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ロタウイルスワクチン [Rotavirus Vaccine]

2010-06-17 | Vaccine 各論

 

途上国では、5歳未満の小児を中心にロタウイルス感染によって年間52万7千人以上の死亡者
日本国内で年間79万回の外来受診の原因
[Kawamura N, 2011]

WHOによるロタウイルスワクチンのポジションペーパー(2009年以来のthe WHO Strategic Advisory Group of Experts on Immunization (SAGE)による改定)
2008年には推定で45万3千人のロタウイルス腸炎関連による死者
ワクチンがない時代はロタウイルス腸炎による200万人以上の入院患者
RV5の使用で3年間まではロタウイルス腸炎の入院予防の効果あり
特に南アジア、東南アジア、サハラ砂漠以南アフリカで、定期接種化の優先度が高い
ORS、母乳栄養、亜鉛摂取などもワクチン同様に重要
[WHO position paper 2013]

1998年に4価の弱毒化経口ワクチン(RRV-TV, RotaShield®)は1998年に認可され、50万人の子供に接種されたが、腸重積との関連(1/10,000)のため市場から消えた
新たな弱毒化経口ワクチンRV1, RV5が1999年に開発され、7年間の研究後に米国で認可された
日本では2011年7月11日、厚生労働省医薬品第2部会でRV1 (Rotarix®)が承認され同年11月21日に発売開始。
2012年1月18日にはRV5(Rotateq®)が承認、2012年7月20日に発売開始。

6ヵ月から2歳時に問題となるウイルス性腸炎の病原体で時に重症化する
全乳児のワクチン接種がthe Centers for Disease Control and Prevention (CDC), the American Academy of Pediatrics (AAP), the American Academy of Family Physicians (AAFP), the European Society for Pediatric Infectious Disease (ESPID), and the European Society for Paediatric Gastroenterology, Hepatology, and Nutrition (ESPGHAN)で推奨されている。

Pentavalent human-bovine reassortant vaccine (PRV, RV5) 商品名:RotaTeq®
2006年に米国で認可
2011年10月31日日本で承認
ヒトに対して弱毒であるが交叉反応のある牛の株WC3を用いて、外殻にヒトの主な抗原であるG1, G2, G3, G4, P1(8)の血性型蛋白をエンコードした遺伝子を含む
効果:
REST試験で11カ国68038人の健康な乳児に使用され、重症のG1-G4ロタウイルスによる胃腸炎に対する効果は98%, 全ての重症胃腸炎に対しての効果は74%で、評価は臨床スコアに基づいて評価された[J Pediatr. 2004 Feb;144(2):184-90.]
ワクチン接種後、2度目のシーズンにおける重症のG1-G4ロタウイルスによる胃腸炎に対する効果は88%、全ての重症胃腸炎に対しての効果は63%
G1-G4ロタウイルス胃腸炎による入院を96%減らして、全ての胃腸炎による入院を59%減らす
G1-G4ロタウイルス胃腸炎による救急外来受診を94%減らして、全ての胃腸炎による救急外来受診を86%減らす
注意:
経口ポリオとの同時接種は推奨されない[J Pediatr Gastroenterol Nutr 2008; 46 Suppl 2:S38.]
初感染では部分的な免疫しか獲得できないため、既にワクチン接種前にロタウイルス胃腸炎に罹患した乳児においてもRV5を開始、完遂すべき
腸炎を罹患している幼児、腸重積の既往がある乳児、血液製剤を使用した乳児では注意を要する
含有するセロタイプ:G1, G2, G3, G4, G6, P[5], P[8]
接種容量:2 mL
使用形態:そのまま使用可
接種回数:3回
推奨スケジュール:2, 4, 6ヵ月
初回接種時期:6週~12週(欧州), ~14週(米国)
15週以降にワクチン接種を開始しない(ACIP)
最小接種間隔:4週
最終接種時期:6ヵ月(欧州), 8ヵ月(米国)
Oral applicator:ラテックスフリー


RV5導入後の報告:[NEJM 2011]
RV5導入以前の米国では、毎年、5歳未満の小児約40万人がロタウイルスの感染による下痢で外来を受診し、20万人が救急部門を受診し、5万5000人が入院していた。死亡も20~60人程度報告されていた。

MSCCAEデータベースを用いて、RV5導入前の01年7月から06年6月までと、導入後の07年7月から09年6月までにおける、5歳未満の小児の下痢に関連する医療サービスの利用状況を比較。
08年12月31日までにRV5の接種を1回以上受けた小児は、1歳未満が73%、1歳児は64%、2~4歳児は8%で、5歳未満全体では32%。

5歳未満の小児の下痢による入院率は、01年7月~06年6月が1万人・年当たり52、07年7月~08年6月が35、08年7月~09年6月は39で、01~06年に比べ07~08年には33%、08~09年には25%減少。
下痢による救急部門受診率は、01~06年に比べ07~08年には9%減少、08~09年は2%減少。

これら3つの期間のロタウイルス感染による入院率は1万人・年当たりそれぞれ14、4、6。
年齢別に比較すると、07~08年には1歳未満群、1歳群、2~4歳群の減少率はいずれも70%を超えていたが、08~09年には2~4歳群のみが26%と小さい値を示した。

08年と09年の流行期(1~6月)の医療サービス利用状況を非接種群と接種群の間で比較。
非接種群に比べ接種群の下痢による入院率は、08年が44%、09年が58%低く、ロタウイルス感染による入院率は08年が89%、09年も89%低かった。
下痢による救急部門受診はそれぞれ37%と48%、下痢による外来受診は9%と12%低かった。

周囲の小児が接種を受けることによって非接種小児が得る間接的な利益について。
データが得られたワクチン接種対象年齢の小児について分析したところ、非接種者の、1~6月のロタウイルス関連の入院率は、02~06年に比べ08年には46%減少するも、09年には減少は6%(-6から17%)だった。
あらゆる下痢による入院も08年には27%減少していたが、09年は5%減少になっており、有意な利益は08年にのみ認められた。

得られたデータを基にした著者らの推算によると、RV5の導入後、07年7月から09年6月までの2年間に、全米で6万4855件の入院が回避され、約2億7800万ドルの入院費削減が達成されていた。


Attenuated human rotavirus vaccine (HRV, RV1)(弱毒化ワクチン ex. ポリオ)商品名:Rotarix®
ロタウイルスの中で最も頻度の高いG1P(8)をserial passageによって特異的に弱毒化した1価の弱毒化ワクチンで、他のほとんどの血清型のウイルスにも部分的に交叉反応を示す
米国で2008年に認可
効果:11の国(ラテンアメリカの国とフィンランド)で健康な乳児632225人に対して行われた第3相試験において、2回目の接種から生後1年までにおきた下痢症をプラセボ接種群と比較して評価した[N Engl J Med. 2006 Jan 5;354(1):11-22.]
G1P(8)ロタウイルスによる重症胃腸炎に対する効果は92%, 重症のロタウイルス胃腸炎に対する効果は85%, 全ての重症胃腸炎に対して40%
重症のロタウイルス胃腸炎による入院に対する効果は85%, 全ての重症胃腸炎による入院に対する効果は42%
経口ポリオとの同時接種は推奨されない[J Pediatr Gastroenterol Nutr 2008; 46 Suppl 2:S38.]
OPVと同時に初回接種するとIPVと同時接種と比較して低い抗体獲得率(13% vs 33%)[Steele AD, Vaccine 2010]
含有するセロタイプ:G1, P[8]
接種容量:1 mL
使用形態:reconstitutionが必要
接種回数:2回
推奨スケジュール:2, 4ヵ月
初回接種時期:6週~12週(欧州), ~14週6日(米国)
15週以降にワクチン接種を開始しない(ACIP)
最小接種間隔:4週
最終接種時期:6ヵ月(欧州), 8ヵ月(米国)
Oral applicator:ラテックスを含有


メキシコとブラジルにおけるRV1と腸重積の関係を症例集積法と症例対照法で調べた研究[NEJM 2011]
メキシコでは初回接種後7日までに腸重積のリスクが上昇(発生比率5.3, オッズ比5.8)
ブラジルでは初回接種後には有意な腸重積のリスクの上昇を認めなかったが、2回目の接種後7日までに1.9-2.6倍のリスク上昇あり
ブラジルで初回接種後に腸重積のリスクが上昇しなかった考察として、OPVを同時接種しているためロタウイルスの増殖が抑制された可能性
メキシコで約1/51000人、ブラジルで約1/68000人にRV1接種後に腸重積のリスク
これによりメキシコではワクチン接種が41人の超過入院と2人の超過死亡に寄与している可能性
一方でワクチン接種により、ロタウイルス腸炎による11551人の入院と663人の死亡を予防できたと推算される
ロタウイルス感染そのものにより腸重積のリスクが上昇する可能性があり
RV1安全性試験で接種後1年の追跡調査では優位に腸重積の発生率が低下したとの報告あり [Macias M, American Society for Microbiology, 2005.]

低い程度での腸重積のリスク上昇はあるものの、途上国においても、先進国においてもロタウイルスワクチンの接種推奨は継続されるべき


ベルギーにおける39病院における前向き、多施設、対照研究
ロタリックス接種による入院予防に対する効果を評価
背景として、ベルギーでは、2000-2006年までに推定年間平均26772人外来受診と5674人の入院
欧州で最初に2006年11月に定期接種化して約10ユーロを払い戻し、接種率は既に90%以上で、入院症例の86%が減少
215例のロタウイルス性下痢症確定例と276例の対照例を比較
ロタウイルス性下痢症では背景として、人工栄養(p=0.033)、母の学歴低い(p=0.039)、家族の数多い
[BMJ 2012]

 

ロタウイルスの定期接種に関する臨床研究、定期接種を実施している国の市販後調査による有効性、安全性をレビュー[CID 2014]。
これらの国々では、全ての急性下痢症、ロタウイルスによる入院をそれぞれ17-55%、49-92%減少した。
国によっては、全ての急性下痢症による死亡が22-50%減少した。
予防接種対象年齢以外の小児における間接的予防効果は高所得及び中程度所得国で観察された。
低所得国におけるロタワクチンの定期接種の経験は日が浅いものの、導入国が近年増加している。
有効性と安全性の評価では優れた結果であったが、低所得国ではワクチンの効果を改善する方策が検討されるべき。

WHOはワクチンの定期接種化を推奨

厚生労働省によるファクトシート (2012年)


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