9月28日 読売新聞「編集手帳」
降旗康男監督『日本の黒幕』(1979年)は、
ロッキード事件をヒントに作られたことで話題になった。
政財界から暴力団にまでにらみをきかす主役は名優の佐分利信さんが演じた。
この映画、
タイトル中の「黒幕」を「フィクサー」と読ませる。
英語を直訳すれば「紛争の調停者」だが、
日本では昭和から平成にかけての汚職・経済事件で、
裏に潜み各界のつなぎ役となる人物をそう呼ぶことが多かった。
昔話ではないことに驚く。
最近までそのような実力者を頼った大企業があるらしい。
原子力発電所が立地する福井県高浜町の元助役(今年3月に90歳で死去)と、
関西電力である。
会長、社長を含む幹部ら20人が昨年までに総額3億2000万円相当の金品を、
元助役から受け取っていたことが分かった。
「町の有力者で助言や協力をいただいた。
関係が悪化すると事業に悪影響が出るかと思い、
(金品を)返せなかった」
(岩根茂樹社長)。
そこはかとなく畏怖が漂っている。
かつて事件記者のはしくれだった身には、
不穏な懐かしさがこみ上げる。
原発をめぐって地域に投下される資金のヤミがのぞいた。