みかん日記

省農薬ミカン園の様子や農薬ゼミの活動内容を伝えます。

6/30 『食と農の社会学』輪読会③

2017-06-30 22:23:40 | ゼミ活動
こんばんは!
『食と農の社会学』輪読会、第3週目です。

今週は第3章をおくむらが、第5章を私ながせが担当しました。

先に第5章「農薬開発 -ネオニコチノイド系農薬を事例として」について。

半世紀にわたる農薬の歴史において、新しい農薬は発売当初にはすばらしい効き目と安全性が強調され世界中に広まるが、数十年後にその危険性が明らかになる、ということが繰り返されてきました。有機塩素系農薬、有機リン系・カーバメート系・ピレストロイド系農薬、ネオニコチノイド系農薬という順に市場で主流となる農薬が変遷していく中で、EUなどに比べて日本の農薬規制が遅れていることを指摘し、予防原則の適用によるネオニコチノイド系農薬の使用規制を考えました。「農薬の毒性試験」「アキアカネの幼虫の減少」「農薬の空中散布」など、これまでのゼミでやった内容が5章に出てきましたが、私の準備不足でうまく絡めて議論できなかったことが心残りです。

農薬ゼミの活動と関連して、「特定栽培農作物」(=減農薬・減化学肥料で育てられた農作物)の基準の問題を取り上げました。現在のガイドラインでは減農薬栽培の基準を一般的な農業の使用回数の半分以下、と定めています。しかし農薬の使用量を使用回数で規制していることで、少ない回数で効果が持続するネオニコチノイド系農薬の使用量の増加を助長する結果を招いてしまいました。農薬の使用の規制の在り方は、その農薬の毒性・使用量・使用回数・散布方法など様々な要因をもって決められるべきだと議論しました。また、農家が農薬を使わざるを得ない原因の一つに、「きれいな食品」を求める市場の意識がある、との指摘がありました。これは先週の畜産に関する議論を思い出しますね。私たち消費者一人一人が、「食品の見た目が少し悪くてもかまわない」という意識を持たなければ、農薬の使用量は減らないのかもしれません。

個人的には、市の保健師でもあるいずみさんに、「国の特定疾患医療受給者証の交付のために窓口に来る(=難病を患っている)人がとても多いことを実感している」というお話を聞けたことが興味深かったです。近年増加している神経難病の原因として有機リン系農薬、ネオニコチノイド系農薬のような昆虫の神経系にダメージを与える農薬の関与が疑われていますが、農薬に関する疫学的調査はまだ発展途上にあります。これからも農薬が人体に及ぼす影響について勉強していきたいと思います。


次に第3章「地域ブランド -ふたつの真正性について」の発表を行いました。

この章では、真正性(authenticity)、テロワール(terroir)という用語を用いて、地域ブランドについて考えました。フランスでは、そこでの産品に特異性を与えている地域の独自性を表現するために、しばしばテロワールという概念が使用されます。その地域における人間の文化や物理的・生物学的環境など、1つには絞れない要素の相互作用と農作物のつながりが高付加価値を生み出すとき、このつながりをテロワールと表現します。グローバル化された経済における真正性には、その産品の生産仕様が規格化されて生まれるものと、生産者と消費者との密接な関係(例えば産地直送や農場での直売)から生まれるものとの2つのありようが示唆されます。しかしテロワール産品は、規格化しようにも、その産品のどの要素が真正性の根幹をなしているのか知るのが困難であることから、前者の真正性に対する逆説となり得るそうです。。。難しかったです。

本章での事例はフランスの各地域での取り組みが中心でしたが、おくむらくんが日本での地域ブランドの例として、「じゅんかん育ち」の農作物(=汚泥を発酵させたものによる肥料などを用いて栽培された農作物)や「特定栽培農作物」(=播種前制限ナシ、栽培期間中化学農薬・化学肥料の使用を半分以下にして栽培された農作物)を挙げてくれました。

日本で生み出されている地域ブランドの1つとして、和歌山減農薬みかんを登録している法人も存在しているようです。私たち京大農薬ゼミの省農薬みかんも上手にアピールしていきたいですね。

次週は第2章「多国籍アグリビジネス」をないとうが、第9章「中山間地域」をかわはらだが担当します。

ながせ


6/23『食と農の社会学』輪読会②

2017-06-25 23:46:25 | ゼミ活動
さて、『食と農の社会学』輪読会の2週目です。

今週は第4章をもりたが、第6章をないとうが担当しました。

第4章「近代科学技術」副題は、科学的生命理解の観点から。
生命思想というなじみのない話題に、読んでみて苦労したメンバーも多かったのではないでしょうか。

本章では具体例として遺伝子組み換え技術と有機農業を取り上げ、機械論と生気論の生命観の違い、因果論と目的論・還元主義と全体論の論理の違いから近代科学技術の歴史を振り返りました。

ゼミ活動を行い、時に意見をぶつけ合うこともある農薬ゼミで意見の背景にある思想を意識することは大変有意義です。
今回は、農薬ゼミの主張である「省農薬は可能である」、農薬ゼミが行っている調査、寄生バチの導入について改めてどういった思想・論理に基づいているか考えてみました。

議論の結果、「省農薬は可能である」は化学農薬への批判から生まれた主張ですが、果たしてそれが有機農業と同じような生気論的発想なのかどうかは疑わしい。調査は全体論よりの発想だろう。寄生バチの導入は定義的には機械論だが生気論よりでもある。と、何とも歯切れの悪い結論となってしまいました。

しかし、哲学初心者の我々としてはこうして議論して意識に残すことが大切なのではないかと思います。

第6章「畜産」
農薬ゼミと関わりが薄いかとも思われるこの話題ですが、実は和歌山もミカン農家で畜産を兼業することがはやったことがあり、省農薬ミカン園でも50頭ほどの牛が飼われていたそうです。このときのJAの対応やその後の衰退の話を交えつつ畜産問題を考えました。

畜産の社会学的な問題として、ミカンと同様市場を通すうち消費者とは必ずしも一致しない価値観(糖度偏重のミカン、霜降り肉)で価値が付与されることがあります。理想的・合理的な方向以外に進みうるのが政治経済の世界の怖ろしさかなと学生に身ながら考えてしまいました。

先週の食品残渣のリサイクルと関連して近年開発されたリキッドタイプの豚飼料の話が出ました。乾燥しない分エネルギー面で環境にやさしいけれども栄養面で劣るそう。今後の研究・開発に期待です。

来週は第3章「地域ブランド」・第5章「農薬開発」を、おくむら・ながせが担当します。
もりた






6/16 『食と農の社会学』輪読会①

2017-06-17 22:15:18 | ゼミ活動

こんにちは。

前期後半6/16から7/28までのゼミでは『食と農の社会学 生命と地域の視点から』(枡潟俊子、谷口吉光、立川雅司;ミネルヴァ書房;2014)を輪読します。

各週2名が担当の章をプレゼンし、6週で全12章(序章と終章は除く)を網羅します。各プレゼンでは、内容を踏まえて農薬ゼミの活動にどう活かせるか(内容によっては難しいので、個人、京大、京都など身近なレベルでどう活かせるか)考えるのが狙いです。

最初の発表は私、ふじいが第8章「ローカルな食と農」を担当しました。

有機農業や「オーガニック」という言葉は、もともと「地域に根ざす」「人と人とのつながり」という意味合いや、社会への変革力といったものを持っていました。しかし、食の「安心・安全」ばかりが先に立ち、有機認証制度をクリアするためだけの有機農業や、巨大なアグリビジネスに取り込まれた「産業化」した有機農業が蔓延し、「地域」「コミュニティ」「持続可能性」といったものからかけ離れていったのです。この現象は世界レベルで起こりました。

そんな動きに対抗するように、「ローカル・フードムーブメント」という、有機農業・「オーガニック」から失われてしまったそれら「ローカル」「コミュニティ」を取り戻そうとする動きが高まります。具体的にはファーマーズマーケット、CSAなどの広まりで、米国では「ローカル」「コミュティ」へのつながりが顕著ですが、日本ではそれに比べるとまだまだなのかもしれません。

農薬ゼミの省農薬みかんは、「生産者、消費者、環境に安全、安心」という当初の目的であったであろう取り組みとしては、ひとつのモデル作りを果たしたと考えます。しかし、「ローカル」「コミュニティ」という点で見ると、地産地消ではなく全国各地に輸送していたり、生産者と消費者の双方向のつながりもなく、地元下津町大窪の方々とも関わりがなく、果たして持続性があるのかと問われると疑問です。今回そのことに気づかされたことで、消費者の理解や交流、地元の方々との交流などを考えていけたらと思うようになりました。

次に、かわはらだから第7章「生ごみと堆肥」についての発表がありました。

ごみというのは人間の考え方、価値観によるもので、それに着目するのがごみの社会学ということです。

ごみ処理、特に生ごみ処理の理想は、「有機物の小さい循環」に帰着することです。食卓で出た生ごみが堆肥になり、土に還り、農作物になり、再び食卓へ。大きい循環であると、循環の間が不透明になるのでよくありません。

江戸時代では生ごみの処理はさほど問題にならず、糞尿の処理が一大事でした。糞尿は値段をつけられ売買され、郊外で堆肥化され再び農作物栽培に用いられるという地域内循環が徹底されていました。しかし、明治時代になり大規模な焼却処理、下水道の整備、化学肥料の使用、食料流通の拡大が起こり、生ごみを堆肥化してローカルに循環される仕組みは壊れ、ごみという終着点に向かう一方通行になってしまいました。

地域循環型農業の再生への取り組みとして、インドネシアのごみ銀行、セブンイレブンの取り組み、京都市の取り組みが紹介されました。

農薬ゼミとしては、省農薬みかんの皮が生ごみとなってしまう問題があります。防腐剤を使用していないので安心して皮も食べられるとして過去にニュースレターに皮も使うレシピを載せたり、新歓で皮入りみかんジャムをつくったりしていますが、もっと大きく消費者を動かす力はないものかと皆で頭を悩ませました。

次回は第4章「近代科学技術」第6章「畜産」です。
ふじい


6/9 通常ゼミ農薬月間④

2017-06-11 10:31:05 | ゼミ活動

こんにちは!

今週は農薬月間4周目ということで、ゼミメンバーによる農薬に関連したテーマフリーの発表は今週が最後です。

発表者は私 奥村と、菅野さんです。

この度私は、省農薬・無農薬栽培は日本ではマイナーであり、栽培も経営も難しいものであるという前提の下、「省農薬・無農薬園の経営を成立させるには」という発表をしました。

まだまだ不勉強なせいで経営学的な分析・切り込みということは叶いませんでしたが、(有)おりた園さん、(株)鎌田農園さん、(有)伊勢アグリトラストさん、地域共同組合無茶々園さんの4団体の実績を取り上げ、今後の日本農業における農園経営にはどのような要素が求められているのかを考察しました。

個人的には、農学は実学であるのでこのようなビジネスモデルから学ぶことは非常に有意義であると考えています。


一方、農薬月間通常ゼミ大トリを務められた菅野さんは「天然農薬」をテーマに発表されました。

「原点からの農薬論ー生き物たちの視点から」(平野千里;農山漁村文化協会;1998)を参照しながら、植物が体内で生成する天然農薬(他の特定生物に対する化学物質)の歴史や作用の説明、そして天然農薬を活かした防除方法についての紹介(ついでにご自身の研究も紹介)という内容で、非常に興味深いものでした。


来週以降のゼミでは、「食と農の社会学 生命と地域の視点から」(枡潟俊子、谷口吉光、立川雅司;ミネルヴァ書房;2014)を輪読します!


奥村

6/2 通常ゼミ農薬月間③

2017-06-04 10:11:29 | ゼミ活動
こんにちは。

農薬月間3回目ということで、発表者は私河原田と、社会人でゼミに参加していただいている飯塚さんです。

始めは私の発表で、「河川の農薬汚染」についてです。

今回は兵庫県環境研究センターが発表した「加古川水系における水田農薬の河川水質及び底質への汚染状況」というレポートを参考にさせていただきました。このレポートは、兵庫県を流れている加古川の上流・中流・下流において川を流れている水と底質、つまり川底の土壌からどれだけ農薬が検出されるかという調査です。

今回の発表ではこのレポートのデータをまとめただけという簡単なものになってしまいましたが、実際にこの農薬成分がこれだけの量流れているのは大丈夫なのか、人の生活や他の生物にどのような影響を与えるのかなどに絡めていければよかったと思います。今後これらについて調べてみようと思います。

また、水田農薬の河川汚染ということで、おまけとして稲作に使われる農薬も調べてみました。我々日本人の主食である米はどのようにして育てられているのか、どのような農薬が使われているのか、実際に調べてみるまで知らないことが多かったです。

次に、飯塚さんの発表で、「環境問題の研究手法」についてです。

スリランカの農薬問題を例にして、このような問題の研究はどのようにあるべきかという内容でした。例えば、環境汚染により人や自然に何らかの悪影響があったとして、日本ではそれについての対策の技術研究が主として行われるそうです。確かにこれはとても大切なことではあります。しかし、なぜそのようなことが起きたのか、つまり原因の究明も行わなければならないのです。根本的な問題を解決して、そもそもそのような問題が起こらないようにすることが大切なのではないかと思いました。

農薬の人体への影響の究明は困難なことです。なので、メカニズムの解明と同時に被害地域の観察データを吟味し、多面的な角度からの研究が必要です。


いよいよ来週は農薬月間最終週!自分の発表が終わったからといって気を緩めるようなことはせず、最後まで学べることをどんどん吸収していきたいです。

かわはらだ