はじめに
多くの日本人にとって酒は切っても切れない関係でしょうから、マレーシアにロングステイされる場合でも、”縁は切れない”ことだと推測します。そこでマレーシアの酒にまつわる話題を、以前書いたコラムに多少追加と修正をして、今回の記事として掲載します。マレーシアで販売されているまたは持ち込む日本産のビールや焼酎やウイスキーしか飲むつもりはないという方も(笑)、ここでひとつ知識?をつけておくのもいいのではないでしょうか。
【国教がイスラム教であっても多民族複数宗教国家である】
マレーシアは国教がイスラム教ですが、国の成り立ち上多民族複数宗教国ですから、飲酒及び酒類の販売は一般に認められています。一般にと書きましたのは、日本のようにどこでもいつでも飲酒でき、販売できるいうことにはならないからです。当然ながらムスリム主体の地区でコンビニやスーパーにアルコール飲料が並べられることはありませんし、ムスリム向け飲食店でアルコール飲料がメニューとして提供されることはありません。
注:スランゴール州の州都シャーラムはムスリムが住民の多数派です。ところが2009年ごろビール販売を始めたコンビニが増えたことで、マレーコミュニティーからの訴えで社会問題になりました。その後州政府や政党が介入して、自主的に売らないようにする、例え売る場合でもムスリム客の目につかないような販売方式にするという収拾策が発表されました。
しかし華人地区であれば、営業免許を得た酒屋が営業できますし、スーパーの棚にビールが並んでいることはごく普通です。 観光客の多いクアラルンプール中心部の商業地区でもこれは同じで、加えて購買層が多様であるため酒類製品の選択がぐっと豊富になっています。 クアラルンプールまたはその近郊にある一部のアップタウンではワインショップなども人気あるそうです。
【最も一般的なアルコール飲料はビール】
さてマレーシアで飲まれるアルコール飲料として最も好まれる、一般的なのはビールです。マレーシアのビール市場は昔からごく最近まで外国資本である 2つのビール醸造会社グループが市場を2分してきました。即ち、第1位の Carlsberg グループと 2位の Guiness・Anchor グループです。
伝統の強さを誇るCarlsberg ビール
次に2008年2月上旬に 英語紙Star 紙に載っていた記事から抜粋してみます:
マレーシアでビール市場占有率第一である Carlsberg ビール醸造マレーシアは今年は好調に復帰すると、自社予測をしています。「この何ヶ月か好調に反転して売り上げが増えました。」 「Carlsberg のマレーシアでの最も売れ人気ある ビールはグリーンラベル 製品です。最もよく知られており、最も長い間市場に出回ってきました」 「旧正月時期は華人ビール愛好家にとって大きな機会です。」 「今年の旧正月キャンペーンには、グリーンラベルの本来の色だけでなく、華人伝統の黄色と赤色も加えました。」
Carlsberg ビールの次の共同宣伝キャンペーンは、6月にある2008年ヨーロッパサッカー選手権です。 昨年11月から限定発売している Carlsberg 創立記念ビールは予想より良く売れました。 Carlsberg ビール製造マレーシアはさらに、メキシコ製 Corona ビールの販売、ライチ風味のシャンデーなどの発売も始めました。「マレーシアは世界で2番目にビール税率が高い国です。原材料の高騰も業界にとって逆風です」 とCarlsberg は訴える。
以上記事から抜粋
伝統の強みなのか、宣伝と営業の上手さゆえなのか、ビールを売ってる店や飲み屋ならどこでも目につくのが Carlsbergビールですね。 Carlsbergビールの中で最も普及品と思われる、グリーンラベル缶ビール 320cc 入りのスーパーなどでの2008年2月時点での小売価格は RM 6.5 前後です、尚店によって価格に多少の違いはあります。円価に換算すれば、1缶200円を超すことになります。他の飲食品物価に比してビール値段はかなり高いマレーシアですが、それにも関わらずよく売れているように見受けられます。非飲酒者の視点から言えば、多少割高でも酒飲みはいとわないということなんでしょうね。
Intraasia注:この一文を書いた2008年当時に比べて、2011年時点では上記価価格より高くなっている。
【ビールコマーシャル・広告が許されるメディアと許されないメディア】
テレビではビールを含めてアルコール飲料の宣伝は全く許されませんが、英語紙と華語紙ではアルコール飲料の広告が頻繁に載っています。そしてその大多数はビール会社による広告です。新聞以外に目に付くビール広告といえば、非ムスリム向けの大衆食堂と屋台の店名看板または品目看板に大きく添え書きされたビール製品名や店の壁に貼られたビール製品ポスターでしょう。いうまでもなく、ムスリム用大衆食堂と屋台にこの種の広告はありません。
シネプレックスでは毎上映回前に各社のビールコマーシャルがしつこいぐらい上映されます、もっともマレー映画の場合は違います。都会のシネプレックスに足を運ぶ映画鑑賞層にビール愛好家が比較的多いということなんでしょうか? とにかくシネプレックスで映画を見る度に、ビール会社のコマーシャルを”見させられます”。 ところでそのコマーシャルの作り方には西欧的調子が非常に鼻につくと感じるのは多分イントラアジアだけではないはずです。タイではテレビでもビール宣伝が盛んですが、西欧的調子ではありません。
上記に掲げた 「マレーシア産ビール」 の中でも書きましたように、当時はもちろんそしてつい最近までマレーシア独自のビール醸造は行われていませんでした。Carlsberg グループもGuiness・Anchor グループもスランゴール州にビール醸造工場を持ってビール醸造販売していますが、いずれも海外資本のためいわゆるライセンス生産ですね。つまりどの製品もマレーシアブランドのビールではありません。
【初のマレーシアブランドのビールが登場した】
イントラアジアは次に載せた記事を読むまで、マレーシアには独自のビール醸造会社はないものだと思っていました。しかしそれは間違いだと知りました。2008年2月上旬の華語紙「東方日報」に載った記事から抜粋翻訳します:
マレーシア製ビール Jaz beer の名前は華語の 「傑士」 をそのまま訳したものです。製造会社 Napex Corporation Sdn Bhd の社長は語る、「マレーシア人は 地元ビールJaz を支持して欲しい、そしてマレーシアビールが海外に進出できるように力を合わせましょう。」 外国のものは素晴らしい という態度は不要です、それが国産品をのけ者にしてしまう。」 社長は Jaz Beer の品質を確信し他の有名ビールに伍していくとしています。「Jaz Beer は市場の他のビールに比較して10%から20%は安い。しかし品質は同じであると保証します。値段が安いことは我社の方策です。Jaz Beerのアルコール分は5.5% 、市場の他のビールより0.5%アルコール分が高い。」
Jaz Beer は2007年5月に初の市場出荷を行いました、宣伝戦略では半島部北部と南部では好評でした。町部ではいろんなところですでに販売されています。今後クアラルンプールに進出します。 社長は語る、「わが社の計画は販売チェーン網を全国に拡大していき、マレーシアのビール市場に食い込んでいきます。」 「販売量は毎月伸びています今後の展望は良い。都市部はまだだが、各地の町部には浸透していきます。」 「Jaz Beerを飲んだ人が友人など人づてに直接紹介していくという戦略です。すでに多くのレストランでは Jazビールを提供しています。レストラン主などによれば、Jazビールを一度飲んだ客からは次に指定があります。味は変わらず安い。これが消費者がJaz を受け入れてくれる原因です」
会社経営陣は社会から提議された疑問に対して強調する、「わが社は営業免許を取得しています、そしてビール生産を許可されています。完全に合法です。」 Napex Corporation Sdn Bhd のビール工場は、スランゴール州ポートクランにあります。 取材のために工場を訪れた、華語紙 東方日報の記者は最後にこ書く、「(華語紙として一番最近に創刊された)東方日報は華語紙の中で最も伸びている新聞です。Napexの場合を見ると社員一同でマレーシア第一級のビールにしようという努力を感じる。 Jaz ビールが、東方日報と同じく将来マレーシアで最も伸びるビール銘柄になるであろうと信じます。」
以上記事から
イントラアジアはこの記事を読んだ時、えー、マレーシアで地元ビールの生産が始まっていたとは、とかなりの意外感を持って驚きました。ビールがよく飲まれる場である中華レストランなどにはこの何年もほとんど縁がないので、地元ビール出現を全く知りませんでした。読者の中には、すでに飲んだよ、という方がいらっしゃるかもしれませんね。 イントラアジアは決して禁酒主義者でも嫌酒主義者でもありませんが、身体が受け付ける酒量は限りなくゼロに近い非飲酒者なので、ビール味のことは全く語れません。ただ初の地元醸造ビールと知れば、一度ぐらいはコップ半分ぐらい味見してみたいものですなあ。
Intraasia注:しかしながら2011年の現在に至るまで、スーパー(複数)の棚にこのJaz Beerが並んでいるのを目にしていません。推測するに、そのビール会社は一般消費者相手の小売よりも、中華レストラン、酒場主体のビジネス方針を取っているのでしょう。
【マレーシアに地酒・地ウイスキーはあるのだろうか】
マレーシアに地酒・地ウイスキーはあるかという問いに、イントラアジアはあまり自信を持っては言えませんが、一応あると答えておきます。というのも以前クアラルンプール中心部にある古びた酒屋の店先にマレーシア産酒と思われる小瓶が置いてあるのを何回も目撃したからです。いずれも日本酒の一升瓶のような大きなビンではなくウイスキービン程度であり、いかにも地酒風の時代遅れのデザインのビンでした。また一部の酒販売免許取得店舗では、多分マレーシア産らしきウイスキー?の小瓶を売っていますね。
推測するに、こういう地酒・地ウイスキーは半島部のどこかの華人町で昔からほそぼぞと製造されてきたのではないだろうか。味の面でも宣伝面でも輸入酒・ウイスキーに適うはずのない且つ酒造業免許を取得するのが極めて極めて困難となった現今、新たに酒造するような地酒製造家はもう出現しないでしょう。
【椰子酒 Toddy】
地酒といえば言えないことはないでしょうが、どちらかというと”どぶろく”と呼んだ方がぴったりとするのが、椰子酒 Toddyです。Toddy は白っぽい臭いの強いココナツ酒ですね。臭いを嗅いだだけで味の強さが推定されてとてもイントラアジアには飲めないですね。プランテーション農園がその発祥であり、その労働者が主たる消費者のようです、よって一般にインド人労働者階級の大衆アルコール飲料と捉えられています。 2007年11月ごろ、新聞に載った記事から抜粋してみます。
Toddy はココナツの木の発芽している若い花房から得た甘い樹液で、アルコール分を含む飲料です。少数の人たちにとって依然として人気ある飲み物です。とりわけプランテーション農園などを訪れると、仕事後の男たちが集まってToddy を飲みながら談笑しているのを見かけることでしょう。 ココナツプランテーションのオーナーでToddy製造業者は説明する、「ビールよりも安く、発酵してからすぐできます。1リットル当たり RM 1.50で販売しています。ビールの約10分の1の値段です。」 「多くの人が密造酒かまたはsamsu だと誤解しています。Toddyの製造に蒸留過程はありません。すべてナチュラルです。ただ違法なココナツ取りが水とサッカリンを加えて、Toddyの名前を汚している」
Toddy製造の免許を得るのは極めてたいへんであり、スランゴール州の KualaLangat郡ではこの製造者のほかは1人だけしか免許を受けていません。普通のココナツ木は樹液を、樹齢50年ぐらいに達するまで出すとのことで、木が若ければより甘くなるとのこと。 「しか木を好む、それは樹液が濃くなり味も異なるからです。」 採取した白い樹液には非常に甘くアルコール分は含まれていません、味はちょっとピリッとします。集めた樹液をプラスチックの容器に入れて、農園へ運びます。
「樹液は2時間置いておくと発酵します、最高アルコール分4%の芳香のあるワインになるのです。アルコール分を高めるために1日置いておくこともできます、長く置けばおくほど酸味がより増します。」
以上記事より
Toddy を売っている場所はごくごく限られているはずで、酒類販売免許を持ったスーパーや酒屋で探しても見つかる可能性はないでしょう。イントラアジアはクアラルンプールに昔からある古びた木造の Toddy酒場を知っています。他にもクアラルンプール内にあるのかどうかは知りませんが、ない可能性の方が高そうです。この Toddy酒場はなんとクアラルンプールの有名地 Bukit Bintang から至近距離の場所にあるので、いくらその場に昔からあって転居を拒んだとはいえ、その存在自体が奇跡的ともいえるぐらいです。
看板も一切なければ店舗らしい外観にも欠けます、しかし夕方、週末ともなればたくさんのインド人が集まって来て飲んでいます。店の外にはたくさんのバイクが停めてあり、さらによくタクシーが何台か停めてあります、もちろん勤務を終えたであろう運転手が飲んでいるのですよ。外から眺めると、インド人客に混じって華人も1、2割りぐらいその中に混じっています。まさにどぶろく酒場といった風情です。
Intraasia注:2011年の現在でもこのToddy酒場は営業しています。
若い時からほとんどアルコール類を飲まない、でもいくつかの国でホステスのいるクラブやラウンジやカラオケなどに一時期よく出入りしたIntraasia のお酒にまつわる話題でした。酒飲みでなくても、酒の話題はお伝えできるのです(笑)。
おしらせ
2015年に書いた新しい記事 『マレーシアで醸造して販売されているビールに関するうんちく』をクリックしてご覧ください。