国際医療について考える

国際協力という分野に興味を持つ人たちとの情報共有、かつ国際協力に関する自分としてのより良いありかたについて考える場所。

マラリア予防 (短期渡航者)

2008-10-06 | Malaria
Malaria Prevention in Short-Term Travelers.
David O. Freedman, et al.
New England Journal of Medicine. 2008 Aug;359(6):603-12

HPA 2007 Guidelines for Malaria Prevention in Travellers from the United Kingdom.

症例提示:
南アフリカで9日間のサファリを予定している3人家族。父親は31歳、抗うつ薬の服用を最近開始した。妻は29歳で、妊娠15週。子供は7歳。

背景:
アメリカでのマラリア輸入感染は年間約1500例報告され、2006年には6例の死亡症例がある。ほとんどのマラリア輸入症例は旅行者ではなく、家族や親類を訪れる移民(VFR)に発症している。
100以上の国でマラリアに罹患するリスクがあり、WHOのWorld Malaria report 2005参照。
マラリアは多彩な症状を呈するが、特に旅行者の発熱では典型的な周期性の熱型を示さないことに注意が必要。熱帯熱マラリアの潜伏期間はほとんど9-14日であるが、予防内服を行っていた場合約95%の症例で30日以降に発症する。
この論文では3週間以内の短期旅行者のマラリア予防を対象とする。

一般的に現地住民より旅行者の罹患率は低いが、サハラ砂漠以南地域ではどのような生活様式でも罹患リスクがあり注意が必要である。またマラリア罹患のリスクは渡航の場所、渡航期間、予防薬服用順守度、防蚊対策、活動様式等に左右される。

予防方法:
行動予防
DEET使用、長袖長ズボン使用、蚊帳使用。

予防内服
クロロキン耐性増加のため、クロロキン予防内服の有効地域はMexico, areas of central America (west of the Panama canal), the Caribbean, East Asia, a few Middle Eastern countriesのみ。
その他の全ての地域ではatovaquone/proguanil, mefloquine, or doxycyclineがCDC, WHOによって推奨されており、熱帯熱マラリアに対して95%以上の効果を持つ。
mefloquine耐性のマラリアは一部の東南アジアに認める。Atovaquone/proguanilは副作用の少ない薬剤であるが長期使用では費用を考慮する必要がある。
Chloroquine, mefloquine, and doxycyclineは最初のマラリア感染を予防せず、肝臓でのmerozoiteが放出され赤血球に感染したtrophozoiteに対して効果を発揮する。そのため、蚊との接触から4週間以上の内服継続が必要となる。しかし、atovaquone/proguanilは血液中だけでなく肝臓においてもマラリア原虫が繁殖するのを妨げるため、蚊との接触から1週間以降は内服の必要がない。

Atovaquone/proguanil, doxycyclineは予防が必要な期間の1-2日前に服用を開始すべきである。Chloroquineは1週間前からの予防内服が必要となる。Mefloquineは副作用をみるために少なくとも2週間以上前からの予防内服を開始すべきである。突然の不安、うつ傾向、落ち着きのなさ、混乱等の症状があれば服用を中止し、別の薬剤に変更する必要がある。

妊娠
妊婦では重症化しやすく危険が増加する。WHO, CDCは妊婦がマラリアのある地域へ渡航することを推奨していない。どうしても渡航が必要な妊婦に対してはmefloquineが選択となるが、妊娠初期での影響は明らかでないため、渡航を延期することが望ましい。また20%DEETは、有効時間が短く頻回に使用する必要があるが、妊娠に対して安全であることが示されている。

小児
ほぼ成人と同様であるが、doxycyclineの8歳以下への使用は推奨されていない。また体重に合わせて薬剤量を調整する必要がある。30%以下のDEETは小児にも安全であるとされているが、それ30%以上では副反応は検討されていない。

後期再発
卵形マラリア、三日熱マラリアは数週間から数か月後にHypnozoitesによる後期発症をすることがあり、アメリカでも年間数百例が報告されている。Hypnozoitesに対する予防内服は評価が難しく、明らかなリスクがある場合は旅行後にprimaquineを15mgx14日間服用(三日熱は地域に応じて30mgx14日間)することが有効であるが、実際にはあまり行われていない。

Primaquine
肝臓でのschizontsとhypnozoitesに作用する効果によって全ての種類のマラリアを予防可能であり、primaquineを予防内服の第一選択に挙げる研究者もいるが、G6PD欠損を持つ人では溶血の原因となるためG6PD欠損の有無を使用前に検査する必要がある。

☆メフロキン(Mefloquine)によるマラリア予防
予防方法:250mg(1錠)を1週に1回内服(体重>45kg)、生後3ヵ月 or 体重6kg以下の子供には推奨されない、体重6-16kgでは1/4錠、16-25kgでは1/2錠、25-45kgでは3/4錠に容量を調整
使用期間:流行地域に入る2-3週前から流行地を出て4週間後まで
副反応:神経精神症状、消化器症状
薬物相互作用:抗てんかん薬、降圧薬(βブロッカー、Caブロッカー)、クロロキン
予防効果:約90%
使用禁忌:精神疾患の既往、痙攣の既往、アレルギー、飛行機の操縦士
- メフロキンは1989年以降、3000万人に服用され膨大なデータがある
- 予防内服において痙攣や精神症状等の重篤な副反応が起きることは稀で、6500~10,600人に1人とされる
- 重篤ではない不眠、悪夢、興奮性、抑うつ等の神経精神症状は200~500人に1人に生じるとされ問題になることがあるが、メフロキンを内服していない渡航者にも同様の症状を生じることがあり詳細が不明である部分もある
- 鮮明な夢を見るヒトは15~25%にも上るとされるが、一般には許容範囲のものである
- 全体の95%の旅行者は滞在期間中のメフロキン内服を最後まで予防内服することができる

☆ドキシサイクリン(Doxycycline)によるマラリア予防
予防方法:100mg(1錠orカプセル)を1日1回内服
使用期間:流行地域に入る1-2日前から流行地を出て4週間後まで
副反応:光線過敏、カンジダ腟炎、食道炎(大量の水と内服して予防する)
薬物相互作用:カルバマゼピン、フェニトイン、ワーファリン、シクロスポリン、避妊薬、腸チフスワクチン(24時間休薬が必要)
使用禁忌:8-12歳以下の子供、妊婦、授乳婦、アレルギー
使用注意:肝機能障害、SLE、筋力無力症

☆マラロン(Malarone®:Atovaquone plus proguanil)による予防
予防方法:proguanil 100mg/atovaquone 250mg(1錠)を1日1回内服(体重>40kg)、体重10kg以下の子供には推奨されない、10-20kgでは1/4錠、20-30kgでは1/2錠、30-40kgでは3/4錠に容量を調整(小児用の1/4容量の錠剤あり)
使用期間:流行地域に入る1-2日前から流行地を出て1週間後まで、長期使用は一般に1-3ヶ月まで、34週使用の報告あり。
副反応:10%に消化器症状(下痢、嘔吐)、8.5%に精神神経症状、腎機能障害、口腔内潰瘍(特にクロロキン併用時)
薬物相互作用:リファブチン、リファンピシン、メトクロプラミド、テトラサイクリン、ART(indinavir, zidovudine)、マグネシウム塩、ピリメサミン
予防効果:90%以上
使用禁忌:妊婦、授乳婦


結論:
父親と子供はマラリアに罹患する可能性がある地域に移動する2日前から7日後までatovaquone/proguanilを内服(父親はdoxycyclineの選択もあり、mefloquineはうつ病のため禁忌、子供は容量を調節)、妻は旅行そのものを控えるべきであるが、渡航を主張する場合にはmefloquineを2週前から4週後まで内服。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 予防接種方法・効果(概論) | トップ | HIV患者の母乳栄養と母子感染 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

Malaria」カテゴリの最新記事