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映画「ミッドナイト・クロス」・・・<恍惚の視線>デ・パルマ監督NO.2

2013-07-30 | ブライアン・デ・パルマ

■製作年:1981年
■監督:ブライアン・デ・パルマ
■出演:ジョン・トラボルタ、ナンシー・アレン、ジョン・リスゴー、他

先週見たジョン・トラボルタ、彼が出演している映画を見よう!ということでブライアン・デ・パルマ監督の「ミッドナイト・クロス」を見ました。この映画、実は私のお気に入りの1本で、生涯のベストテンを選べと言えば、先週に書いた同じくジョン・トラボルタ主演の「グリース」とともに必ず入ってくる映画なのです。この「ミッドナイト・クロス」を見た時のことはよく覚えていています。私が学生の時、試写会に応募してそれが当たり、KBSホールという京都のテレビ局のホールでこの映画を見たのでした。私はブライアン・デ・パルマ監督の流れるような映像世界に酔いしれ最後は美しい花火のシーンとともに涙してしまいました。映画を見てここまで感動するのかと自分でもびっくりするほどでしたが、私もまだまだ感受性が豊かだったんですね。

このように私にとっては忘れ難い至極の1本なのですが、この映画は取り立てて評論家には評価されていないようなのです。というのもあまりこの映画について言及されているものを見ることがないからです。が、私にとっては映像と音楽、そして役者がおそろしくマッチして、一つの気分のようなものを作り出し得ることに成功した見事な映画となるのです。

 

この映画はなんといってもブライアン・デ・パルマ監督の特徴である映像のエクスタシーとでも言えばいいような陶酔性のある映像テクニックに満ちています。それがなんともいい。他の映画では味わえないような醍醐味のある映像を見せてくれるのですから。またそれは映画館の大画面で見せるという行為を包摂した心憎いテクニックでもあり、それゆえに観客は没入し酔いしれることができるようになっているのです。それともう一つの監督の特徴であると私が考えている下世話な感覚も、同時に話の展開やそもそもの設定としてあって、その人間くささ漂うチープ感がたまらず独特のアンダーグラウンド的な映像世界へと引き込まれていくと思うのです。

そもそものヒロインが地位ある人間に近づきベッド・インしたところを写真で抑えゆするという女性だし、トラボルタ演じるサウンド・エンジニアも安物のB級ホラー映画で変質的な殺人者がシャワーを浴びている裸の女性を襲うその叫び声をなんとかしようとしている音響効果マンであるし、駅で公衆電話のボックスでフェラチオをするという娼婦が登場したりと、映画には下世話な性的な記号が至るところで埋め込まれているのです。それはあたかも下世話こそが人間の本当の姿だよと言いたげなようにです。

さらにこの「ミッドナイト・クロス」は実現が叶わぬプラトニックな愛情とそれを引き裂く無惨な死、そしてそれに関わるプロとしての仕事という絶妙な感覚が交じり合い最後はただただ花火と雪という季節の変遷も見せながら悩む主人公の後ろ姿を見せ、無償にせつなくなるのみなのです。

 

とにかくブライアン・デ・パルマ監督はもうひとつの名作「殺しのドレス」とともに私にとっては、ちょっと変な映画ばかり作るのですが忘れ難い好きな映像作家になっているのです。今回取り上げた「ミッドナイト・クロス」ですが、そこで使われている録音機器はテープレコーダーというアナログの機器で、今見るともう使っていないし、見たこともない世代もいる状況ですが、映像が見せるエクスタシー感覚は全然色あせていませんでした。むしろ、映像のセンスがやっと「ミッドナイト・クロス」に追いついたと言っても過言ではないくらい斬新であり、スタイリッシュであり、何度も書いてしまいますがエクスタシー(陶酔感)を伴うものを持っています。映像ファンであれは個人的には必見の作品であると私は信じて疑いません。

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1 コメント

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「ミッドナイトクロス」の高評価うれしいです。 (えみる)
2016-07-29 19:51:08
会社でB級映画の話が盛り上がり、「殺しのドレス」がB級扱いだったことを思い出し、Web検索をしてこのページにたどりつきました。
「ミッドナイトクロス」(原題:Blow outでしたか)よかったですね。私も評価されないのを不思議に思っていたので、同志をみつけてうれしかったです。私にも忘れられない英語です。 花火のシーンは、こんなに悲しい場面なのにとてつもなく綺麗で不思議な感覚に襲われました。いまでも、あらゆる映画の中の美しいシーンのベストだと思い出します。花火を見るためだけに、フィラデルフィアに行ってみたいです。
「殺しのドレス」からの流れで見たので、私にはデパルマが二つの映画で一対の挑戦をしたような感想を持ちました。「ドレス」のあの有名な美術館の無言のシーンが映像だけの表現を追求したのに対して、「クロス」では音がどれだけ映像のリアリティに影響を与えるかを(サブテーマとして)描いているような気がします。一緒に見た女性の友人は最後の音声の使用を「悪趣味」と切り捨てましたが、デパルマはその音声も結局は作り物だよと舌を出しているのではないでしょうか。
サブテーマということで言うと、「ドレス」はピーター(アンジ―ディッキンソンの息子)
の成長物語だと感じています。最初は頼りない子供だったピーターが、事件の解決に向けてどんどん男らしくなっています。悪夢から覚めたリズを「大丈夫、僕が守るから」とピーターが抱きしめる一瞬をラストに持ってきたことからも、デパルマは「ドレス」で男の子が男になる過程を盛り込みたかったのではないでしょうか。
ちなみにナンシーアレンは私にとってもマドンナでした。
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