このところ円高である。2011年7月の時点でマレーシアで1万円を両替するとRM 370前後入手できる。大都市にある、よく知られた公認両替屋なら銀行の現金売り買いレートより多少良いレート(1パーセントぐらい)で両替できるが、外為市場でのレートは常に変動するので、ここでは幅を持ってRM 370前後と言っておこう。
いうまでもなくマレーシアの外為市場は世界の外為市場を忠実に反映したものなので、ドルやユーロや円の上がり下がりによって、リンギットの対日本円為替レートは日々変動している。いわゆる外為専門家の間でも、翌週のドル相場、円相場、ユーロ相場など外為市場の予想にはかなりの幅がある。ましてや1年先、3年先の相場など誰もわからないし、どんな専門家も保証を伴った相場予想などできないことを、我々は経験的に知っている。
だから現時点で1万円を両替してRM 370を得られても、3年後にはそれがRM 300に目減りする可能性もあるし、一方変動の中でその時偶然にRM 370で両替できることも可能性としてあるでしょう。
このため手持ちの余裕資産または近い将来の受給年金またはその両方を資金として、海外ロングステイをしようと計画または希望されている方々にとって、外為相場はまことにやっかいである。しかしそれを完全にヘッジする方策はまずないはずですから、真の富裕層を除いて、外為相場に多かれ少なかれ翻弄されながら海外ロングステイすることになりますね。
イントラアジアは去年(2010年)、平均的厚生年金受給者の年金収入額は年額201万円、つまり月額16万7千円という数字を知りました。そこでこの金額を基にして、当ブログの2010年10月30日付け記事『平均的厚生年金受給額でマレーシア中流生活ができる』で机上の検証をしてみました。この平均的な厚生年金月額を受領する年金生活者であれば、夫婦2人で贅沢生活は無理だが、それなりに快適なマレーシアロングステイができるであろうことを述べました。
しかし世の年金受給者は厚生年金受給者ばかりではないし、厚生年金受給額がこの額に満たない人も相当多いとみられます(理論的にはあと数年で支給されるイントラアジアの受給見込み額など、わずか10分の1程度だ)。
そこで今回の記事では、掛けた年金種を問わず受給額の合計で年額200万円も受給できないか受給見込みのない方々、あるいは自己資産引き出し額で年間200万円もとても引き出せない方々を対象として書くことにしました。
【世帯所得分布の下位にある人でもプログラムに参加できるだろうか?】
最近日本の新聞に載っていた統計に目が止まりました。厚生労働省が2010年に調査した、2009年1世帯あたりの所得統計です。
平均世帯所得は549万円だそうですが、統計の常で平均何々という数字はあまり実態を示しません。その証拠にこの平均世帯所得額以下の世帯が全体の61.4%を占めています。つまり高所得世帯の総額によって平均額が上方に引き上げられていることがわかります。なお65歳以上だけの世帯の平均所得額は308万円です。
そこで世帯所得区分別の数字を参照するのが、実態を知るにはよりふさわしいといえるでしょう。
100万円未満: 5.9%
100万円から200万円:12.6%
200万円から300万円:13.5%
ここまでで計 32%
300万円から400万円:13.1%
400万円から500万円:11.1%
ここまでで計 56.2%
500万円から600万円: 9.4%
600万円から700万円: 7.5%
これ以上は省略
全世帯の約3分の1である(32%)300万円未満の階層でも、果たしてマレーシアロングステイは可能であろうか?
プログラム参加申請時に口座残高がRM 35万以上あることが前提条件
現在日本に保有している口座において、普通預金であれ、定期預金であれ口座の種類は問わず、申請者(50歳以上)のまたはその配偶者を含めた口座残高合計額でRM 350,000 (35万リンギット)以上あることが、マレーシアマイセカンドホームプログラムに参加申請できる前提条件になります。まだ退職してない人であればマレーシア国外を源泉とする月収がRM 1万あることが条件となっています、これは例えば家賃収入でもいいはずです。
でも承認条件では次の選択ができますから、退職しておれば年間の世帯所得額が300万円以下でも申請は可能だと捉えてもかまわないでしょう。
当局が承認する際の条件
・マレーシアにある銀行に定期預金口座を開設して RM 15万を預ける、
または
・政府認定の年金額が毎月 RM 1万あることを証明する
年金のみの受給者であれば年金受領月額がRM 1万を下回らないということです。現時点でのレートは1万円がRM 370、よってRM 1=約27円、つまり1万リンギットは約27万円に当たります。
この条件を満たすことのできる年金受給者はかなの少数だと思えわれますから、マレーシアの銀行にRM 15万の定期預金をするという条件の方を選ばれる申請者が多いことでしょう。現時点のレートなら405万円ほどの預金用資金が必要だということになりますね。
ただ申請前の条件である、日本の口座にRM 35万相当以上の預金額(日本円にして950万円)があることという条件をすでに満たしてしているわけですから、その額から405万円を引き出すことは、理論的には可能ですよね(もちろん現実には個人個人の事情がある)。
以上のことから、(以前はもっと所得があった人を含めて)世帯所得が低い層でも理論的にはマレーシアマイセカンドホームプログラムに申請し、参加する道はあります。
ただし、預金などの流動資産がないと上記の条件を満たせないことになりますから、低所得階層では楽ではないことはわかります(流動資産のないイントラアジアには無理ですな)。
【マレーシア社会におけるRM 15万と35万の持つ重みを考える】
ところで口座残高RM 35万相当とか定期預金額RM 15万という金額ですが、一体マレーシアではこの金額は一般家庭にとってどのような重みを持つのでしょうか、少し説明しておきます。
マレーシアの労働人口は1100万人ぐらいです。その内公務員が約120万人を占めます。つまり1割以上の比率です。なおマレーシアに国家公務員と地方公務員の区別はありません。全て公務員 penjawat awam です。
公務員は最終学歴によって職務、職位、給与等級が厳然と区別されています。学歴の下から上に従って給与等級とその支給額をみていきましょう(マレーシア語紙 mStarを参照)。
N1等級からN16等級:PMR(中学第3学年生対象に実施される全国統一試験)で基準点以上を獲得した者
初任基本給 RM 647
生活手当て RM 100-300
住居手当 RM 180
公共サービス付加金 RM 85
N1等級の最低支給額:プラスαを加えてRM 1,224、最大支給額 RM 2,236
N17等級からN26等級:SPM(中学第5学年生対象に実施される全国統一試験)で基準点以上を獲得した者)
初任基本給 RM 820
生活手当て RM 100-300
住居手当 RM 180
公共サービス付加金 RM 130
N17等級の最低支給額:プラスαを加えてRM 1,395、最大支給額 RM 2,784
N27等級からN36等級:STPM(中学第6学年生対象に実施される国立大学入学資格試験)合格者またはカレッジなど非大学の高等教育機関の修了者、これをDiploma レベルと呼ぶ。
初任基本給 RM 1,100
生活手当て RM 100-300
住居手当 RM 180
公共サービス付加金 RM 160
N27 等級の最低支給額:プラスαを加えてRM 1,824, 最大支給額RM 4,025
1クラス省略
N41等級からN54等級:大学卒(学士である者)
初任基本給 RM 1,688
生活手当て RM 100-300
住居手当 RM 180
公共サービス付加金 RM 300
N41等級の最低支給額:プラスαを加えてRM 2,540, 最大支給額RM 6,070
Intraasia注:マレーシアの学制は小学校6年制、中学校5年制、その上が高等教育です。中学第6学年へ進学するものは5年生の1割程度だ。つまり11年間教育で高等教育機関へ進学できる道がある。ただし多くの国内外の大学は大学前段階予備教育の修了を条件としている。
一般論としていえば、公務員の給与は民間よりも低い、これは公務員身分の安定性からいえばある程度納得のいくところでしょう。しかしながら民間は千差万別ですから、公務員給与より低い職場は全然珍しくない。
人数からいえば「N1等級からN16等級」に次いで多い階層である「N17等級からN26等級」の人たちを見ると、初任最低支給額はRM 1,395です。もちろんいつまでも初任給のままではありませんが、この等級クラスで勤務開始30年後に支給額がRM 5000位まで上がるなんてことはありませんので(各クラスの最大支給額をご覧ください)、RM 15万という額はかなりの額ということがわかります。ましてRM 35万は個人が受ける給与額だけではまず貯めることが不可能な額と言えます(給与全額を預金すれば可能でしょうけど、それは非現実的ですね)。
参考までに公務員のトップ役職者への支給月額をあげておきましょう。
首相:RM 22,826、 大臣:RM 14,907、
RM 1,395に「1万円がRM 370だからRM 1=約27円」という現時点でのレートを掛け算しては、決してマレーシア社会での位置づけが見えてきません、それは国内物価などの因子を無視しているからです。RM 1,395という額は日本社会における37,665円と決して同じ重みではありません。
長々と公務員の給与を例に取り上げて説明しましたのは、RM 15万という額がマレーシア社会でどういう位置づけになるかを皆さんに知っていただきいためです。
【月額8万3500円の予算額をマレーシア社会にあてはめてみる】
さて今回のブログは上段で述べましたように「掛けた年金種を問わず受給額の合計で年額200万円も受給できないか受給見込みのない方々、あるいは資産引き出し額で年間200万円もとても引き出せない方々を対象」としていますので、マレーシアで手元に用意できるお金が、平均的厚生年金受給者の年金受給額つまり月額16万7千円の半分程度だという方の場合をみてみましょう。
この額8万3500円はN41等級からN54等級:大学卒(学士)の初任給額より多少良いレベルになります(現時点での為替レートならRM 3,090)。試しに為替が20%ほど対リンギット円安に進んだ 1万円 =RM 300の場合でも RM 2,505ですから、8万3500円という額の位置づけがある程度おわかりになりますね。
大卒初任給RM 2,540はマレーシア全体の勤労階層における月収額から見て低いとは言えません。すぐ下で説明しますように、8万3500円は現在の好為替レートで両替するとRM 3,000ぐらい、円安になった為替レートで両替してもRM 2,500ぐらいを得ることができますから、マレーシア社会の水準からいえば中位程度の収入額とみなせます。
ここでもう一つ統計を使います。2009年頃におけるマレーシア人家庭の月間世帯収入額とその割合を示しておきます。以下の数字は世帯収入額と全体に対するその割合です。
RM 1000以下:8.6%
RM 1001 - 2000:29.4%
RM 2001 - 3000:19.8%
RM 3001 - 4000:12.9%
RM 4001 - 5000:8.6%
RM 5001 - 10,000:15.8
RM 1万以上:4.9%
そうするとRM 3000ぐらいが全体のちょうど中位点あたりに位置することがおわかりでしょう(下から3つの階層の合計割合は57.8%を占める)。
結論的にいえば、8万3500円という額は、為替レートの変動を織り込んでも、公務員の大学卒初任給額よりやや多く、マレーシア全体の世帯所得分布の中位点ぐらいに当たるということです。この額では十分快適に暮らせるとは言えませんから、控えめに暮らすことになります、しかしそれは決して”かつかつの生活”ではありません。
【額としては十分ではないが、かつかつの生活にはならない】
月予算額8万3500円は、マレーシア生活はマレーシア社会でいえば中の上でなければならないというロングステイ希望者にはもちろん不十分な額です。ただ今回のブログでの想定対象者は、平均的厚生年金受給者の半分程度しか受給できない方、または年間所得300万円ほどの低所得層の方ですから、イントラアジアがここで説明していることがおわかりになっていただけることだと期待しています。
マレーシアに住むようになった当初の数ヶ月間は、賃貸料敷金やもろもろの物品の購入費などのため、それなりに費用がかかりますが、その後はこの予算月額つまり8万3500円で暮らしていくことは、可能です。そしてマレーシア社会においてその生活が決して下位クラス(下から3分の1の範囲)にあたらないこともおわかりでしょう。
都市に暮らす場合と地方で暮らす場合では生活費に当然違いはありますし、個人個人の期待度と許容範囲に差があることはいうまでもありません。十分なるロングステイ資金があるまたは準備できる方は別にして、十分とはいえない額しか準備・用意できそうにない方であっても、適応性と実行力さえあれば(これは必須です)、控えめなロングステイができることを、イントラアジア自身の長年の実践を裏づけにして理論的に説明してみました。