MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

春になれば

2013-01-18 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

01/18 私の音楽仲間 (460) ~ 私の室内楽仲間たち (433)



               春になれば




         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




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 この記事を書いているのは、2013年1月。 日本全国が
寒波に襲われているさなかです。 あと数日で大寒…。



 早く春になればいいな…。 そう願わずにはいられません。

 私の場合、願うのは “人生の春” ですが…。 このまま
“冬” が続くのは辛い。




 さて、旧年中の師走のこと。 ある寒い日に、友人の Su.
さんが、アンサンブル仲間を3人、連れて来られました。

 ほとんどのかたとは、私もすでに面識があり、室内楽で
ご一緒したことがあります。



 お客さんは全部で4人です。 弦楽四重奏でも楽しんで
もらい、私は聴いているだけで、ビールでも飲んでいよう
か…と思ったのですが、そうも行きません。

 今回の主眼の曲は、メンデルスゾーンの五重奏。 二つ
あるうちの第2番、変ロ長調です。




 この曲は、“Viola が2本” の五重奏で、私はそのうちの
1本。 一度だけ Violin で接したことがあり、「素晴らしい
曲だ…!」と感じたのを、今でもよく覚えています。

 …などと言ったら、笑われそう。 他の4人は、私の何倍
も深く曲に親しんでいるからです。 弾いた回数は別として
も、曲自体を、少なくとも演奏会や音源でよく知っている。



 メンバーは、Violin M.さんK.さん、Viola 私、F.さん
チェロ Su.さんです。

 おまけに今回は、用いるのがヘンレ版です。 それも、
「以前から所有していて、遂にこの日が!」というかた
が、メンバーの中に一人いました。 もう負けそう…。



 この版で演奏してみると、音符の長さやリズムなど、
異なる箇所が各楽章で見受けられます。

 終楽章などは、“まったく別物” とさえ思われ、全員が
面食らったほどです。 一般的な “Edition Peters”には
無い、何小節かの句が挿入されていたり、あるいはその
逆だったり。



 ヘンレ版については、この場でも何度か取り上げています。
その真摯な製作、出版の姿勢からすると、主張には根拠が
あるのでしょう。

 案の定 Su.さんは、その後色々調べたそうです。

 先ほど電話で話したところによれば、「Edition Henle のほう
は、信頼のおける資料に基づいているが、それを誰かが改変
してしまったのが、Edition Peters だ。」…とのこと。



 しかしこれまでに流布している演奏は、ほぼすべてが
Peters 版によるもの。 Henle 版が現われてから、まだ
日が浅いのですから、無理もないでしょう。

 「一般的か、そうでないか?」…という問題は、物の真贋
を論議する際、本質的な問題ではありませんよね?

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 今回の演奏例の音源]は、第Ⅲ楽章 “Adagio e lento”
から、最後の部分を編集したもの。 相変わらず、無理な
カットが感興を削ぎます。




 「そうだよ。 カッテにカットしてもらっては困るね!」

 あ、メンデルスゾーン先生…。



 「これでは “ヘンナ版” だよ。 私はもう少し長く、
ニ短調の部分を Violin に歌わせようと思ったのに、
10小節半も短くなってるじゃないか。」

 …すみません。 これには理由があって。

 「??…」




 この音源ですけど、まずニ短調で始まりますよね。 それに
チェロが加わり、明るいニ長調に変わると、高音で美しく歌う。
Su.さんの音、綺麗でしょ?

 「…それはいいんだが、短調に一旦戻すのが、Violin の
役割なんだよ。 暗い音楽をもう少し持続させ、それから
やっと長調が再び現われる…。 それが私の設計だ。」



 でも、暗い冬は、短いほうがいいんです。 日本でも。

 「?」




 ほら、Violin が歌い始める “ニ短調の主題”。 そっくり
でしょ? どじょっこ、ふなっこ』の歌に。

 「??」

 『春になれば、すがこもとけて、どじょっこだの、ふなっこ
だの、 夜が明けたと、思うべな~。』 1'21" のところです、
音源の。



 「知らないね。 私が盗作したとでも言うのかい?」

 いえ、滅相も無い。



 「何でもいいが、この歌は長調だよね。 私は短調
で書いたんだよ? 確かに似ているテーマだが。」



 あ、春になれば、チョウチョウが飛び始めるから、
別に構わないんです! 先生。

 「………。」




 ところで、こんな写真もあるんですよ?

 「何かね、これは。 モグラ叩きかい? 冬眠中の。
叩いているのは、どうも “冬の魔女” らしいな。」

 いえ、部屋が寒いから厚着しているだけなんですよ。



        



 それに、先生。 叩かれているのは、モグラじゃありませんよ。
Su.さんです。 ほら、違うヒゲしてるでしょ!?



 「?? へぇ。 … “どじょっこ、ふなっこ” じゃないのか…。」

 …、……。




 以下は後日談です。



 冬の魔女 → Su.さん

 「あれ、いい音しましたよねー。 中身がいっぱい入ってる
頭だと、あぁーはいい音出ないな~(笑)」



 私 → 落ち込んでいる Su.さん

 「そんなこと、ないはずだよ。 スイカを見分けるときにはね、
叩いてキンキン鳴るのが “当り” なんだ。 スカスカ言うのは
中味がおいしくないんだってさ。」



 Su.さんは終始無言でした。

 ちなみに商品名は “ピコピコハンマー”。 私がレッスンで
用いる必需品です。




               音源ページ




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