どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

五つ頭の男

2020年10月12日 | 昔話(ヨーロッパ)

     「ジプシー」の伝説とメルヒン/ハインリヒ・フォン・ヴリスロキ・著 浜本隆志・訳/明石書店/2001年

 

 復活祭にも働いているラドゥリ・ピシャタのところに、五つ頭の男があらわれ「聖なる復活祭の日にも働いているのか?」といいました。

 家族のためににもっと別の日に一生懸命働いて稼ぐこともできるだろう!という、五つ頭の男に、「あんたは気楽になんでもいえますがね! 頭が五つもあるんですから。ひとつしか頭のない、あっしより、たやすくものごとを考えることができるんです。家には十五人のこどもがおりやして、七人は目が見えないし、七人は耳が聞こえないんで。ねえ、あんた、金がたくさんいるんですよ。みんなを養うために、あっしはせっせとはたらきゃならないもんでさ!」と、ラドゥリ・ピシャタがこたえると、男は「神さまがなんじの仕事を祝福してくれますように」と言って、立ち去りました。

 ラドゥリ・ピシャタのおかみさんも、町で開かれる次の市で売る大小のほうきを編んでいました。そこへ五つ頭の男がやってきて「末の子どもを 殺すためにわしに差し出したら、わしがおまえたちの苦しみを取り除いてやろう」いいました。

 おかみさんが泣きながら、五つ頭の男に、末のこどもを渡すと、男はナイフで子どもを殺して、窓から通りに放り投げました。すると男は消えて見えなくなりました。

 さて、ラドゥリ・ピシャタのおくさんが、大きな声で泣き叫び、悲しみ始めた時です。

 耳の聞こえない子どもたちが「かあさん、外の通りで妹が泣いているのが聞こえるよ」と叫び、目の見えない子どもたちが走り出ていくと、妹が傷も負わず、生きたまま横たわっていました。

 それだけではありません。七人の子どもの目は見え、七人の子どもの耳はきこえるようになっていました。

 

 キリスト教では復活祭は最も重要な祭。そんなときでも働かざるを得なかったロマの人々。

 五つ頭の男は、障がいをもつ子どもたちを救う存在です。