あの日、街は騒然としていた。
明日は決戦の日だと‼
僕らは、その熱気に浮かされていた。
成田 三里塚 強制代執行前夜。
極左党派の前衛メンバーだった彼と3時間語り合った後だった。
腹を空かせた若者に腹一杯食べさせたいと先代店主が始めた、ヒマラヤを型取った山盛りのカレーは、僕を一度で虜にした!
スパイスの辛味と香りの底に苦味を感じる独特のルーと甘いチャツネ。
コクと異国の香りのギーが後味を残す。
辛口ムルギーカレーに汗だくの僕らに、「大丈夫ですか?」と厨房からわざわざ顔を出して気遣う老店主が居た。
あの時はまさしく人生の大転機だったのかも知れない、激しく緊張の3時間だった。
結局のところ、三里塚への彼の誘いを拒絶したのだ。
もう彼とは二度と会えない気がした僕は、そのまま別れ難く此処に誘ったのだ。
激しく、今は戦うべき時だと説いた彼とは、この夜のムルギーカレーが最後の時だった。
完黙を貫いたと聞いた。 その後彼の消息は途絶えた。
老境にあり、再び訪れたムルギーカレーには、あの親父さんの笑顔も今はなく、心なしか柔らかな味に変わっていたが、あのヒリヒリした時代を呼び起こす味として確かに在った。
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