どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

スズの兵隊

2022年09月02日 | 絵本(外国)

    スズの兵隊/アンデルセン・作 マーシャ・ブラウン・絵 光吉夏弥・訳/岩波書店/1996年

 

 ある男の子が誕生日のお祝いにもらったのは、スズの兵隊の25体セット。そのなかで一人の兵隊だけが一本足でした。スズが足りなくなったのです。

 スズの兵隊がいたテーブルの上には、ほかにもたくさんの おもちゃが並んでいましたが、そのなかに紙のお城があり、入り口には、モスリンのスカートをはき、両手を広げ、片足を高くあげていたバレエの踊り子がいました。そのむすめも一本足だと思い込んだ兵隊は、むすめに 恋をして、いつもじっと眺めていました。

 そんな兵隊に試練が訪れます。

 風が吹いて、三階から地面に落ちてしまい、どしゃぶりの雨があがると、男の子がつくってくれた舟にのせられ、溝を 流れ出します。

 溝から下水のトンネルを、どぶネズミにおいかけられ、運河をただよい、大きな魚に、パクリとのみこまれてしまいます。

 兵隊が魚のなかから でてきたのは台所。市場で売られた魚が調理されようとしたときでした。

 不思議なことに、兵隊は、もといた部屋に、ちゃんと帰ってきていました。

 踊り子は あいかわらず一本足でたち、兵隊を見つめ、兵隊も踊り子を見つめましたが、どちらも、ひとこともいいませんでした。

 そのとき、スズの兵隊は、なにがおこったのかわかりませんでした。ひとりの小さい男によって、ぽいと、ストーブのなかに 放り込まれてしまったのです。

 スズの兵隊は、からだがあつくなり、とけていくのがわかりました。そのとき、ふいにドアがあいて、風が吹き込み、踊り子が ストーブの兵隊のところにとんでいき、すぐに、めらめらともえあがって、きえてしまいます。スズの兵隊も、すっかりとけて、小さなかたまりになっていました。

 

 物悲しい物語。自分の気持ちを伝えられないスズの兵隊と、その兵隊をどうおもっていたか判然としない踊り子が あの世で結ばれたかのような結び。

 渡る世間は理不尽なことばかり。人間だと生臭くなるのも、人形で表現すると 距離を置いて眺めることこともできそう。

 「地面に落ちたとき、大声を出すのはみっともない」、「運河に落ちるとき、兵隊の勇敢な歌を思い」「魚のおなかのなかでも、しゃんとして、鉄砲をかつぎ」「踊り子に再会したとき、泣くなんて兵隊らしくない」と、どんな時でも、ほこりを失わない兵隊でした。


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