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日本の予防接種の歴史(全般)

2010-04-22 | Vaccine 概要

日本におけるワクチンの主な歴史

1849年6月:長崎に種痘痘苗種、9月:京都に種痘所、11月:大阪除痘館 (Vaccineを「白神(はくしん)」と表記)

1876年:天然痘予防規則

1897年:伝染病予防法

既定のある10疾患:伝染病予防法:コレラ、赤痢(疫痢を含む)、腸チフス、パラチフス、痘瘡、発疹チフス、猩紅熱、ジフテリア、流行性脳脊髄膜炎およびペスト

1910年:種痘法

1919年:旧結核予防法制定、人口5 万以上の地方公共団体に療養所の設置を命ずるなどを規定

 

1948年:予防接種法 Immunization Act(12疾患義務接種、罰則あり、集団接種が原則)

12疾患:1痘瘡(定期+臨時)、2ジフテリア(定期+臨時)、3腸チフス(定期+臨時)、4パラチフス(定期+臨時)、5百日咳(定期+臨時)、6結核(定期+臨時)、7発疹チフス(臨時のみ)、8コレラ(臨時のみ)、9ペスト(臨時のみ)、10猩紅熱(臨時のみ)、11インフルエンザ(臨時のみ)、12ワイル病(臨時のみ)

費用負担は国、都道府県、市町村で1/3ずつ(経済的困窮者を除き、実費徴収しなければならない) 

集団接種の対象人数は種痘は医師1人1時間あたり凡そ80人、その他のワクチンは凡そ150人
1948年度の検定合格率は約6割、1951年度には96%以上に改善した
罰則は3千円以下の罰金とされたが、1976年に規定が廃止されるまで発動されたことはない 
(cf. 戦後行政の構造とデヒレンマ. 藤原書店 手塚洋輔) 

同年11月、京都市でジフテリアトキソイドが混入した予防接種(大阪日赤製造1013号)を受けた乳幼児68名が死亡 
業者責任論が中心、再発防止策は検定制度不備論から国家検定制度の強化に帰結、死亡者遺族には10万円の治療費名目の見舞金等により和解 

1951年:新たに結核予防法制定(BCG接種を規定)により、予防接種法から結核に係る予防接種規定を削除(第1次改正)

1951年:市町村の行う予防接種以外のものについても、一定の要件の下で、同法に基づく予防接種として認めることとされる(第2次改正)

1958年、予防接種実施規則の制定(厚生省令)、予防接種法改正により猩紅熱を対象から削除、ジフテリア第二期を設定(第5次改正)

1961年4月:予防接種法改正(第6次改正)

ポリオを対象疾患に追加(ただし、地方財政平衡交付金への繰り入れではなく、補助金による国庫負担)
経済的貧困者を除き、実費徴収を義務規定からできる規定に改正

1962年4月:群馬県高崎市が定期接種及び推奨接種の無料化

1962年10月:東京都が都道府県で初めて定期接種の無料化(小児保健研究65巻6号2006年「全国市町村の予防接種の実施状況」によると94%の自治体で無料化が実施)

1964年:予防接種法改正により、ポリオの予防接種を不活化ワクチンから経口生ワクチンとし、接種期間を生後3月から生後18月に変更(第7次改定)

1970年6月:国の伝染病予防調査会において、「今後の伝染病予防対策のあり方について」中間答申
      法律に基づいて行われた予防接種による障害のうち、ワクチンの製造者や保管者、
      接種担当者等に故意又は過失があったことが立証された民法又は国家賠償法で救済される場合を除いて、国が被害者を簡易な手続きにより迅速に救済し得る制度の確立が謳われた。
      種痘ワクチンによる副反応がみられたことから、種痘ワクチンを全面的に中止

1970年7月:行政措置(閣議決定)としての被害者救済制度「予防接種事故に対する措置」の設立(医療費、後遺症一時金、弔慰金)
      「少なくとも可能性のあるものは全部救済する」都の方針で運用 

1970年:許可、認可等の整理に関する法律により、腸チフス、パラチフスの予防接種を定期接種の対象から除外(第9次改正)

1973年:後遺症特別給付金が被害者救済制度に追加 

1976年:予防接種法改正(第10次改正)

  健康被害救済制度を法制化、罰則なし義務接種(定期接種+一般臨時)とし対象をヒト-ヒト感染しないが感染力が強い疾病にも対象を拡大
  (ただし天然痘を念頭にした緊急臨時を除く、罰金10万円あり)
  特別対策を廃止し臨時接種を一般臨時と緊急臨時に分ける(緊急臨時の対象疾病は痘瘡、コレラ、厚生大臣が定める疾病)
  定期接種の接種期間を政令に委任し、定期接種の実施主体を市町村とする  
  麻疹、風疹、日本脳炎を追加、腸チフス、パラチフス、ペスト、発疹チフスを法律の対象疾患から除外
  特に予防接種を行う必要があると認める疾病を政令に委任して規定 

規定のある疾患:1痘瘡(緊急臨時)、2ジフテリア(定期)、3急性灰白髄炎(定期)、4百日咳(定期)、5麻疹(定期)、6風疹(定期)、7コレラ(緊急臨時)、8インフルエンザ(一般臨時)、9日本脳炎(一般臨時)、10ワイル病(一般臨時)11その他(緊急臨時)

健康被害救済制度の内容は医療費(直接経費)、医療手当(間接経費)、障害児養育年金(保護者に支給)、障害年金(本人に支給)、死亡一時金、葬祭料
この制度は、法に基づく予防接種は社会防衛上行われる重要な予防的措置であり、関係者がいくら注意を払っても極めて稀であるが不可避的に健康被害が起こりうるという医学的特殊性があるにもかかわらず、あえて実施しなければならないということに鑑み、予防接種により健康被害を受けたものに対して特別な配慮が必要であること、行政の無過失によって生じた副反応による健康被害を損害賠償請求訴訟等の紛争解決手段に比べ簡素な手続きで迅速に救済することが必要であることを趣旨目的とし、国家補償的観点から設けられた 

接種医師の法定地位の明確化、免責
「当該予防接種により万一健康被害が発生した場合はその当事者は、当該予防接種を実施した市町村長又は都道府県知事であり、これらの者において健康被害への対応を行うものである」(厚生事務次官通知 衛発第一七六号、1976年9月14日付)
「健康被害について賠償責任が生じた場合であっても、その責任は市町村、都道府県又は国が負うものであり、当該医師は故意又は重大な過失がない限り、責任を問われるものではない」(厚生省公衆衛生局長通知 衛発七二五号、1976年9月14日付)

1981年:国、都道府県の費用負担が廃止され、一般財源化(地方交付税による措置)

1992年:東京訴訟(1972年提訴)東京高裁判決「厚生大臣の施策上の過失を認定」
  12月18日、「予防接種被害東京集団訴訟」の控訴審判決が東京高等裁判所(宍戸達徳裁判長)による
  同訴訟は1952年から1974年にかけて種痘などの予防接種を受けた後、死亡したり、副作用による心身障害の後遺症が残った患者とその両親ら62家族159人が、国を相手取り損害賠償を求めたもの

予診など集団接種運用の不備、医師に対する周知不徹底、一般国民への周知不徹底
「長く、伝染病の予防のため、予防接種の接種率を上げることに施策の重点を置き、予防接種の副反応の問題にはそれほど注意を払わなかったため、この義務を果たすことを怠った」
「国が、社会防衛の目的で、国民を強制ないし勧奨して接種を受けるよう仕向けた以上、国としては被害を避けるための措置を可能な限り尽くすべきであった」
「生命・健康の侵害という重大な法益侵害との対比からすると、コストは人手の問題を理由に、厚生大臣がとってきた行動が正当化されるということはできない」 

1993年:公衆衛生審議会伝染病予防部会「予防接種制度見直しに関する委員会」設置され答申提出

 予防接種の目的:今後は国民全体の免疫水準を維持し、これにより全国的又は広域的な疾病の発生を防止するという面とともに、個人の疾病予防に極めて有効な予防接種を行うことにより、個人の健康の保持増進を図るという面を重視した制度とする必要がある
 推奨接種への転換:個人の意思の尊重と選択の拡大等の時代の流れに沿ったものとしていく必要があり、個人の意思を反映できる制度となるよう配慮することが必要。また国民は、疾病予防のために予防接種を受けるという認識を持ち、接種を受けるよう努める必要がある。
健康被害救済制度:接種体制が変更されたとしても健康被害の危険性を内包した予防接種を実施していかなければならないという特殊性を有しているため、救済制度を行政施策として設ける必要がある。健康被害救済制度と予防接種制度は不可分一体の関係にある。 

1994年:予防接種法改正(第14次改定)・結核予防法改正
  健康被害の救済を法の目的に追加
  対象疾患から痘瘡、コレラ、ワイル病、インフルエンザを削除、破傷風を追加(破傷風を含むDPTはジフテリアや百日咳として1968年から定期接種として接種)    
  予防接種の対象疾患から、義務から努力義務(予防接種を受けるよう努めなければならない)へ
  一般臨時の予防接種廃止し、緊急臨時を罰則付き義務接種から罰則なし努力義務の一般臨時へ緩和
  予防接種不適当者に関する規定を政令事項から法定化 

規定のある疾患:1ジフテリア、2急性灰白髄炎、3百日咳、4麻疹、5風疹、6日本脳炎、7破傷風、8その他 緊急臨時の改正理由:天然痘の根絶によって包囲接種の意義が低下したこと、緊急の事態においては、予防接種に対する関心は非常に高まる傾向があり、このような事態においては、実際的には、国民への法的規制の有無より、予防接種の実施体制の整備、広報等の住民への働きかけが極めて重要であり、大きな役割を果たすこと

法の目的に「予防接種による健康被害の迅速な救済を図ること」が追加され、保健福祉事業が法定化されるとともに、給付設計の抜本的な見直しによる救済給付額の大幅な改善及び介護加算制度の創設

1999年:地方分権一括法により予防接種は法定委託事務から市町村の自治事務となる

2000年:5月16日に見合わせを通知、6月15日に解除(実質秋まで中止)

公衆衛生審議会感染症部会ポリオ予防接種検討小委員会によるポリオワクチン接種後の健康障害報告への対応マニュアルを策定
「使用のみ合わせを行っている間に、本来ならばワクチン接種を受けるはずであった方々の感染の可能性もある。したがって、健康障害の原因究明が完全にはなされていない段階で、予防接種のみ合わせを行うというような社会的影響の大きい意思決定については、適切な段階を踏み、科学的根拠に基づき、合理的かつ迅速に行う必要がある」

2001年:予防接種法一部改正(第19次改正)
  一類疾病、二類疾病の区分を創設し、高齢者に対してインフルエンザを二類疾病として追加
  二類疾病に係る定期接種による健康被害の救済給付制度を創設
  予防接種の推進を図るための指針に関する規定を創設 

規定のある疾患:1ジフテリア、2急性灰白髄炎、3百日咳、4麻疹、5風疹、6日本脳炎、7破傷風、8その他 二類疾病としてインフルエンザ

一類疾病:感染力の強い疾病の流行阻止、又は致死率の高い疾病による重大な社会的損失を防止するために予防接種を実施(努力義務あり)
二類疾病:個人の発病や重症化を防止し、このことによりその疾病の蔓延を予防することを目的として予防接種を実施(定期接種については努力義務なし
二類疾病の救済給付水準は、個人予防目的に比重があり、義務が課されていないことから、一般の医薬品副作用被害救済と同程度とされた

2005年:5月30日「定期接種の予防接種における日本脳炎ワクチン接種の積極的勧奨の差し控えについて(勧告)」

「現時点ではより慎重を期すため、定期の予防接種においては、現行の日本脳炎ワクチン接種の積極的な勧奨をしないこととされたい」
「日本脳炎に感染する恐れが高いと認められる者等その保護者が日本脳炎に係る予防接種を受けさせることを特に希望するものについては、当該保護者に対して本通知の趣旨並びに日本脳炎の予防接種の効果および副反応を説明し、これに基づく予防接種実施に関する明示の同意を得た上で現行の日本脳炎ワクチンを使用した接種を行うことは差し支えない」

2006年:感染症法の改正と結核予防法の廃止に伴い、一類疾病に結核を追加(第21次改正)

2007年:3月31日の結核予防法の廃止に伴い予防接種法に結核が追加

2009年:特別措置法の制定:新型インフルエンザ予防接種に係る健康被害救済制度の設置

2011年:予防接種法改正(第22次改正)
  感染力は強いが病原性の高くない新型インフルエンザに対して臨時接種を行うことを念頭に、努力義務を課さない新たな臨時接種の創設 (H1N1 pandemic influenza)
  接種勧奨規定の創設
  2009年に国が実施した予防接種事業の法的位置づけを明確化(ワクチン確保が必要な場合には、製造販売会社と損失補償契約を締結できる)

2012年:新型インフルエンザ対策特別措置法:新型インフルエンザ及び全国的かつ急激なまん延のおそれのある新感染症に対する対策の強化(行動計画の作成等の体制の整備、発生時における特定接種の実施、「新型インフルエンザ等緊急事態宣言」による緊急事態の措置として、外出自粛要請、住民に対する予防接種の実施、緊急物資の運送の要請・指示等)

2013年:予防接種法改正(第23次改正)
    Hib感染症、小児肺炎球菌感染症、HPV感染症をA類疾病に追加
  予防接種基本計画の策定
  副反応制度の法定化(副反応報告の義務化)
  一類→A類、二類→B類に名称変更
  A類の地方財政措置を2割から9割に引き上げ

参考文献: 
逐条解説予防接種法(厚生労働省健康局結核感染症課監修 中央法規出版)等
 
 

予防接種法における予防接種の類型(H25年度予防接種従事者研修 厚生労働省資料
 

 


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