隠れキリシタンとお納戸様Ⅱ
作: 界 稔
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「 武吉殿 隠さず申し上げる。
先ほど岬の寺から源次が持ち出した品を、私が密かに取り返しておいた。この品は、もしやご禁制に関わるものではあるまいか??
私には誓って他意はないし、他言もしておらん。
武吉殿なら事の仔細をご存知であろう。話してはくれまいか?」<o:p></o:p>
尋常でない八乃進の様子に、覚悟はしていた武吉であったが、目の前にお納戸様を出されて、狼狽しないわけは無かった。
「 こ、これは・・・
如何なる次第でこのようなものが、八之進様の手に? 」
夕刻からの次第を、加奈と辰爺さんの身を危ぶむ気持ちから源次の後を付け、掛け軸を盗み出してきたこと、危惧することが当を得ているなら、力になりたいこと等を八之進が語ると、意を決したように武吉が語りだした。
「 そうでしたか、
源次の様子に気をつけるように言い置いていたのですが、迂闊なことでした。 八之進様に取り戻して頂いたこと、本当に不幸中の幸いです。
お礼を申し上げます。
お察しのとおり、この品はご禁制の祈りの品です。
この村の者は天主様の信仰に帰依しています。もちろん私もそうです。加奈や平太の親もそうでした。
ご禁制になったとしても、私たちの信心は変わりようも無いのです。人の心を縛り付ける事が出来ようもありません。
私たちは人知れず、私たちの信仰を守っていこうとしていただけなのです。
手酷い御支配様の在り様に、主への信仰心だけが支えともなっているのです。
多久島の者供の厄災も、直訴への懲罰だけじゃなく、ご禁制に触れた者への見せしめでもあるのです。
私たちの信仰と何より私たち村人全員の為に、今申し上げたことを、お支配様から守り抜かねばなりません。 今後どうするかは私たちで何とかいたします。八之進様にこれ以上ご迷惑をかける訳には参りません。ただ、これまでの事、私がお話した事などを他言なされぬようお約束頂ければと重々にお願い申し上げます。」
「わかりました。
もちろん他言などご心配無用に存じます。
それと、私に出来ることがあれば、ご遠慮には及びません。加奈殿や平太と出会ったことも何かの導きかも知れません。
今は、源次の動きが心配です。」
八之進は、加奈や平太の親を失った心細さと、武吉や村人の誠実な信仰へ思いに、自分の心を寄せられそうな気がしていた。<o:p></o:p>
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