10月22日付 読売新聞編集手帳
墓碑銘には、
その人の一生が凝縮されている。
従わない者を次々と断頭台に送ったフランスの革命家、
ロベスピエールに成り代わり、
彼の墓碑銘を考えてやった人がいる。
〈すぎゆく人よ、わが死に涙をそそぐな
もし私が生きていれば、君は死ぬだろう――
マクシミリアン・ド・ロベスピエールのための作者不明の墓碑銘〉
(大修館書店『〈さようなら〉の事典』より)。
古今東西、
不満の声を容赦なく弾圧した暴君に応用できそうな墓碑銘である。
27歳でクーデターを指揮し、
以来42年間にわたって憲法も議会もない国に君臨した
リビアの元最高指導者ムアマル・カダフィ氏が、
反カダフィ派に拘束されたのちに死亡した。
弾圧された死者は1万人とも、
3万人とも、
それ以上とも言われる。
「ネズミども(=反カダフィ派)を引っ捕らえろ」。
今年2月、
カダフィ氏は国営テレビを通じて全土に命令を発した。
その人が、
排水管に隠れていて拘束されたのは皮肉である。
悲しいことにこの地上には、
ロベスピエール式墓碑銘の似合う独裁者が少数とはいえ、
いまなお存在している。
海を隔てた、
わが隣国にも。