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★★『日本のエロティシズム』百川敬仁(ちくま新書)★★
本書は日本におけるエロティシズムとは何かを江戸時代に登場した観念、<もののあわれ>というキーワードを手がかかりりに、各時代に書かれた文学作品を通してそれがどのように表現されてるかを読み解き、日本人の感性の底流に流れているエロティシズム感を明らかにしようと取り組んだものであります。その際、まず最初に展開された百川のエロティシズムについての考え方はとても興味ぶかく読むことができました。続く「源氏物語」、「好色一代男」、「曾根崎心中」、「東海道四谷怪談」、といった古典や森鴎外、泉鏡花、夏目漱石、三島由紀夫、村上春樹といった作家たちを例に出しながら、百川がエロティシズムのベースにあるとしている<もののあわれ>がどう表現されて、あるいは表現されていないかをその書かれた時代と重ねながら分析していきます。
ただそれらの作品分析を読んでいても、各部においてはなるほどねと頷けるところがあるもののの、百川の考え方に共鳴させるための決定的な説得材料になっているとは読んでいて正直思えませんでした。日本の…とうたっているわけですから、文学作品の細部のオタク的な?(学者的の方が適切かも)分析だけではどうしても弱いんですね。こう、ぐぅとくるものがありませんでした。それはひとつ作品の読み方としてインプットしておくべきかと。むしろ先に書いたように百川のエロティシズムの捉らえかたが面白いのでそちらに話題を絞りたいと思います。
彼の考え方は、“個体の自我が他者の自我もろとも自我出現以前の泡立つ混沌へ回帰し、精神の構造を維持しつづけることの緊張からどうにかして逃れたいという、自我の象徴的な死への欲望の自覚にほかならず、そうした欲望の自覚は他者に対する支配(性的に犯すことによる象徴的な殺害)と被支配(性的に犯されることによる象徴的な被殺害)の両方向の関係が交錯する演技的な協働作業によって性的快感の頂点へ近づいていく予期の時間のなかで十全に、そして最高度に味わうことが可能に”するものがエロティシズムであるとするのであります。それは“性的本能を制御することによって凝縮されたかたちで経験される根源的な時間感覚をその本質とする”のでありエロティシズムが人間固有のものであるかぎり“世界をどうしても時間化しなければならない”だというのです。
身近に照らして考えれば、人は生きて社会生活を営むこと自体において様々なストレスを感じざる得ないのであり、それはしごく当たり前のようなものとして存在している。そのストレスを発生させているのも、それを感じているのも自我という存在いえるかもしれない。エゴという言葉があるようにしょせんは自分のフィルターを通してしか世界と接することができないので、自分は博愛の精神でもって接していても他人からはエゴの塊のようにしか見えないのかも知れない。いずれにせよ人間関係はエゴとエゴ、自我と自我がぶつかり合うため、程度の差こそあれ緊張状態が強いられるのである。
しかしエロティシズムというものはいい意味で無我の状態へと導いてくれる神様が与えてくれた装置なんだろう。自我が溶解していくのがエクスタシーならそこへ至るプロセスが時間といえる。即物的であればあるほどそれはそっけない。自我は非日常的でさらに時間をかけて崩壊させるほどに、それが消えていく快感は強い。このエロティシズムの感覚は突き詰めていけば宗教的な感性に至る道もみえてくる。そうなってくると最早祈りにも近くなってくるのだが。
だからエロティシズムの感覚を満喫するには、ひとつは厳粛であるということ、ふたつめにはそれを意識した恥じらいと、みっつめには時間とともにゆっくり恥を脱ぎすてることが大切なんだろう…、本書を読んでそう思った。そしてそれは美しく神々しいと。
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ただそれらの作品分析を読んでいても、各部においてはなるほどねと頷けるところがあるもののの、百川の考え方に共鳴させるための決定的な説得材料になっているとは読んでいて正直思えませんでした。日本の…とうたっているわけですから、文学作品の細部のオタク的な?(学者的の方が適切かも)分析だけではどうしても弱いんですね。こう、ぐぅとくるものがありませんでした。それはひとつ作品の読み方としてインプットしておくべきかと。むしろ先に書いたように百川のエロティシズムの捉らえかたが面白いのでそちらに話題を絞りたいと思います。
彼の考え方は、“個体の自我が他者の自我もろとも自我出現以前の泡立つ混沌へ回帰し、精神の構造を維持しつづけることの緊張からどうにかして逃れたいという、自我の象徴的な死への欲望の自覚にほかならず、そうした欲望の自覚は他者に対する支配(性的に犯すことによる象徴的な殺害)と被支配(性的に犯されることによる象徴的な被殺害)の両方向の関係が交錯する演技的な協働作業によって性的快感の頂点へ近づいていく予期の時間のなかで十全に、そして最高度に味わうことが可能に”するものがエロティシズムであるとするのであります。それは“性的本能を制御することによって凝縮されたかたちで経験される根源的な時間感覚をその本質とする”のでありエロティシズムが人間固有のものであるかぎり“世界をどうしても時間化しなければならない”だというのです。
身近に照らして考えれば、人は生きて社会生活を営むこと自体において様々なストレスを感じざる得ないのであり、それはしごく当たり前のようなものとして存在している。そのストレスを発生させているのも、それを感じているのも自我という存在いえるかもしれない。エゴという言葉があるようにしょせんは自分のフィルターを通してしか世界と接することができないので、自分は博愛の精神でもって接していても他人からはエゴの塊のようにしか見えないのかも知れない。いずれにせよ人間関係はエゴとエゴ、自我と自我がぶつかり合うため、程度の差こそあれ緊張状態が強いられるのである。
しかしエロティシズムというものはいい意味で無我の状態へと導いてくれる神様が与えてくれた装置なんだろう。自我が溶解していくのがエクスタシーならそこへ至るプロセスが時間といえる。即物的であればあるほどそれはそっけない。自我は非日常的でさらに時間をかけて崩壊させるほどに、それが消えていく快感は強い。このエロティシズムの感覚は突き詰めていけば宗教的な感性に至る道もみえてくる。そうなってくると最早祈りにも近くなってくるのだが。
だからエロティシズムの感覚を満喫するには、ひとつは厳粛であるということ、ふたつめにはそれを意識した恥じらいと、みっつめには時間とともにゆっくり恥を脱ぎすてることが大切なんだろう…、本書を読んでそう思った。そしてそれは美しく神々しいと。
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