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信州里山通信。自然写真家、郷土史研究家、男の料理、著書『信州の里山トレッキング東北信編』、村上春樹さんのブログも

名宮大工棟梁・大隅流柴宮長左衛門矩重の木彫再訪。必見! 千曲市戸倉の水上布奈山神社(妻女山里山通信)

2018-01-20 | 歴史・地理・雑学
 昨年の大晦日に千曲市戸倉にある水上布奈山神社(みずかみふなやまじんじゃ)に参拝しました。その記事はすでにアップしましたが、普段は施錠されてシャッターの隙間からしか見られない本殿が中まで入って間近で見られるという貴重な機会だったので、大きな画像で再掲することにしました。本殿は国の有形重要文化財ですが、この見事な木彫は本当に宝であり、残念ながら現在はこのレベルの技術を持った人はいません。
 最初の訪問は、昨年の3月でした。諏訪大隅流柴宮長左衛門矩重 (しばみやちょうざえもんのりしげ)の見事な木彫に圧倒されましたが、同時に中に入って全部を見たい衝動に駆られました。今回それが叶ったわけです。
 前回の訪問記です。
名宮大工棟梁・大隅流柴宮長左衛門矩重の木彫が圧巻! 千曲市戸倉の水上布奈山神社(妻女山里山通信)

 境内は二年参りの用意がされていました。茅の輪も。二年参りというのは、信州や新潟の風習で、東京にはありません。拝殿の裏手に覆屋に保護された本殿があります。江戸時代初期に北国街道の下戸倉宿が慶長八年(1603)に設置された時に、諏訪大社から祭神を勧請して創建されました。

 本殿は一間社流造ですが、やはり目を引くのは圧倒的な量の見事な木彫です。その後、1789年(寛政元年)に現在の本殿が建立されました。諏訪大社下社春宮建立は安永九年(1780)ですから、その9年後の作品なんですが、立川流に評判で負けた彼を奮起させたのでしょうか。この木彫は本当に素晴らしいものです。特に形態の抽象化、曲線で表現されるものを直線化したりする表現手法をどこで会得したのか、編み出したのか非常に興味があります。

 木鼻の貘(ばく)と獅子。貘の荒ぶる体毛は迫力があります。
 柴宮長左衛門矩重(1747〜1800)は、諏訪郡普門寺村(現諏訪市)の生まれで、諏訪下社春宮幣拝殿及び左右片拝殿をはじめ、10棟余の社寺を建てました。諏訪下社春宮以外の代表作は、この水上布奈山神社と塩尻の北熊井諏訪神社でしょう。

 脇障子上の上り龍。反対側には下り龍。ため息が出るほど素晴らしい。

 右側の海老虹梁(えびこうりょう)の見事な飛龍。これを一本の欅(けやき)から彫り出してしまうのですから。

 四方にある木鼻はいずれも貘と唐獅子。その上にある虹梁を支える斗栱(ときょう)。側面を飾る木彫も見事です。最上部には唐獅子、下には波と亀。

 左側の海老虹梁(えびこうりょう)の飛龍。一度でも木彫をやった方は分かると思いますが、木彫は木目を読まないと彫れません。造形も制限されます。もちろん石彫にも石目がありますが。この木彫を見ると驚愕せずにはいられないのです。それを誤ると簡単に欠けてしまいます。それを波を重複させたりして補っているのが分かります。

 非常に複雑な木組みに圧倒されます。設計図はあるのですが、現在のように厳密緻密なものではありません。いわゆる現場合わせの技術が高度だったのでしょう。

 蘇鉄と兎(うさぎ)。やけに耳が短いので狸か狐かと思いました。面白いモチーフです。縁の下にあります。

 これも前の縁の下にある唐獅子二頭。

 後ろは唐獅子と鶏。鶏(酉)は神社と深い関係があります。天照大神(あまてらすおおみかみ)が 天岩戸に隠れた時、鶏の声や人の賑やかさに戸を開けたといいます。鶏のその功績により「神鶏(しんけい)」とされ、神様の使いとされるようになったといわれています。

 縁の下には二枚の木彫。上は鷹に松と竹ですが、下の花はなんでしょう。古代史に出る有名な花。ガガイモではなさそうで。なんでしょう。

 もう一枚の木彫。残念なのは反対側の二枚の木彫がないのです。おそらく盗まれたのでしょう。残念なことです。

 左右は脇障子の木彫。竹林七賢人。中は脇障子上の下り龍。正面扉の左右の脇羽目には、中国,唐代の隠者,詩人である寒山と拾得(じっとく)が彫られています。中国江蘇省蘇州市楓橋鎮にある臨済宗の寺・寒山寺に伝わるものです。写真は前回の記事をご覧ください。
寒山拾得は、日本人の琴線に触れるものがあるのでしょう。様々な絵師が描いています
   一たび寒山に住みて 万事休す
   更に雑念の心頭に掛かることなし
   閑(しず)かに石壁に於いて詩句を題し
   任運なること還(ま)た 繋がざる舟に同じ(寒山)

   君見ずや三界の中(うち) 紛として擾擾(じょうじょう)
   只だ無明(むみょう)の了絶せざるが為なり
   一念不生にして 心 澄然(ちょうぜん)なれば
   去(きょ)無く 来(らい)無く 生滅(しょうめつ)せず(拾得)


 神社の由緒と説明。塩尻の北熊井諏訪神社もいずれ参拝したいと思います。

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本の概要は、こちらの記事を御覧ください

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