MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

スコットランドの夕映え

2010-09-25 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

09/25 私の音楽仲間 (213) ~ 私の室内楽仲間たち (187)



           スコットランドの夕映え



         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




 "知られざる名曲"、"埋もれた傑作" ということばがありま
すね。 すでに不動の地位を獲得している人気曲の裏で、
再発見を待ち焦がれている曲のことです。



 「知名度の大きい曲以外にも、素敵な曲は無いだろうか?
何とか探してみたいな…。」

 私たちのグループでも、そんな意欲に燃えた方がいます。
別に "発掘してどうこう…" 言うわけではありません。 ただ
音を出して味わってみたいという、純粋な気持からです。



 しかしそれが報われることは、決して多いとは言えません。
音を出してみた後で、「…、へぇー、…」。 誰も「またやって
みたい」と思わないことさえあります。 お世辞にも。 たとえ
"大作曲家の作品" でもです。




 そんな中で私は、最近ある素晴らしい曲に出会いました。
「ぜひまた弾いてみたい、出来れば何度でも!」と思う曲に。

 いえ、それを自分が "知らなかった" と言う方が正確なの
ですが。



 その曲は、私にとって "五重奏の一日" となった日の、
後半の曲でした。

 メンバーは Violin が私、Su.さん、Viola が I.さんB.さん
チェロは Si.さんです。




 実は5人のうち、誰も弾いたことがない曲です。 Si.さん
でさえ! 「弾いたことのない曲なんて無いんじゃないの?」
… 誰もがそう認める方なのですが。

 その Si.さん、音源などで聞いたことはあっても、「周囲
でもあまりやらない曲」なのだそうです。 選曲の候補に
挙げたのも Si.さん。 期せずして全員がそれに同意した
のでした。



 肝心の曲名、それはあのメンデルスゾーンの、
弦楽五重奏曲第2番 変ロ長調 作品87 です。




 彼の残した弦楽五重奏曲は2曲。 いずれもスタンダード
な編成で、「Violin 2、Viola 2、チェロ 1」というものです。

 17歳のときの作品、第1番 イ長調 作品18と比べると、
さすがに堂々とした風格が感じられます。 …なーんて、私は
今回まで曲の存在さえ、ほとんど知らなかったのですが。 両方とも…。




 この曲は、38歳で亡くなる2年前の年 (1845年) に書かれた
もので、室内楽曲としては最後から2番目の作品になります。

 ちなみに、最後の曲は弦楽四重奏曲第6番 ヘ短調 Op.80
で、亡くなる年の1847年に書かれています。



 楽章は四つあります。 音を出してみて、どれも素敵でした。


 

 そこで各楽章を、メンデルスゾーンの他の作品のイメージで
表わしてみました。 私の独断と偏見によるものです。




 第楽章 変ロ長調 2/2拍子 Allegro vivace

   『ヴァイオリン協奏曲への愛着』 (第Ⅰ楽章)



 この有名な協奏曲はホ短調。 調性が全然違いますね。
にもかかわらず、どことなく雰囲気が似ているのです。

 まず拍子が、同じ 2/2



 それから、もしご存知でしたら、あの Violin の歌い出しを思い
浮かべてください。 「タァーッ タ / ターラ タ / ターラ …。」

 音符で言うと、「Si -- Si / Si - Sol ↑MI / Mi - Si …」です。

 この最初のリズムで出来ているのが、五重奏の最初の主題。



 Violin 協奏曲の歌い出しの後半は、5つの滑らかな4分音符
で、「Sol / Fa# Mi Do Mi / (Si …)」のように続く形。

 このリズムは第二主題の主な材料になっています。



 それに、8分音符の三連符がたくさん。 楽章の重要な
推進要素で、両曲に共通しています。

 極めつけは、その三連符で出てくる Violin の分散和音
(arpeggio)。 この協奏曲に一度でも挑戦したことのある
方なら、絶対に忘れない音形です。 これが、五重奏の
Vn.Ⅰのパートに延々と出てきます。




 「どうも偶然とは思えないな…。」 そう思いながら調べて
みたら、上の解説サイトには次のような記述がありました。



 「静養先のフランクフルトで作曲され、短期間で完成された。
なお、この間の4月に友人でヴァイオリニストのフェルディ
ナント・ダヴィット
がメンデルスゾーンのもとを訪れ、同年の
3月にライプツィヒで初演されたヴァイオリン協奏曲のことを
語ったり、4月に完成されたばかりのピアノ三重奏曲第2番
や旧作の弦楽四重奏曲などを一緒に演奏していたという。
これが創作力を刺激し、やがて弦楽五重奏曲第2番の作曲
を行った。」



 なーんだ、そうなのか…。 前年の1844年は、この協奏曲が
完成した年です。 ちなみにダヴィットシュポアの高弟。




 第楽章 ト短調 6/8拍子 Andante scherzando

   『SCHERZO の回顧



 スケルツォと言えば、あの『夏の夜の夢』



 でも、そちらは "Allegro vivace"。 軽妙な 3/8拍子ですね。
テンポがあまりにも違わない?

 ただ基本的なキャラクターは同じなのです。 作曲年代は
1843年とされており、この五重奏曲の2年前になります。



 "SCHERZO" の中ほどには、弦楽器全体が「タッ タカ タカ /
タッ タッ タッ」と執拗に繰り返す部分があります。 そこでは
木管楽器が長い音を吹き延ばしながら、半音階で上昇して
行きます。 ゆっくりと、不気味に。

 この五重奏曲では、ViolaⅡ が半音階で下降して行きます。
やはりゆっくりと。 しかしこちらは歌いながら、感慨を込めて。




 第楽章 ニ短調 → ニ長調 2/4拍子 Adagio e lento

   『スコットランドの残照



 これはもちろん、最後の交響曲『スコットランド』のこと。

 同じ第Ⅲ楽章で 2/4拍子の "Adagio" を思い浮かべます。
交響曲の楽章と比べて劇的な展開が多くはありませんが、
テンポはさらに遅く、抒情的です。



 楽章の終りの部分。 Vn.Ⅰが高い音で、pp から ff まで登り
詰めます。 背景では4人のトレモロが、聴く者の心を揺さぶり
続け、興奮を誘う。 ニ短調がニ長調になったと思うと、四人の
トレモロはいつの間にか歌に変わり、Vn.Ⅰにしっかり寄り沿い
ながらクライマクスを迎えます。

 興奮が一旦治まると、再び辿り着いた高い音は、今度は pp。

 最後の下降を終えると、先ほどの美しい夕映えは、もう消えて
いる。 温かいニ長調の夕闇が、辺りを静かに包みます。




 第楽章 変ロ長調 4/4拍子 Allegro molto vivace

   『ヴィルトゥオーゾの本領



 若いときの作品の一つに、ピアノ協奏曲第1番 ト短調 作品
25
があります。

 その終楽章は "Presto - Molto allegro e vivace" と書かれて
います。 風雲急を告げるようなオーケストラのト短調の序奏に
次いで、ピアノ ソロが颯爽と走り回りながらト長調で登場します。



 ともに16分音符が目立ちますが、こちらは室内楽。 「技術を
披露する」と言うより、「忙しく絡み合いながら」興奮が高まって
行きます。

 突然音楽が止まり、一瞬過去を振り返ったかと思うと、再び
全員が走り出し、息もつかせぬ ff で全曲を鮮やかに締めくくり
ます。




 この曲、いつかもう一度やってみたい。

 どの楽章も素敵ですが、私は第Ⅲ楽章がちゃんと弾ける
ようになったら、涙を浮かべて演奏してみたい。



 でも、滅多に取り上げない曲だって言うし。 そのときに
果たしてお声がかかるだろうか…?

 選に漏れたら涙が浮かぶだろうな、きっと…。




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