経済は生き物ですから、不動産業界ももちろん景気の影響を受け、さらに業界特有のいくつかの要因によって昇り調子と降り調子を繰り返していることは、皆さんもご存じのことです。マレーシアの不動産業界も当然この例外ではありません。
そこで日本で伝えられる日本語で発信されている二次ニュース、代理業者の観点から捉えた情報、だけしか目にされない方が多いようですから、そういう方たちは、生き物としてのマレーシア不動産界の動向を知る機会がごく少ないことになります。
もとよりIntraasia としてもあらゆる情報を知ることにはなりませんし、例え知ることができたとしても正確な状況把握と絶対確実な予想は無理であることは言うまでもありません。これは不動産専門家であっても程度の差はあるが同じことでしょう。
そういう前提の下でIntraasia は、恐らく日本人読者の方が眼にされることは少ないであろう、というニュースをより注視しています。
当ブログでは『マレーシアの住宅不動産ニュース』カテゴリーで住宅不動産業界のニュースを載せてきました。そしてもう少し具体的には、『マレーシアの住居知識と情報』カテゴリーで様々な情報を載せ且つ解説しています。
さて毎週多くの住宅不動産ニュースが現れる中で、2014年は2013年とはいささか異なった調子のニュースが目立つようになりました。その中から、当ブログの『マレーシアの住宅不動産ニュース』と『マレーシアの住居知識と情報』で以前載せた記事に関連するニュースを選んで、今回の記事としました。下記の2つの記事は2014年2月中旬にマレーシアマスコミに載った記事の抜粋です。
【ジョーホール州は住宅不動産の供給過剰になるかもしれない】
ジョーホール州の不動産市場、とりわけ(開発特区である)Iskandar Malaysiaでは住宅供給があまりにも急に且つ大量に提供される例になるかもしれません。
不動産プロジェクトの開始と高価格が普通のことになっているジョーホール州では赤い旗が掲げられている。中国の(複数の)デベロッパーによる絨毯的建設を含めて、新規プロジェクト開始のペースが、維持できるであろうよりも多い数の住宅数を伴って市場を溢れさせています。
ジョーホール州不動産と住宅デベロッパー協会の議長は語る、「我々は中国などからの外国デベロッパーを歓迎します。しか不動産市場に住宅を大量に供給して氾濫させることは不動産の過剰を生み出すことになりかねない。」
(公的な機関である)全国不動産情報センターの発表する最新データが次のように示している:ジョーホール州で近い将来建設される新住宅の数は、州の現有戸数である70万2千戸の実に42%にもあたる。
ジョーホール州の市場がちょっとした困難に見舞われている時に、州内では完成間近い30万戸が建設中であるかまたは計画段階にある。
全国不動産情報センターのデーターはさらに示す: ジョーホール州では2013年の第3四半期において 116,859戸の住宅は既に建設が始まった、また162,579戸はまだ建設が始まっていない、さらに 16,168 戸は建築許可が既に出されている。
アナリストは次のように分析する: 州での新たな住宅供給には Iskandar Waterfront Holdings Bhdが売出し開始するプロジェクト分は含まれていない。そのプロジェクトのおかげで新たな供給数は4千戸を超え、2017年までは供給数が高い数にあることが予想される。
新規住宅の供給はジョーホール州で高騰する住宅価格に抑えが利かないかのようです。 新規プロジェクト開始分における価格は、より名声の確立しているクアラルンプール圏で販売されているのと大よそ同じくらいか、それよりも高い値がついている。 住宅の新規供給とその高価格はジョーホール州の住宅価格に明らかに影響を及ぼしている。
ジョーホール州不動産における平均的住宅価格はこの5年間で45%ほども上がった結果、2009年の RM136,034から2012年には RM197,147になった。比較のために見ると、マレーシア国内の平均住宅価格はこの5年間で30%上昇して、RM 248,515になった。
リサーチ会社の Hwang-DBS Vickers Researchは記している:「最近ジョーホール州の Nusajaya, Medini, Danga Bay, Johor Baruで開始された新規プロジェクトでの住宅価格帯は平方フィートあたり RM 600から 1000です(平米あたり約RM 6600-11000)。中でも最高級ユニットは平方フィートあたりRM 1500(平米あたり約 RM 16600)になる。」
「ジョーホール州の住宅が供給過剰になることを想定すれば、中国を基盤とした複数デベロッパーが最近開始したすごい戸数の住宅売出しは憂慮感を起こしています。」
参入してきた中国基盤のデベロッパー Country Garden Holdings Co Ltd.は一挙に9千戸のアパートの新規売出しを始めたことで、多くの人を驚かせました。このため、それがジョーホール州の市場にどんな影響を及ぼしていくかを、マレーシアのデベロッパーに注意深く見守らせることとなった。
ジョーホール州不動産と住宅デベロッパー協会の議長は確信する、「外国デベロッパーが開発プロジェクトで自由裁量を与えられていると、このような多量で大規模な新規売出しは、不動産バブルを引き起こしかねません。」
「ジョーホール州不動産と住宅デベロッパー協会は、ジョーホール州政府が規制を設けることを期待しています、その規制とは市場の需要に見合うように、1年間に建築する戸数の数に制限を設けることです。」 と議長は語る。
上記のHwang-DBS Vickers Research は表明する、「中国デベロッパーの Country Gardenがジョーホールバルの Danga Bay地区だけで一挙に9千戸も新規に売り出すのは過剰を生み出すことになりかねない、もっとも今後3年から4年は建設資材と建設労働者に余裕がないことを考えれば、(その住宅を)完成させて引き渡すことは困難なことであるだろうが。」
アナリストたちは次のように心配する:「こういうデベロッパーは中国におけるゴーストタウンを再現してしまうでのはないだろうか、もし Iskandar Malaysiaで建築過剰が起これば、それは中期的に現実の不動産市場全体に弊害をもたらすことになる。」
しかしながら、不動産専門家の中には、もし(複数の)外国デベロッパーがマレーシア人購入者だけを対象にするよりもむしろ外国人購入者を引き付ければ、更なる供給は問題とはならないだろう、と考える人もいます。
中国デベロッパーCountry Gardenは、マレーシアにおける初プロジェクトとしての Danga Bayプロジェクトでは2013年8月に開始した売り出しで、総戸数の約70%を見事販売しました。その中国デベロッパーCountry Garden は当新聞社の質問に電子メールで次のように返答してきました、「その内の約3千戸はマレーシア人が購入しました。」 「一方外国人購入者においてはシンガポール人が50%、中国人が45%を占めた。」 「売り出した戸数の多くが1か月以内に売れました。」
以上
【クアラルンプール圏で入手可能な住宅】
クアラルンプール圏で住宅を購入するには世帯の平均月収がRM 14,580 必要であることが、最近の調査で分かりました。
この調査は、Sime Darby Property Bhd がマラヤ大学構築環境学部と共同で行いました。その際には現在の世帯消費傾向と、住宅価格と住宅ローン金利を考慮に入れました。
調査で分かったこと
・購入者の一部層は、戦略的な地区に興味を持っており、その人たちの世帯月収の56倍にもなる価格の住宅を手に入れることができる。
・この層の人たちはまたその世帯収入の最高26%までを住宅ローン支払いに回すことができる。
・そこでは、価格的に入手できるだけでなく価値が上がっていく可能性を持っていると考えられる、クアラルンプール圏の戦略的地区を特定している。そういう地区: Nilai, Denai Alam, Bukit Jelutong、 Bukit Subang などです。
調査報告書には次のように書かれている: クアラルンプール圏の選ばれた複数地区の住宅は、2軒目の住宅に投資しようと考えている住宅所有者には依然として入手可能である。
都市福祉と住宅と地方自治体省大臣は”住宅と収入指標”のお披露目式で語る、「”住宅と収入指標”及び主な調査結果を我が省で再検討しています。 我々はこれらの情報は価値あるものだと捉えている。なぜなら政策立案者とデベロッパーが一致協力しながら、入手しやすいだけでなく価値が上がっていく住宅をさらに建てていくことに役立つからです。」
この調査を行った Sime Darby Property Bhd は述べる、「調査結果からわかったことを基にすると、クアラルンプール圏で計画中の住宅プロジェクトの 68%は入手可能な範疇にある。」
”住宅と収入指標”は住宅オーナー像を、とりわけ住宅購入に関して世帯収入と支出パターンを、より良く知ろうという狙いで開発されました。
この調査では 1529人の返答者があり、その内1183人が自宅所有者です。その人たちの居住地は次の12地区です(注:全てクアラルンプール圏): Bukit Jelutong, Denai Alam, Bukit Subang, Bandar Bukit Raja, Subang Jaya, USJ, Putra Heights, Ara Damansara, Mont Kiara, Melawati, Kajang 、Nilai.
返答者 1529人のプロフィール
・民族: (マレー人主体の)ブミプトラ 68%、華人 30%、 その他 2%
・年齢層: 31歳から40歳 35%、 41歳から50歳 31%、51歳から60歳 18%、21歳から30歳 12%、その他
・性別:男性 73%、女性 27%
・職業別:民間で被雇用 59%、 自営・個人業 20%、公務員 14%、その他
・支出区分:運輸交通費 16%、食費 15%、住宅ローン支払い 14%、その他のローン 15%、子どもと教育費 7%、預金 12%、その他
報告書のデータから:上記の12地区において、その地区で住宅を購入するに必要な最低限の世帯月収
最も低い地区: Melawati RM 9,360、 次いで Nilai RM 9,430, Bukit Subang RM 9,670.
最も高い地区: Mont Kiara RM 200,160、次いで Bukit Jelutong RM 17,310, Subang Jaya RM 15,660.
以上
直上の記事では、調査対象者がほぼ中流層に限られています。クアラルンプール圏の住民の皆がこういう範疇に入るなんてことはありえません。
そこで2013年後半と2014年1月初旬にマレーシアマスコミに載った記事から抜粋して次に載せますから、国民の所得実態を知る手掛かりになります。
【世帯の平均月間収入を調査した統計から】
統計庁は2012年に世帯収入調査を行いました。調査にあたって全国の4万4千世帯を訪問したとのことです
その調査では、世帯の平均月間収入はRM 5000でした。2009年の平均月間収入はRM 4025でした。
全国の世帯平均月収: 2009年 RM 4025、 2012年 RM 5000、 年率 7.2%増
都市部の世帯平均月収: 2009年 RM 4705、 2012年 RM 5742、 年率 6.6%増
田舎部の世帯平均月収: 2009年 RM 2545、 2012年 RM 3080、 年率 6.4%増
またこれとは別の記事で発表された、首相府直下にある経済計画部の統計から示します。全国及び主な高所得地域における世帯の平均月収の推移
1995年: 全国 RM 2020、 KL RM 3371、ジョーホール州 RM 2138、ペナン州 RM 2225、
1999年: 全国 RM 2472、 KL RM 4105、ジョーホール州 RM 2647、ペナン州 RM 3128、
2004年: 全国 RM 3249、 KL RM 5011、ジョーホール州 RM 3076、ペナン州 RM 3531、
2007年: 全国 RM 3686、 KL RM 5322、ジョーホール州 RM 3457、ペナン州 RM 4004、
2012年: 全国 RM 5000、 KL RM 8586、ジョーホール州 RM 4658、ペナン州 RM 5055、
【イントラアジアのコメント】
いつも主張することです、平均値は実態を見えにくくします。本来は中央値を用いるべきだと思う。 中央値を取れば、上記各項目で平均値より下の値になるはずです。
それはとして、1999年から2012年までの13年間で全国平均がほぼ倍増していますね。ごく一部の年を除いて、毎年所得が上昇する傾向にある、中進国マレーシアらしいところです。
単身世帯数は少ないので、世帯員の合計収入にすればかなりの額になる。月収RM 5千あれば都会暮らしでも一応中流生活ができます。 クアラルンプールの2012年の値がずば抜けて高いのが注目される。なおクアラルンプールを取り巻くスランゴール州ではKLの平均より2割程度少ない。
ジョーホール州の世帯平均月収から判断すれば、上段の記事【ジョーホール州は住宅不動産の供給過剰になるかもしれない】で言及されているような、高級住宅を購入できる層はかなり限られていることがお分かりになるでしょう。
Iskandar Malaysia内で建築された及び建てられる高級な新規住宅は、相当割合を外国人投資者・投機者に依存せざるを得ない。仮にそのほとんどを外国人投資者・投機者が購入したとしても、実際に彼らがそういう住宅に住むわけではないから、賃借者を見つけなければならない。ではIskandar Malaysia内で高級住宅を賃借できる人たち、マレーシア人であれ外国人であれ、がごく近い将来十分増加していくのであろうか、という疑問が湧いてきます。
もう1つ2014年1月にマレーシアマスコミに載った記事から抜粋して紹介します。
【マレーシア国民間にある貧富の差が拡大している】
貧富間の差を見たとき、マレーシアはアジアでその深刻度が高い国の1つです。 例えばマレーシアのジニ係数は、世界銀行の統計で2009年が 0.462です。 なおマレーシア官庁の出している数字では 0.441になる。
Intraasia 注:ジニ係数の説明をネットや書籍で探せば、所得・資産分配の不平等度さを示す指標の一つという説明が載っている。係数は0と1の間の値をとり、値が1に近づくほど不平等度が高くなる。例えばある国において1人の国王だけに莫大な所得があり、国民の誰もが所得なしの場合の係数は1、一方ある国において国民各人の所得が全て等しいという場合の係数は0となる。もちろん係数1と0は単なる理論値です。
参考までに日本のジニ係数は「OECD諸国 2008年の統計」によれば、0.321と書籍に書いてあった。
次はアジア開発銀行の調査からです: マレーシアの貧困人口の比率は、1990年の10%から 5%を下回るまでになった、2004年には5.7%、2009年には3.8%。 ただし都市部と田舎部での貧困比率を比較すると悪化しており、その差は4.9倍にもなる (下記の統計を参照)
マレーシアの平均月間世帯収入を3つの階層別に比較
1980年: 下位40%世帯 RM 377、 中位40% RM 1016、 上位20% RM 3354
2008年: 下位40%世帯 RM 1222、 中位40% RM 2957、 上位20% RM 8157
マレーシアの貧困水準以下の人口割合 -2009年時点
全体の3.8%になる、 その内で都市部では1.7%の比率、田舎部では8.4%の比率です。
参考:2010年のタイでは、 全体の7.8%が貧困水準以下であり、都市部では3%、田舎部では10.4%の比率になる
【イントラアジアのコメント】
このような記事もよく読んでいれば、上の記事中の記述である「クアラルンプール圏で住宅を購入するには世帯の平均月収がRM 14,580 必要であることが、最近の調査で分かりました。」 という部分をどう捉えればいいかがわかってきます。