兵庫のむかし話/兵庫県小学校国語教育連盟編/日本標準/1978年
村に火事が出て、みんな一生懸命消していたが、あほうな男は、面白がって見物するだけ。火消しにどなられたが、それでも見ているだけ。家に帰って、えろう怒鳴られたというと、それを聞いた家の人が、「ぼんやりつっとらんで、水をかけるんや」と教えた。
二、三日して、そのあほうな男が、鍛冶屋がいっしょうけんめい火をおこしていたのを見て、「こりゃ、水や!」と桶の水をざあっとかけた。もちろん、鍛冶屋にさんざんおこられた。家の人に言うと、「そんなときはなあ、水かけたりせんと、槌でたたくんや」と教えられた。
それからまた二、三日して、村はずれにくると、若い衆が集まって相撲をとっていた。見物衆が、火を焚いているのを見たあほうな男は、教えられたとおりに、あわてて槌でたたきまわると、またえろうおこられた。そんなときは、「行司をするもんや。」とまた教えられた。
それからまた二、三日して道を歩いていると、道端でカエルが相撲をとっていた。「あ、そうや、そうや、こりゃ行司をせなあかん」というわけで、「はっけよい、のこった、のこった。」と、いっしょうけんめい行司をしていた。
それを見て、村の衆が大勢集まってきて、大笑いしたそうな。
散々な「あほうな男」ですが、最後のオチに救いがあります。