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風しん Rubella

2013-04-07 | Vaccine 各論

風疹
発疹、リンパ節腫脹、発熱を3徴とする疾患で20~40%の不顕性感染がみられる
一般的には軽症であり、稀に脳炎(6,000例に1例)、血小板減少性紫斑病(3,000例に1例)、神経炎や精巣炎などの合併症を引き起こす

先天性風しん症候群(CRS)
風疹ウイルスの母胎感染で起こる先天異常で、難聴、白内障、心奇形を3徴とする
母胎に発疹を伴う風疹感染がみられた場合、妊娠12週以内であれば85%、13~16週までで54%、17~25週程度までで25%の確率でCRSが発症するとされている。
南山堂医学大事典 第19版
red book 27th edition

1999年4月から全数把握を開始

2006年4月から届出基準を緩和

母体の再感染による先天性風疹症候群 自験例と日本における23症例の検討(IASR Vol.21 No.1 January 2000)

ブラジルでは、2001年から2002年にかけて行った風しんワクチンのキャンペーンで、22,708人の妊婦または妊娠前の女性が風しんワクチンを接種受け、2332人の女性はワクチンによる感染も疑われた。67/1647(4.1%)は新生児のIgM抗体が陽性だったが、CRSの発生は認めなかった。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21954274

風疹の予防接種後3か月以内または妊娠中にワクチンを接種した妊婦2933名において、感染が確認された症例が83例あるが、CRSは1例も報告されていない[Vaccines 6th Ed]

ワクチンによるCRSの危険性は,実質的にぜロと考えて差し支えないものと思われる
日本では統計的な把握はされていないが,米国,英国,西独での妊娠中のワクチン接種817例からCRS息児の生まれた報告はない
欧米のワクチン株は主にRA27/3株が使われており,これは日本のワクチン株に比べると温度感受性の程度が低い
もし、一般的に考えられているように、温度感受性が高いことと、催奇形性の低さとが関係するとすれば、日本でのワクチン株ウイルスによるCRSの起こる可能性は、欧米よりもさらに低いことが期待される [ワクチンハンドブック 国立予防衛生研究所学友会 編, 1994]

世界全体では約11万人の先天性風疹症候群の児が出生していると考えられている(Int J Epidemiol. 1999;28(6):1176-84.


風疹の流行
風疹は、4~5年ごとに大規模な全国流行を繰り返してきたが、1999年以降、流行は小規模になり、地域的な流行を認めるにとどまっていた。
http://idsc.nih.go.jp/iasr/24/277/graph/f2771j.gif

直近の流行は2004年で推計3.9万人(CRS 10人が報告)が罹患した。
http://idsc.nih.go.jp/idwr/douko/2011d/29douko.html
(CRSは1999年4月1日から、風しんは2008年1月1日より全数報告となる)

風疹の予防接種
- 1977年8月~1995年4月、中学生女子を対象として法律による接種(集団接種)
 1994年予防接種法改正にて義務接種から推奨接種(努力義務)に変更、学校での集団接種から医療機関での個別接種に変更
- 1989年4月~1993年3月、生後12ヶ月後(6歳未満)の男女にMMR
- 1995年4月~2001年11月7日、中学生男女を対象として法律による接種(個別接種で接種率低下) 
- 2001年11月7日~2003年9月30日、1979年4月2日~1987年10月1日生まれの男女未接種者:風しん予防接種の経過措置(接種率15-30%)
- 1995年~2006年、生後12ヶ月後の幼児を対象として法律による接種
- 2006年~、法律によるMRワクチンを2回接種(1期:1歳、2期:小学校入学前1年間)
- 2008年度~2012年度、MRワクチンを2回目の接種(3期:中学1年生、4期:高校3年生):時限措置

 

(IASR, 2013: 特集 風しん・先天性風疹症候群
風しんワクチン定期接種の経緯 IASR
IASR, 2003: 風しんワクチン接種率の推移

国内の風疹抗体保有率は、女性では高率に維持できているものの、30~50代の男性を中心に低いものとなっている。
・女性:25歳以上のどの年代でも93%程度の抗体保有率(HI抗体価 1:16以上)
・男性:30代で75%、40歳以上で85%程度の抗体保有率(HI抗体価 1:16以上)
http://idsc.nih.go.jp/yosoku/Rubella/Serum-R2009-e.html


風疹の感染阻止に有効な抗体価については、HI抗体価1:16又は1:32以上などの議論がある。               
抗体価の読み替え:http://www.nih.go.jp/niid/images/idsc/disease/rubella/RubellaHI-EIAtiter.pdf

母体の再感染によると考えられる症例の報告もある(IASR, 2000)


現在の風疹の流行状況
CRS報告数/累積報告数(2008年1月1日から全数把握)
2013年up to18週 CRS5例 
2012年 4/2353
2011年 1/371
2010年 0/87
2009年 2/147
2008年 0/292
2007年 0/
2006年 0/
2005年 2/
2004年 10/
2003年 1/
2002年 1/
2001年 1/
2000年 1/
1999年 0/

風疹ワクチン
ワクチンを1回接種することで95%(90-97%)程度が抗体を獲得するとされている
風疹及びCRSに対する臨床的有効性もほぼ同等と考えられ、ワクチン接種により免疫を獲得した母体でのCRSの報告は稀である
予防接種後、時間の経過とともに抗体価は低下していくが、基本的には終生免疫を維持できると考えられる
追加接種の必要性はvaccine failureに対するcatch-up
(Vaccine, pink book)

風しんの曝露後予防は一般に行われないが、理論的には曝露から3日以内に接種すれば予防効果があるとされる(Red Book 2012)

世界の排除計画
 2012年5月25日194のWHO加盟国が2020年までにWHOの6地域中少なくとも5地域で2015年までに麻疹・風疹による死亡を95%減少させ、2020年までに麻疹・風疹を排除することに合意。
 麻疹排除計画により2000年から2010年にかけて推計53万5千人の麻疹による死亡者が12万9千人まで減少した。
アメリカ地域においては土着のウイルスによる麻疹を2002年から、風疹と先天性風疹症候群を2009年から排除している。
 一方、 麻疹と風疹による死亡者の47%がインドで、36%がサハラ砂漠以南で報告されており、優先的に早急な対策が求められる。
 麻疹・風疹イニシアチブは麻疹による死亡と先天性風疹症候群をなくすためにアメリカ赤十字、国際連盟、米国CDC、ユニセフ、WHO主導で組織された活動であり、2001年以降、80か国で10億本以上の麻疹ワクチンを提供し、世界の接種率を85%に押し上げ、麻疹による死亡を74%減少させることに貢献してきた。
(WHO, The Measles & Rubella Initiative Welcomes World Health Assembly Commitment to Measles and Rubella Elimination Goals

 

台湾の状況
national immunization program等
1986年:中学3年生に風疹ワクチン(RV)接種を開始
1987年:妊娠を希望する女性(15-49歳) に対してRV接種
1998年:風疹を報告義務疾患に指定
1991年-1995年:軍に入隊前にRV接種
1992年:生後15か月の男女にMMRを接種
1992年-1994年:15歳以下の子どもにMMRキャンペーン接種
1995年-1998年:軍に入隊前にMMR接種
1999年:風疹の報告を診断から72時間以内に報告することを義務(小児例では24時間以内)
2001年: 中学3年生(15歳)⇒小学生(7歳)に対象を変更し、MMR2接種
2001年-2004年:6-10歳に対してMMR2キャンペーン接種
2002年:MMR2の対象を7歳から就学前の6歳に変更
2002年:妊娠を希望する女性で1971年以前に生まれた人にMMR接種、1972以降に生まれた人で抗体陰性者にMMR接種(抗体検査は自費)
2006年:MMR1の対象を生後15か月から生後12-15か月に変更
2009年:MMR1の対象を生後12-15か月から生後12か月に変更 
2013年:風疹の報告義務期間を72時間以内から48時間以内に短縮

2001年から2008年にかけて妊婦約44,000人に実施した抗体検査では、IgG 10IU/mL未満(HI換算で大体16倍以下)の抗体陰性者は10.6%との報告であり、日本と比較して集団免疫の獲得率が高い
(BJOG, 2011 

台湾における風疹報告数:Taiwan CDC
台湾では風しんの発生報告は2005年から2011年まで確定診断された124例中、93例が輸入症例。
報告数(うち輸入例):2007年22(19), 2008年18(14), 2009年17(7), 2010年18(12), 2011年45(33), 2012年8(6)
(J Med Viol, 2013


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