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信州里山通信。自然写真家、郷土史研究家、男の料理、著書『信州の里山トレッキング東北信編』、村上春樹さんのブログも

妻女山山系の里山で繰り広げられる生と死。自然の営みを観る日々(妻女山里山通信)

2016-07-22 | アウトドア・ネイチャーフォト
 私は主に長野市から千曲市に跨る妻女山山系と、長野市の茶臼山山系をメインフィールドとして撮影や保全活動、自然観察をしています。定点観測をすることで、非常にデリケートな自然の生態系の経年変化も観ることができるからです。そして、観続けることで里山リテラシー(読解力)も鍛えられます。野生獣や昆虫だけでなく、植物から菌類までありとあらゆるものに目を向けています。そうすることで、里山の全貌、共生関係、相互連関、人為的な破壊などが詳細に見えてくるのです。そういう目で観ると、今年は異常に昆虫が少ないのが非常に気になります。特にミヤマフキバッタが全く見られません。夕方になるとヒグラシの物悲しい鳴き声がするようになりました。

「ひぐらしは 時と鳴けども 恋ふらくに たわやめ我(あれ)は 定まらず泣く」〔詠人不知 万葉集 第10 1982〕
(ひぐらしは時を決めて鳴くけれども、恋のせいでか、弱い私は時を定めず泣いてばかりいます)
 セミの中でもヒグラシは、漢字で書くと「蜩」「茅蜩」「秋蜩」「晩蝉」「日晩」「日暮」と色々あるように、その物悲しい鳴き声からか万葉の昔から日本人好みの昆虫でした。俳句では秋の季語ですが、実際はニイニイゼミなどと同じく梅雨から鳴き始めます。季節的には秋のセミではありません。
 しかし、カナカナカナと鳴く薄暮の森に佇んでいると、不意にとてつもない寂寥感に襲われます。どこか物悲しいヒグラシの鳴き声は古代から日本人の琴線に触れるものがあったのでしょう。古代中国の敗残兵の末裔が、故郷を偲んで落涙したのでしょうか。虫の鳴き声を左脳で聞くのは日本人(ポリネシア人も)の特性です。他国の人には音にしか聞こえないそうです。虫の音であり、虫の声ではないのです。
 万葉集の中に蝉の歌は10首ありますが、ヒグラシが9首。もう一首は単に蝉と書かれています。

 里山の海藻イシクラゲ(食用)の上で休むコミスジ(左)。明るい林道脇にクサイチゴ(中)。酸味が強いが美味しい。交尾しながら吸汁するアオカナブン(右)。この時期良く見られる光景。

 コナラの大木で樹液を吸うオオムラサキのオス。昨年の千曲市による空中散布の影響も確実にあるのですが、全般に昆虫が激減しています。ミヤマフキバッタに至っては全く見られない。右にいる小さな虫は、どうもヤセバエの一種の様ですね。
 写真で分かると思うのですが、オオムラサキの口吻はストローの様にチューブではなく、U字形の樋(とい)の様なものが羽化の際に合わさって筒状になるのです。そのため中央に筋が見えます。

 口吻はカブトムシの脚の一撃で簡単に切れます(左)。そういう個体も時々目にしますが、しぶとく生きながらえるのです。頭を削岩機の様に激しく振って吸汁するオオスズメバチ(中)。今回もいきなり飛び立って驚かせてくれました。樹液バーでは、カブトムシやミヤマクワガタの次に位置するのですが。オオムラサキのメスに追い出されることもあるのです。オオスズメバチとの緊張関係に疲れてしばし林道を散策して見つけたオナガシジミ(右)。オニグルミの木がある周辺に現れます。

 戻ってオオスズメバチ。この後2頭が来たが追い払いました。おそらく別の巣の個体なのでしょう。レンズフードの先端からは20センチもない。この撮影は緊張の連続。樹液が多い時には、顔を拭ってから飛び立つのですが、この様に少ないといきなり飛び立つので顔に激突することもあるのです。100m追いかけられたこともあるので、もう心臓バクバクです。どこを見ているか分からない勾玉型の目が怖い。

 オオスズメバチの吸汁を見ながら、吸汁の機会を伺っているオオムラサキ(左)。それにしても樹液バーに集まる昆虫が少ない(中)。2011年、12年、13年のブログのアーカイブスを見て下さい。樹液バーは考えられないほど大盛況でした。昨年までのネオニコチノイド系農薬の空中散布が原因ですが、今年は散布のない長野市側でも昆虫が異常に少ないのが気掛かりです。
 今回は山仕事や里山保全もあり、道具が必要なため車で上りました(右)。こんなところで撮影しています。木漏れ日と緑が美しいのですが、始終クロメマトイや藪蚊がまとわりつきます。藪蚊に刺されるのを気にしていたら撮影は不可能です。先月末はこの先の陣馬平に子熊も現れました。

 ふと足元を見ると、キリギリス(脚の長さからヤブキリか)の死骸にたくさんのトゲアリが群がっていました。トゲアリは、社会寄生という生態を持つ面白いアリです。また、エライオソームという餌になる物質がついたカタクリの種を巣まで運ぶアリ散布という種まきの生態も持っています。背中の鋭い棘でその名前の由来が分かると思います。

 クルマバナの群生地(左)。次々と咲き始めました。ウバユリの蕾も成長中(中)。やがて横に開き開花します。斎場山(旧妻女山)へ寄りました(右)。現在の妻女山は本来は赤坂山といい、512,8mのここが本来の妻女山で、本名が斎場山。謙信の本陣と伝わるのはここです。下の妻女山の長野市の看板にもそれが明記されていないため混乱を引き起こしています。山頂は古代科野国の円墳です。山頂のベンチにハチが営巣していて危険なのでひっくり返しておきました。ハチが営巣するので使用後は横倒しにしておいてください。

 妻女山展望台(赤坂山)からの善光寺平。眼下の長芋畑もつるが伸びて青々としてきました。AC長野パルセイロのホームスタジアムの向こうにそびえる飯縄山。飯縄神社の祭神の飯縄権現は、白狐にのった烏天狗。上杉謙信の兜の前立てがそれです。東京の高尾山薬王院の祭神もこれです。夏は信州の里山においで下さい。歴史、自然、スポーツ、癒やし。目的はなんでもいいのです。

この8月11日は、初めての国民の祝日「山の日」となります。それに先立ち、7月の第4日曜日(今年は24日)が「信州山の日」で、色々な行事が行われます。私も関連でお仕事を頂きましたが、写真を使った記事や、講座・講演なども承ります。お気軽にお問い合わせ下さい。
 妻女山展望台の南にある大きな駐車場の奥には、清野氏の鞍骨城への地図や、登山ノート、拙書『信州の里山トレッキング 東北信編』の見本誌とパンフレットなどが置いてあります。お問い合わせやお仕事のお申し込みは、当ブログのメッセージを送るからお願いします。

妻女山の位置と名称について」妻女山と赤坂山と斎場山について。『真田丸』で訪問者が激増中。

『信州の里山トレッキング 東北信編』川辺書林(税込1728円)が好評発売中です。郷土史研究家でもあるので、その山の歴史も記しています。詳細は、『信州の里山トレッキング 東北信編』は、こんな楽しい本です(妻女山里山通信)をご覧ください。Amazonでも買えます。でも、できれば地元の書店さんを元気にして欲しいです。パノラマ写真、マクロ写真など668点の豊富な写真と自然、歴史、雑学がテンコ盛り。分かりやすいと評判のガイドマップも自作です。『真田丸』関連の山もたくさん収録。

本の概要は、こちらの記事を御覧ください

お問い合せや、仕事やインタビューなどのご依頼は、コメント欄ではなく、左のブックマークのお問い合わせからメールでお願い致します。コメント欄は頻繁にチェックしていないため、迅速な対応ができかねます。
 長野県シニア大学や自治体などで好評だったスライドを使用した自然と歴史を語る里山講座や講演も承ります。大学や市民大学などのフィールドワークを含んだ複数回の講座も可能です。左上のメッセージを送るからお問い合わせください。


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