが目の前にうかんでくるような雪げたでしたが、こづかいで買えるほどの値段ではありません。
いつもよけいなものなどほしいと思ったことのないおみつさんなのに、この雪げただけはどうしてもあきらめられないのです。
家に帰っておもいきって両親に頼みますが、小さい弟、妹も欲しいと言い出し、自分のねだりごとどころではありません。
そこで、自分で働いてお金を作り、あの雪げたを買おうと、おとうさんがつくっていたわらぐつを自分でも作ろうと思い、毎晩家の仕事をすませてからわらぐつづくりをはじめます
おみつさんは、心をこめてわらぐつをつくります。しかし、できあがったわらぐつは、われながら、いかにもへんなかっこうです。右と左のおおきさがちがうし、首をかしげたみたいに足首のところでまがっています。
家族からは「そんなおかしなわらぐつが、売れるかいなあ」と笑れ、朝市の日に野菜のはしっこに、わらぐつをおくと、「へえ、それ、わらぐつかね。おらまた、わらまんじゅうかと思った。」とさんざんでした。
「やっぱり、わたしが作ったんじゃだめなのかなあ。」とがっかりしたおみつさんが、お昼近くになって野菜もほとんど売れてしまって帰ろうとしたとき、ひとりの若い人が、「そのわらぐつを見せてくれ」と言います。いせいのいいねじりはちまきに大きな道具箱をかついでいてどうやら大工さんのようでした。
おずおずとわらぐつをさしだしたおみつさんでしたが、大工さんは「このわらぐつ、おまえさんがつくったのかね」とたずねてから、わらぐつを買ってくれます。
そのつぎの市の前までに、またひとつわらぐつをあみあげていくと、またその大工さんがやってきて買ってくれます。そんなことが何度も続くので、おみつさんは不思議に思って大工さんにたずねます。
「おらの つくったたわらぐつ、もしかしたら、すぐいたんだりして、それで、しょっちゅう買ってくんなるんじゃないんですか。」
すると、大工さんは、にっこりして「いやあ、とんでもねえ。おまんのわらぐつは、とてもじょうぶだよ」「ああ、そりゃ、じょうぶでいいわらぐつだから、仕事場の仲間や、近所の人たちの分も買ってやったんだよ 」。
「いい仕事ってのは、見かけで決まるもんじゃない。使う人の身になって、使いやすく、じょうぶで長持ちするように作るのが、ほんとのいい仕事ってもんだ。」
それから大工さんは、いきなりしゃがみこんで、おみつさんの顔を見つめながら、
「なあ、おれのうちへきてくんないか。そしていつまでもうちにいて、おれにわらぐつを作ってくんないかな。」
おみつさんは、ぽかんとして、大工さんの顔を見て、しばらくして、それが、おみつさんにおよめに来てくれということなんだと気がつくと、おみつさんの白いほおが夕焼けのように赤くなります。
「使う人の身になって、心をこめてつくったものには、神さまが入っているのと同じこんだ。それを作った人も、神さまとおんなじだ。おまんが来てくれたら、神さまみたいに大事にするつもりだよ。」
それからマサエは、そのおみつさんというのが、実は、おばあちゃんのことだということに気づきます。
あの、雪げたは、おしいれの箱に大事にしまってありました。
おみつさんが、およめにきたとき、すぐ、おじいちゃんが買ってくれたのでした。
三世代の家族、こたつのなかで昔話風におじいさんとのなれそめをさらりと話すおばあさん。絆が感じられる家族です。
市の日には野菜を売っていたおみつさん。わらぐつも編んで自給自足です。
確かにわらぐつはあたたかいし、雪を踏みしめる音もなんともいえません。雪国ならではの光景です。
いま、こんな素敵なプロポーズをしてくれる人がいるでしょうか。
むぎばたけ/作:アリスン・アトリー 絵:片山健 訳・矢川 澄子/福音館書店/1989年初版
日が暮れかけた夏の夕べ、せなかの針に夜風をかんじながらハリネズミは月夜の冒険にでかけます。ノウサギのジャックじいさん、カワネズミもくわわって。
どこへ?。麦の穂がのびるのをみるために。
お月さんのランプ、お星さんのロウソク。三つの影。
見渡す限りの畑をうめつくす小麦の穂と穂がこすれあい、さながらうみのひびきのよう。
ひそひそささやきまわすおしゃべり。
「これがすきでねえ。毎晩のように、ここまでくるんだ」と、ハリネズミがいいます。
小麦は
ぼくらは グングングン
おいしいパンになるために
そだつよ ズンズンズン
だいちのめぐみを すって
ぼくらはコムギだ
これからのびて
みんなにたべてもらうんだ
と歌っています。
「見えるぞ、息しているのが。みんな大きく息ついてら」とジャックじいさん。
「うちんとこの小川みたいに、さざなみだって、ひそひそさやさやいっている。」とカワネズミ。
三びきが耳に手をあて、麦のささやきを ながめているのをみると、本当に麦ののびるのが聞こえてくるようです。ここでは、ゆったりと時間が過ぎていきます。
自然の恵みを感じさせるのは、ハリネズミの「麦って のびて みのって とりいれのときをまつ。麦って、いきてるんだね。ぼくたちみたいに」という言葉。
「ムギって、いきているんだね ぼくたちみたいに」
三匹は回れ右して帰り道につきます。
自然のめぐみをあらためてかんじさせてくれます。
わすれた感覚を思い出させるのは「すばらしいランプが空にあって、ただで世界中をてらしてくれているのに、あかりをつけっぱなしだなんて、まったく気がしれないよ。いや、人間のすることって、わしにゃ、わけがわからん」とジャックじいさんの言葉。
自然からのメッセージを聞こうとしない、人間に対する皮肉も込められていました。
日本の民話1 動物の世界/瀬川拓男・松谷みよ子・編著/角川書店/1973年初版
きつねがでてくると人をだますことが多い。
きつねが化けるのは、もっぱら女性。
年頃の美しい姉さま、年増の美しいおなご。
人がきつねをいじめるというのも読んだことがなく、逆に、きつねはニワトリを食べたりするので、人間のほうがきつねをだましたいところ。
「広島のおさんぎつね」は伝説とあります。
広島の江波の川べりの一軒茶屋の笹薮に住んでいたおさんぎつね。
おさんきつねにだまされない者はほとんどないくらい。
お金を受け取ってあとで勘定してみると柴の葉というのはしょっちゅう。
姉さまからちょっと預かってといわれて、赤ん坊をだいていると、赤ん坊はいつのまにか大きな石に。
かとおもうと、目の前で娘に化けたきつねをおっかけていくと、いつの間にか馬の尻の穴をのぞいて、馬に蹴飛ばされたりとさんざん。
ある日、江波の土手を能役者が通りかかり、おさんきつねと化け比べ。
能役者は能面をとりだし次から次へと変身?したから、おさんきつねはほとほと感心。
「化けられる秘伝」を教えてくれといわれた能役者は、能面を包んだ黄色い布袋をちらちかせ、「この袋をかぶってぐるぐるまわせば、望みどおりに何にでも化けられる」と、口からでまかせ。
布袋をぐるぐるまわしたきつねは、それが命取りになるのですが・・・。
役者も人をだます仕事かもしれませんから、きつねをだますのは容易だったのかもしれません。
パパのカノジョは/作:ジャニス・レヴィ 絵:クリス・モンロー 訳・もん/岩崎書店/2002年初版
パパのあたらしいカノジョなのですが、なぜパパがシングルなのかは推測するしかありません。
ヤマアラシの髪で、スカートにスニーカーをはいて、一見カッコ悪いカノジョなのですが、娘からみると とても素敵なカノジョ。
カノジョは、テレビを消して話を聞いてくれるし、秘密は秘密にしてくれるし、ちらかしたって小言をいわないし、あれこれ命令しないし、くどくど説教もしない。
学校の学芸会では、一番大きな拍手、かけっこのゴールを、いつまでもまってくれ、ハロウイーンでは、ブロッコリーの衣装をつくってくれて一等賞。
じっくり子どもと向き合うカノジョ。
ついつい 小言をいってしまいそうな親には耳が痛い。
子どもというより 子育てをしている親にぴったりの絵本です。
サッカー、テレビゲーム、アイススケートも大好きな”あたし”。
そして、チューバをふいて、詩をよみ、すわったままねむり、ゲームには興味なし。金魚にむかってオペラをうたい、ベジタリアンみたいなカノジョとの微妙な距離が縮まっていくさまが、”あたし”の表情にあらわれます。
スペイン語も日本語も話すというカノジョは、なに者?
日本の民話1 動物の世界/瀬川拓男・松谷みよ子・編著/角川書店/1973年初版
「猿蟹」は、蟹がせっせと面倒を見た柿の木がうれたころ、猿が柿の実を横取りし、おまけに猿が投げた青い柿の実で蟹が死んでしまい、子蟹が、蜂、牛のくそ、栗、石臼の協力で猿に仕返しをします。
楽しいのは蟹が柿を育てるところ。
はよう 芽を出せ 柿の種、芽を出さんと ほじくるぞ
おおきくならんと はさみで切るぞ おおきくならんと はさみで切るぞ
はよう 実がなれ 赤くなれ ならんと根もとを ぶっきるぞ
リズムが楽しい。
「すずめの仇討ち」は、山姥に卵を食べられたすずめの子が栃の実、針、蟹、臼の協力で山姥に仕返し。
忠臣蔵を例に挙げるまでもなく、仇討というのはどこか日本的。
外国にあまり例がない。
協力者に臼がでてくるあたりも日本的でしょうか。
電信柱に花が咲く/ものがたり12ケ月 夏ものがたり/野上暁・編/偕成社/2008年
電信柱が木でできていた頃。今はクレーン車での電線工事ですが、少し前までは、柱を登って作業する光景が見られました。
一人のおてんばな女の子が、いじわるな同級生の男の子から手提げ袋をひったくりされ、角の電信柱にひっかけられてしまいます。
男の子とビー玉や縄跳びをしてもめったに負けず、学校でも家の近所でもかけっこはいつも一番だった女の子は、電信柱に登って、手提げ袋を手にしますが、降りるとき、もう少しのところで足を踏み外してしまいます。
次の日は学校を休みますが、玄関で音がするので外にでてみると、角の電柱に小菊やユキヤナギやエニシダなどを束ねた小さな花束が、電柱の木のひび割れたところにさしこんでありました。
それからも時々、電柱に小さな花束がさしこんでありました。
花束はいじめっ子がさしこんであったのですが、小学校を卒業するといつしか、花のプレゼントもとだえます。
二人とも社会人になったある日、角の電柱に花が咲きます。むかしのいじめっ子だったのです。
小学生の頃、好きだった女の子にどう接していいのかわからず、ちょっかいをだしたり、いじめたりというのは、だれしも一度は経験したことがあるのではないでしょうか。
そんな甘い思いでがよみがえります。
この物語は、電信柱の建て替えのお知らせをみた母親が、女の子に思い出を語るかたちで進行します。
玄関の戸があいて、「ただいま」と声がしたとき、お母さんがくすっと笑っていいます。
「ほらいじめっ子のお帰りだわ」
話を聞いた女の子が、電信柱がなくなる前の日に、紅白のつつじの花輪をぶらさげたのは、両親の思い出がある電信柱のお祭りでした。
電信柱から、こんな物語を紡いでくれる素敵なプレゼントです。
おてんばな女の子がちゃんとおよめにいければ、電信柱に花が咲くくらい不思議というのですが・・・。
タコラのピアノ/作・絵:やなせ たかし/フレーベル館/2013年
いつか図書館の中で、アンパンマンを読んであげている母親がいました。
借りていって、家で読んでもらってもいいのですが、まちきれないようでした。
子どもに大人気のアンパンマンですが、残念ながら読んだことがありません。
人生のなかで、出会える本は、ごくわずか。
やなせさんはテレビでときたまみるだけでした。
たこのタコラはピアノが上手。陸に上がって三年後には世界的なピアニストになりますが、いつのまにか忘れ去られてしまいます。
なぜ?
著名な音楽家が髪をもしゃもしゃしているのをみたタコラが、なんとしてでも髪をはやしたいと考えたのですが・・・。
優しい感じがするやなせさんの絵本です。
髪をはやそうと、何本もの注射を頭にうって、大粒の涙を流す場面は痛そうです。