・ちっちゃなゴキブリのべっぴんさん(子どもに語るアジアの昔話5/アジア地域共同出版計画会議企画 ユネスコ・アジア文化センタ・編 松岡享子・訳/福音館書店/180年初版)
この話を聞いたら、ゴキブリのイメージが一変するかもしれません。やや長めですが、繰り返しがありますから、長さは感じません。
ごきぶりのむすめっこが、おとっつあんにいわれてハマダーンの町のラーメザーンさんのところにでかけることに。 おとっつあんが年とって自分の面倒は自分でみなさいというのです。
ラーメザーンと結婚すると「脂のつぼも、蜜のつぼもいっぱいにして,白い小麦のパンを食べ、水晶のきせるで水たばこをすう」生活がまっているはずです。
むすめっこは、、とびっきりのおけしょうをし、タマネギの皮でできた、すきとおった綺麗なドレスをきて、ニンニクとナスの皮でつくった美しいもようのベールとショールをかぶり、リンゴの皮でこしらえた真っ赤なくつをはいてでかけます。
八百屋、肉屋、干草商から声をかけられ、結婚を申し込まれますが、ここでのやりとり。
むすめっこは、「よう、どこへいくんだい、ごきぶりのおねえちゃん?」と声をかけられ、「これはこれはおはようございます。かわいいお嬢さん。そんなきれいな赤いくつをはいて、いったいどちらにお出かけですか」と声をかけるよういいます。
結婚を申し込まれ、「結婚して、ふうふげんかになったとき、あんた、あたしのことなんでぶつ?」と問い、八百屋からは「はかりの分銅」肉屋では「肉切り包丁」干草商から「木の棒」といわれ、むすめっこは、つんと頭をのけぞらせ、気どって歩いていきます。
おめかししたネズミは、「ねどこは、ひざ、まくらは、うで」、けんかしたら、「しっぽのさきをアイシャドウのつぼにひたして、目のおけしょう」をしてくれるというので、むすめっこは、ハマダーンにはいかず、ネズミと結婚します。
むすめっこが、小川に落ちて、なんとかネズミにたすけられますが、ある日、なべをかきまわそうと身をのりだしたネズミは、煮え立つスープの中にポチャンと、おっこちてしまいます。
なべのなかに、だんなさまを発見したおくさんは、気を失ってしまい、それからはあらゆる結婚の申し込みをことわり、黒い喪服をぬぐことはなかったので、ごきぶりは、ずっと黒い服をきたままです。
むすめっこが、川から助けられる場面では、ネズミによせる愛情がたっぷり。ネズミも奥さんをいかに愛していたかもうかがわせるものになっています。
・蟻んこちゃん(スペイン民話集/三原幸久:編・訳/岩波文庫/1989年)
この話では、蟻が結婚相手をさがしていきます。
蟻が銅貨を見つけ、その銅貨でリボンと布地を買い、美しく着飾り家の窓辺に座ります。
羊の群れ、牡牛、犬、猫、バッタが通りかかり、結婚を申し込まれたとき、蟻は「夜には何をするの?」とたずねます。
羊は「ベー、ベー、ベ」、牡牛は「ムー、ムームー」、犬は「グアウ、グアウ、グアウ」、猫は「ミャウ、ミャウ、ミャウ」、バッタは「耳をくすぐってあげる」とこたえます。
これでは蟻が安眠ができません。
次にやってきたネズミが「イー、イー、イーと鳴きます」とこたえると、蟻は「気にいったわ、あなたなら子守歌を唄ってくれて、私はよくねむれるでしょう」と結婚に同意します。
ところが、このネズミも土鍋の番をして、よく煮えたか見ようとして鍋の中に落ちて溺れてしまいます。
近所の蟻は、時がくれば別の夫が見つかるとなぐさめますが、とうの蟻の心は、そんな言葉で慰められず、ずっと喪服を着て過ごします。
ゴキブリ、アリとネズミの組み合わせは、なかなか想像できないのですが、昔話特有のリズムを楽しむ話でしょうか。
ネズミがかわいそうですが、ネズミが亡くならないと由来話にはなりません。