MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

羽を伸ばす Mozart

2014-01-22 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

01/22 私の音楽仲間 (554) ~ 私の室内楽仲間たち (527)



            羽を伸ばす Mozart



         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




 ご覧いただく譜例は、Mozart の 弦楽五重奏曲 ハ長調
K515
から、第Ⅰ楽章の冒頭部分です。

 チェロがいきなりテーマを奏で、これに Violin が応える。
楽章は、この二つの楽器が軸になって進んでいきます。



 演奏例の音源]は、この様子が再現部で顔を出す直前
から始まります。

 Violin は私、San.さん、Viola S.さん、Sa.さん、チェロは Sa.さん。







 チェロのテーマは、最低音の “Do” からスタートし、上の
“Mi” まで。 音域は2オクターヴを超えています。




 Mozart には6つの弦楽五重奏曲がありますが、編成は
すべて同じです。 〔弦楽四重奏 + Viola 1本〕。

 この曲 (1787年) は、その3番目の作品に当ります。



 ハ短調の第2番も、同じ年の作品ですが、こちらは自作の
編曲もの。  原曲は管楽八重奏のためのセレナーデで、
「1782年7月に作曲」…と書かれています。

 それは、こんなふうに始まります。







 このテーマ、音域の広さという点では、先ほどのチェロに
は及ばない。 原曲ではオーボエ、クラリネット、ファゴット
の6人が、この動きに携わっています。

 各楽器の特性と、それに音色を考慮すると、音域はこれ
が限度かもしれません。



 それにしても、よく似ていますね。 そっくりと言っても
いいほど。

 まるで、このハ短調の曲がきっかけになり、ハ長調の
五重奏曲が生まれたかのようです。




 こちらは、ニ長調の五重奏曲 (1790年) です。







 音域は1オクターヴだけですが、やはりチェロの
分散和音が先行しています。




 おっと、Violin がいきなり歌い出す曲もありますね。







 これはト短調の五重奏曲 (1787年) でした。




 以上は、すべて曲の冒頭です。 “オクターヴ、あるいは
それ以上の分散和音” が、テーマの一部としていきなり
登場していました。

 Mozart に特別な意図があったのかどうかは解りません。
ただ、偶然の一致にしては出来すぎのようにも思えます。



 大きく跳躍する分散和音は、弦楽四重奏曲でも聞かれます。

 しかしそれは、メヌエット楽章のトリオなどに限られています。
ソナタ楽章などの中心的な主題ではなく、エピソード的な役割
を果たしているにすぎません。



 その典型的な例は、ニ短調四重奏曲 K421 の第Ⅲ楽章
でしょう。 ニ短調のメヌエットの間には、Violin が伸び伸び
飛び回る、ニ長調のトリオがあります。

 これ、ハイドンを強く意識したハイドン-セットにある一曲
ですね。 それを思うと、まるで厳格な作曲技法から解放
され、自由に羽を伸ばしているようにさえ感じられます。




 全曲の冒頭に置かれた上行分散和音は、四重奏でも皆無
ではありません。 ただ “Do Mi Sol” のように、音域は狭い。

 それはプロシャ王セット中の2曲、ニ長調とヘ長調です。



 また ト長調の四重奏曲 K156 には、短調の分散和音で
始まる第Ⅱ楽章があります。

      関連記事 毒には毒を  演奏例の音源]

 これは、歌の緩徐楽章です。



 分散和音でモティーフを作っても、音域が広すぎると、
構成的な音楽には不向きでしょう。 展開などの技法
が用いにくくなるからです。

 Mozart の四重奏曲では、“下がって行く分散和音”
が現われる例のほうが、むしろ多い。 音符の数は、
ほぼ3つまでです。




 「弦楽四重奏よりも、五重奏曲、六重奏曲に名曲が多い。」
これ、Mozart や Brahms について、よく言われることです。

 この二人にとっては、四重奏という枠は狭すぎたのでしょうか。




 話を最初に戻して、ハ長調五重奏曲の第Ⅰ楽章。 数えて
みると、音符は8個。 ただし Violin の “Sol Do” を入れると、
連続10個になります。

 音が空高く舞い上がりながら、楽章は始まります。







 ちなみにこのモティーフは、チェロと Vn.Ⅰ に出て来る
だけです。

 また全体の368小節のうち、展開部は54小節しか無い。
このモティーフもチェロに4回だけ、ほぼそのままの形で
現われるにすぎません。




            ハ長調 五重奏曲

      [音源サイト    [音源サイト




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