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その人の聴く、木の実の降る音

2015-10-11 16:32:49 | 編集手帳

10月7日 編集手帳

 

 会津藩のお膝元、
いまの会津若松市に生まれた遠藤現夢(げんむ)という人がいる。
醸造が本業だが、
明治の磐梯山大噴火で一面荒れ野になった磐梯高原(裏磐梯)に10万本の木を植えた。
裏磐梯“緑化の父”とも、
裏磐梯自然公園の開祖ともいわれている。

現夢を詠んだ句がある。
〈木を植ゑし男の墓に木(こ)の実降る〉(鈴木貞雄)。
現役の俳人たちの投票による『私の好きなこの一句』(柳川彰治編、平凡社)で第285位に挙げられている。

昨夜、
東京大学宇宙線研 究所の梶田隆章所長(56)に今年のノーベル物理学賞が贈られると聞いて、
この一句が胸をよぎった。

謎の多い素粒子「ニュートリノ」に質量(重さ)があることを突き止める梶田さんたちの研究を指揮したのは、
誰が呼んだか“鬼軍曹”、元東大教授の戸塚洋二さんである。
「ノーベル物理学賞にいちばん近い日本人研究者」と言われながら、
がんに倒れ、
7年前に66歳で亡くなった。
〈木を植ゑし男〉だろう。

かわいい後輩の壮挙に、
その人はきっと天の高みで木の実の降る音を聴いている。
ニュートリノ。
木の実。
涙。
降るものが、
どれも美しい秋である。


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