どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

わらぐつのなかの神さま

2016年06月07日 | 創作(日本)

 

加代の四季  

    加代の四季/作・杉みき子 絵・村山陽/岩崎書店/1995年


 明日、学校でスキーがあるのに、使ったばかりの靴がびしょびしょで、お母さんが新聞紙をまるめていれておいてくれましたが、どうもスキー靴は明日まで乾きそうもありません。
 どうしようと困惑するマサエに、おばあちゃんが「かわかなかったら、わらぐつはいていきなさい」と口をだします。
 「わらぐつなんてみっともない。だれもはいている人いないよ。だいいち大きすぎて金具がはまらんわ」というマサエに「そういったもんでもないさ。わらぐつはいいもんだ。あったかいし、かるいし、すべらんし。それのわらぐつのなかには神さまがいなさるんでね」というおばあさん。
 「めいしんでしょう」というマサエに、おばあさんは、わらぐつに神さまがいるという話をしてくれます。

 昔、この近くの村に気だてがやさしく、いつもほがらかにくるくるはたらいて村じゅうの人たちからすかれていたおみつさんというむすめがすんでいました。
 おみつさんが、ある秋の朝、朝市へ野菜を売りに行く途中、四つ角のげた屋さんに、かわいらしい雪げたを見つけます。はなやかな冬のよそおいが目の前にうかんでくるような雪げたでしたが、こづかいで買えるほどの値段ではありません。
 いつもよけいなものなどほしいと思ったことのないおみつさんなのに、この雪げただけはどうしてもあきらめられないのです。
 家に帰っておもいきって両親に頼みますが、小さい弟、妹も欲しいと言い出し、自分のねだりごとどころではありません。
 そこで、自分で働いてお金を作り、あの雪げたを買おうと、おとうさんがつくっていたわらぐつを自分でも作ろうと思い、毎晩家の仕事をすませてからわらぐつづくりをはじめます

おみつさんは、心をこめてわらぐつをつくります。しかし、できあがったわらぐつは、われながら、いかにもへんなかっこうです。右と左のおおきさがちがうし、首をかしげたみたいに足首のところでまがっています。

 家族からは「そんなおかしなわらぐつが、売れるかいなあ」と笑れ、朝市の日に野菜のはしっこに、わらぐつをおくと、「へえ、それ、わらぐつかね。おらまた、わらまんじゅうかと思った。」とさんざんでした。
 「やっぱり、わたしが作ったんじゃだめなのかなあ。」とがっかりしたおみつさんが、お昼近くになって野菜もほとんど売れてしまって帰ろうとしたとき、ひとりの若い人が、「そのわらぐつを見せてくれ」と言います。いせいのいいねじりはちまきに大きな道具箱をかついでいてどうやら大工さんのようでした。
 おずおずとわらぐつをさしだしたおみつさんでしたが、大工さんは「このわらぐつ、おまえさんがつくったのかね」とたずねてから、わらぐつを買ってくれます。

 そのつぎの市の前までに、またひとつわらぐつをあみあげていくと、またその大工さんがやってきて買ってくれます。そんなことが何度も続くので、おみつさんは不思議に思って大工さんにたずねます。
「おらの つくったたわらぐつ、もしかしたら、すぐいたんだりして、それで、しょっちゅう買ってくんなるんじゃないんですか。」
 すると、大工さんは、にっこりして「いやあ、とんでもねえ。おまんのわらぐつは、とてもじょうぶだよ」「ああ、そりゃ、じょうぶでいいわらぐつだから、仕事場の仲間や、近所の人たちの分も買ってやったんだよ 」。
 「いい仕事ってのは、見かけで決まるもんじゃない。使う人の身になって、使いやすく、じょうぶで長持ちするように作るのが、ほんとのいい仕事ってもんだ。」
 それから大工さんは、いきなりしゃがみこんで、おみつさんの顔を見つめながら、
「なあ、おれのうちへきてくんないか。そしていつまでもうちにいて、おれにわらぐつを作ってくんないかな。」
おみつさんは、ぽかんとして、大工さんの顔を見て、しばらくして、それが、おみつさんにおよめに来てくれということなんだと気がつくと、おみつさんの白いほおが夕焼けのように赤くなります。
「使う人の身になって、心をこめてつくったものには、神さまが入っているのと同じこんだ。それを作った人も、神さまとおんなじだ。おまんが来てくれたら、神さまみたいに大事にするつもりだよ。」

 それからマサエは、そのおみつさんというのが、実は、おばあちゃんのことだということに気づきます。

 あの、雪げたは、おしいれの箱に大事にしまってありました。
 おみつさんが、およめにきたとき、すぐ、おじいちゃんが買ってくれたのでした。

 三世代の家族、こたつのなかで昔話風におじいさんとのなれそめをさらりと話すおばあさん。絆が感じられる家族です。
 市の日には野菜を売っていたおみつさん。わらぐつも編んで自給自足です。
 確かにわらぐつはあたたかいし、雪を踏みしめる音もなんともいえません。雪国ならではの光景です。

 いま、こんな素敵なプロポーズをしてくれる人がいるでしょうか。