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銀幕に追い求めた奇跡

2017-02-26 17:15:00 | 編集手帳

2月23日 編集手帳

 

 60歳で仕事がない。
蓄えもない。
職業安定所で失業保険(雇用保険)をもらう手続きをした。
希望職種を書く欄がある。
困った。
〈まさか、「映画監督」と書くわけにはゆかないでしょ〉

鈴木清順さんは著書『すっころび仙人の人生論』で回想している。
手がけた作品が「難解すぎる」と酷評され、
日活を解雇された一件はよく知られているが、
それは40代の頃の話である。

解雇から長い空白を経て50代のとき、
『ツィゴイネルワイゼン』で映画賞を総なめにした。
必死の職探しが、
独特の色彩感覚“清順美学”で功成り名を遂げてからの出来事であったことに、
改めて胸をつかれる。

薄情な浮き沈みの境涯に愚痴の一つも出そうなものだが、
お人柄だろう。
「好物の煮豆を食べ、
 酒を飲み、
 拾う神を待つだけだね」。
いつぞや、
テレビで飄々(ひょうひょう)と語っていたのを思い出す。
鈴木さんが93歳で亡くなった。

その人生論には努力や精進を説いたくだりがない。
〈不得手なものから奇蹟(きせき)は生まれぬ〉とある。
不遇結構、
無理解もよし。
天から授かった審美眼だけを得手と信じ、
銀幕に“奇蹟”を追い求めた人の矜(きょう)持(じ)だろう。



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