7月27日 編集手帳
思い出す五行歌がある。
〈百メートル
九秒台
一歩(いっぽ)
三十分
どちらが凄(すご)い〉
(斉藤淳一、市井社『五行歌秀歌集2』)
1歩を30分かけて歩く人が作者自身かどうかは分からない。
身体の障害であれ、
知的な障害であれ、
健常者には何でもない作業一つにも神経を張りつめ、
全身全霊をこめて取り組む姿が人々の胸を打つのは確かである。
以前、
知的障害をもつお嬢さんが成人式を迎え、
その感慨を語る父親の投書を本紙で読んだ。
言葉は話せず、
泣き声だけを発するという。
「倍の四十年ほどの重さがある歳月を生きてきた娘は、
親の私たちの誇りであ る」と。
男よ、
聴くがいい。
誇りである、
と。
「障害者なんて、
いなくなればいいと思った」。
逮捕された26歳はそう供述しているという。
ふざけるな、
ふざ けるな…と、
幾度も同じ言葉を胸につぶやきながら、
この稿を書いている。
生まれてきた長男の両足に障害があると分かったとき、
歌人の島田修二は詠んだ。
〈誰よりも永生きをせん病める子に語らねばならぬこと多く持てば〉。
奪われた命の一つひとつが、
肉親の流す涙で磨かれた宝石であったろう。