注射と点滴とヘパリン

2008-04-09 21:10:51 | 健康・病気

点滴や注射は幼い頃から得意だった。

ちくり、と針が皮膚を突き刺す瞬間。あの痛みは確かに恐怖だったけれど、それを避ける手段が自分には無いと思って以来、その瞬間をどう乗り切るかということに注力するようになったからだ。
恐怖で体をこわばらせると余計痛い。だから目をそらすのではなく、針が刺さるその瞬間を見極めて、じょうずに力を抜く事を覚えたのだった。

腕の静脈が細めだから失敗される事もあって、特に体調が悪いときはなかなかうまく入らなかったりして、決まって最後に出てくる婦長クラスの人には敬意を抱いていた。
中には、注射器を構えてから実際に刺す数秒に変な間合いを置く看護師や医師もいて、イヤな奴だと思ってた。

普通の静脈注射の時はそれだけで済むが、点滴はもう少し辛抱が必要。
昔は金属製の針だったから、ヘタに動こうものなら針の先が血管の壁に刺さって詰まったりする。そうなると、最悪の場合他の位置に刺し直さなきゃいけないので、できるだけじっとしてなくちゃいけない。
具合が悪い上に動けない。慣れない病院のベッド。テレビも本も見られない。話す人も居ない。
しょうがないので小学生の頃の牛は、天井のパネルの模様を何かに見立てたり、延々と数を数えたり、心の中で歌を歌い続けたり。

それにも飽きると、自分に繋がっている点滴の観察が始まる。

ソリタって何だろう。味の素って書いてある。
逆さに吊るされた容器のゴムキャップに針が差し込んであって、そこから輸液が出てくる…そうか、点滴って人間が刺されるだけじゃなく、点滴の入れ物も刺されるのか。お互い辛いよね。
容器には黒いマジックで「1/3」って書いてあって、たまに看護師が来て新しい容器に変えていくと、今度は「2/3」って書いてある。
そうか。全部で3本点滴するうち、これは2本目なのか。
それならあと1本で開放されるはずだ。よし!
そう思って3本目が終わる頃、看護師は違う大きさの点滴パックをもってきて、「今度は別の種類のになるからね」とにこやかに言い放つ。
騙された、と思ってがっかりしたものだった。

点滴のチューブに気泡を発見すると、それをずっと目で追っていた。
いつだったか、「血管に空気が入ると死ぬ」と聞かされていたから、点滴の針よりそっちが怖かった。
気泡は少しずつ、少しずつ腕に近づいてくる。
どうしよう、と怯えながら牛は、点滴の管の最後のほうに、小さな突起があることに気づく。
そうか、ここに液溜り(タコ管っていうのね)があるけど、小さな気泡はここに溜まるようになってるんだ。これなら多少の気泡なら大丈夫なのか。ふぅん、上手くできてるんだなぁ。
しまいには、タコ管の液溜りの向きが逆になっていたのを自分で直したり、、チューブを指で弾いて気泡を上に追いやる事まで覚えたのだった。

近頃の点滴はだいぶ進化してきた。

針はプラスチック。
タコ管はほとんど見かけなくなって、三叉の分岐コネクタになった。
多少動いても大丈夫だし(と油断してるから詰まるんだな)。
針を固定するテープも、はがれにくく防水で、かゆくなりにくいフィルムタイプのものになった。昔は紙テープかプラスチックテープだったのにね。

医療器具もどんどん変わって、薬もどんどん新しいのが出てきてる。

昨年入院したときの事。
絶食の指示が出てたので、ずーっと持続点滴。
留置針は1回失敗されて手首近くに刺された。
最初は辛くてヒマだと思う余裕すら無かったんだけど、何度と無く点滴を「おかわり」して、その日分の点滴を終える時。

「ヘパフラッシュ」。
看護師さんが手にしたシリンジにはそう書いてあった。
ヘパってヘパリンのことか。
確か動物の内臓とかから作られるヤツだった気がする。
点滴の針を刺しっぱにしておくとき、針やチューブに逆流する血液が固まってしまわないように、点滴を始めるときや終わってから、このヘパリンというのを注入しておく。これを「ヘパリンフラッシュ」とか「ヘパリンロック」って言うんだそうだ。
話によれば、昔は病院内でこの「ヘパリン」を薄めて使ってたんだけど、作り置きしておくとどうしても細菌が混入してしまうので、近頃は自作するのではなく、はじめから製品として1回分ずつパッケージになっているものを使うのだとか。

見たことあるけど、牛自身に使われるの初めて。
なんとなく嬉しいような気がして、じっと見守ってた、のだが。

点滴や注射で、液体が血管に入ってくるときの冷た~い感覚、分かる人には分かると思う。
それが…ヘパフラッシュを注入する時、「恐ろしい程冷たかった」のだ。
普通の点滴や注射でも、輸液の温度が極端に低かったりすると、点滴の針が入っているその先が、冷たくて痛い事がある。
点滴開始の時に、牛は既に腕が痛くて、看護師さんと相談して腕を温めながら続けていたんだけど、このヘパリンロックの時は、シリンジで一気に注入するので仕方ない。
ふと気づいた。
冷たさはともかく、冷たいという感覚で実感できる「明らかに異物が体内に入ってきている感覚」が恐ろしくてたまらなかったのだ。

水分や栄養の補給の輸液。
必要なのはわかるけど、経口摂取以外の方法では「異物」と思ってしまう。
しかも相手は「血液が固まらないようにするもの」であり、本来摂取する必要が無いものだから、気持ち的拒否してしまうんだろう。
これは、むかーしむかし牛母が、造影剤でショックおこした話の影響もあるだろうし。

それにしても、あまりに恐ろしくて「もう少しゆっくり入れてください」の一言が言えなかった。
怖い。怖い。怖い怖い怖い怖い怖い。
注射点滴の類は平気なはずなのに。
どうしてこんなに怖いのか分からないのがまた怖い。
怖いから、ものすごく大量に注入されてる気がする。

シリンジ1本分をまるまる注入された後、「本来点滴のライン確保のためなんだから、注入するコネクタから針までぶんの、ほんの少しでいいんじゃないのか?」…とはいえなかった。
牛はあくまでも患者で素人で…いちいち疑問を持って意見するのはどうだろう。
でもだからこそ、不安を感じたときに説明を求める権利だってあるはずだ。
いろいろ考えつつも、点滴を始めるたびに、終わるたびに、疑問と恐怖感をおぼえつつ、やっぱり口に出しては言わなかった。

…こんな事を今更思い出したのは、先月から始まっているヘパリン製剤の自主回収のニュースを見たので。
アメリカでヘパリン製剤の副作用の報告が昨年12月から急増していて、原因は不明で他社製品の話ながら、同じヘパリン製剤って事での自主回収らしい。
なにやら「原薬が同じ中国工場のものらしい」とか「アメリカの工場のも含まれてる」とか、はっきりしない情報が飛び交っているみたいだ…日本の製薬メーカーでは3社のが自主回収で、それ以外のメーカーは回収されてなかったり、何が何なのかさっぱり分からない。

どこで作ろうが、ブタさんの内臓を加工するわけで、異物には違いないよなぁ。
豚肉だの牛肉だの食べるのは抵抗無いのに、静脈に入れるとなるとやっぱり異物な感じがアリアリだ。
考えてみればブタだのウシだのから作られる医薬品って、そうとは認識してない(する機会が無い)から抵抗無く使用されてるんじゃなかろうか。
用途も用量も原材料も、知っときゃいいのか、知らなきゃいいのか。

それでもやっぱり牛は、知りたいと思うんだ。
食べてる肉が何の肉なのか、知りたいのと同じように。

あ、そうそう。こんなの見つけた。
↓行ってみたい…かなぁ?w

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