うめと愉快な仲間達

うめから始まった、我が家の猫模様。
犬好きな私は、チワワの夢を見ながら、
今日も癖が強めの猫達に振り回される。

総入れ歯を入れていない、お笑い怪

2022年04月09日 | カズコさんの事

バラ色の・・・

いや違う、

肌色の人生が、私に心の余裕をもたらしているのか、

私は、何度でもやってやる!

そう思えた。

 

おはようございます。

木曜日の夜、机の上でスマホが呑気な音を奏でた。

けれど私は、その呑気な音にドキッとした。

夜10時、こんな時間に電話を掛けて来るのは、父さんくらいしかいない。

私は慌ててスマホを手にした。

「おい、おかっぱよ。おれは怒れて怒れて、どうしようもねぇ。」

酷く酔った父の声だ。

「母さんは無事なの?」

私はまず、それが知りたかった。

母は、つい一か月前に心筋梗塞で倒れている。

普通なら、まだ入院していたって可笑しくない状態なんだ。

「ババァか?今、ババにも話しとったんや。怒れちゃってよぉ。」

父は、とにかく怒っているらしく、

凄まじい勢いで日ごろの不満を話し続ける。

「これ、どう思う?おい、どういうことや?」

どう思う?と問いかける父に、相槌を打とうとしても、そうすると、

「うるせぇ。黙って聞け。」

と怒鳴る始末だ。

私は、スマホを耳に当てたまま、適当な衣服を着た。

パンイチ時間は強制終了だ。

それと同時に、電話も切って、家を飛び出した。

 

実家へは、のんびり歩いても1分でたどり着く。

けれど、この時ばかりは、実家への道がとてつもなく長く感じた。

夜空を見上げれば、三日月の明かりは優しい。

空気は生温かく、穏やかで静かだ。

最高に美しい夜だ。

そんな中、私の顔は、きっと最低に醜く歪んでいる。

「あぁぁ、腹立ってきた。」

外が酷い嵐だったら、こんなに腹が立たなかったはずだ。

美しい夜は、醜いものを際立たせてしまう。

 

そのおかげで、

実家の玄関ドアを開ける頃、私の怒りは完璧に仕上がっていた。

靴を雑に脱ぎいながら、叫んだ。

「なんだっていうの?

こんな時間に電話あったら、母さんがまた倒れたかと思うじゃないの。

何がなんだっていうの?」

叫び終えた頃、食卓に座る老夫婦が見えた。

まるで、場末の飲み屋みたいだ。

そこで最もタチの悪い酔っ払いが、怒鳴り返してきた。

「お前ごときが、俺に怒鳴るなぁ!」

「お前ごときだと?クソくだらねぇことで電話してくるようなヤツに

お前ごときと言われる筋合いはねーんだよぉ」

驚いた。

私は、自分に驚いた。

こんな罵り方、咄嗟に出るものなんだなぁと、驚いたのだ。

 

そこからは、もう止まらない。

互いの言葉など聞きもせず、勝手に主張し続ける。

なのに私は、父さんのある一言で、パタッと停止してしまった。

「オレを敬え!」

父は、停止した私にも気づかず、主張し続ける。

延々と我を忘れてしゃべり続ける内容は、

恐ろしく自分勝手で、背筋が凍るような、みっともない最低な内容だ。

「オレは会社を3度も作ったんだ。

全部、俺のおかげで俺の力だけでやったんだ。

それなのに、あいつら(親族)は俺の電話を着信拒否だ。

なあ、おい、どう思う?

どいつもこいつも、何様のつもりだ?」

 

だから、拒否されているんだよ。

私は、そう思った。

でも言わなかった。

黙って見ていると、

まるで、父が老いぼれた演歌界の大御所みたいに見えてきた。

かすれた声で、ろくに音程も保てていないのに、それさえ気づかず、

安っぽい張りぼての前で、

自信満々に歌っている大御所の、切ない歌謡ショーだ。

私は、自分の怒りが急激に収まり、その分恥ずかしくなった。

こんな哀れなショーのバックで、踊らさるバックダンサーの気分になった。

 

ここで私は、ようやく、母が気になった。

母と言えば、大御所だろうが関係なく、咬みつく狂犬だ。

この日は、やけに静かだったから、確認が遅れた。

「かずこさんも、ジジにつられて、酒いっぱい飲んじゃってるんでしょ?」

私は、場を切り替えるためにも、

幼子をからかうような口ぶりでそう言ってみたのだけれど、

母の握っていたグラスには、黒い液体が入っていた。

「わしは、コッヒ飲んどるんやぁ。」

総入れ歯の入っていないかずこさんは、笑顔で、そう言った。

そして私は、こんな最低な状況下でも、やっぱり、プフっと笑いが漏れてしまった。

 

私が記憶する限り、ここ10年で、もっとも笑えるのが、

総入れ歯の入っていないかずこさんだ。

満を持して放送されるお笑い特番より、

総入れ歯を入れていないかずこの方が断然面白いのだ。

しかも、怒り狂う老人の横で、

平和そうに、ちょこんと座って、コッヒなるものを飲んでいる、

総入れ歯を入れていないかずこさんは、

もはや狂犬どころか、座敷童か何某かの妖精の佇まいだ。

面白い・・・

そして、そこはかとなく愛らしい・・・

 

「お酒飲んでないのね。かずこさん、偉い、偉いわ~。」

そう言うと、母は不思議そうな顔で、

「ジジは、なんで、こんなに怒っとるんや?

誰かに、何か言われたんか?誰が悪いんや?」

と言うではないか。

今までも、ずっと同席していたのに、何も聞いていなかっただなんて、

完全に笑ってしまった。

「誰も悪く無いんだよ。みんな、懸命に生きているだもん。

だから、時に行き違ってしまうことが、あるのよ。」

そう伝えると、母は深く頷いた。

きっと、何にも分かってない。

分かってないくせに、そうやな~っという顔の

総入れ歯を入れていないかずこさんは、父をも笑かした。

それを見て、もう大丈夫そうな気がした。

「うっわ、もう12時過ぎてるじゃん?そろそろ帰るわ。

父さん、また、やろうな!」

私は、そう言って、高笑いしながら実家を後にした。

 

また、やってやろうと思った。

何度でも、この酷くバカバカしい歌謡ショーに参加してやる。

私は、どういう訳か、そう思えた。

この有限の時の中、

我を忘れて怒り狂える相手なんて、そうはいない。

そして、そんな時は、もう長くはないはずだ。

だって父さん、86歳だから、さすがに、そんなに長くないだろう?

どうなの?あの人たち、いつまであんなに、元気でいられるの?

 

そんなことを問いかけようと、月を探してみると、

三日月は相変わらず優しくて、空気は生温かく穏やかで静かだが、

私は、下手なステップを踏み鳴らし踊るように歩いていた。

 

さて、我が家にも、不穏なのに、面白い光景が見られる。

また、奪い合いしてるのか?!

 

あや「シャーーーーー」

 

この後、あやさんにぶっ飛ばされるかと思いきや・・・

 

共有に成功!

お互い、こんな険しい顔だけど、成功!

 

あや「これ以上動いたら、やってやるわ!」

 

石と化した、おたま。

君は、それでも幸せなのかい?