おみきばばっちゃの夜噺/田島房子/文芸社/2006年
旅人が、今夜一晩泊めてくれる宿をさがして、何軒も断られるが、貧乏そうな家ででてきたのは女の人。
ここまでくると、泊まらしてくれた家には、何かいいことがおこるのが、昔話です。
しかし、この先、思わぬ展開をします。
空き家を紹介してくれたのはよかったのですが、そこには幽霊がでるという。
荒れ果てた家。なかは真っ暗。それでも我慢して囲炉裏に火をおこし、やっと一息。
夜中、だれかが泣いているような声がして、目を覚ました旅人。
幽霊は何やらぶつぶつ、しくしく また、ぶつぶつしくしく。
やっと聞こえるような声で「灰ならす、灰は浜辺の砂に似て・・・」
しくしくしくしく
そしてまた「灰ならす、灰は浜辺の砂に似て・・・」
旅人は、折角ええ歌の上の句ができたのに、どうしても下の句ができなくてないているにちがいないと、幽霊が「灰ならす、灰は浜辺の砂に似て・・・」といったとたん「囲炉裏は海か 沖(燠)が見ゆるぞ」と読み継いでやります。
すると幽霊はニコッと笑って、深々頭を下げて、壁のなかにすうっと吸い込まれるように消えてしまいます。
昔話に短歌がでてくるというのははじめてです。田島さんは49歳から短歌グループに入会していますから、そのことが反映されたのでしょうか。
朝鮮の昔話に杜甫が出てきてびっくりしたことを思い出しました。