父が入院して、4日目の朝を無事に迎えた。



のん「かかぁ、かかぁ」
父が入院して、4日目の朝を無事に迎えた。
『義康は入院しました』
道端に、小さな雛が落ちていた。
しゃがんでよく見てみれば、
もうすっかり干からびていたけれど、
哀れに思い、そっと掴んで草むらへ寝かせた。
私は、干からびだ死骸を眺めながら、
しばらく考え込んでしまった。
おはこんばんちは。
私には、こんな優しい気持ちだってあるくせに、
どうして、あんなに酷い気持ちも湧き上がってくるのだろうか。
そう考え込んでいたのだ。
父さんは、坂を転がり落ちるように異常性を増していく。
とはいえ、かずこの可笑しさより、うんとマシだが、
朝、父さんが晩酌をしていると、一旦ぞっとする。
朝か夕方かが、分からんくなっているのだ。
これが何日も続き、父さんの体内時計の狂いはなかなか治らない。
朝も昼も夜も、様子を見に行けば決まって酒を呑んでいる。
こうなると、
酒を呑むから狂っているのか、狂っているから呑んでいるのか分からない。
今朝はどうだろうか?(へべれけだったぁ。)
物忘れも酷くなってきたが、ついにある日、父さんは、
「夜中、男が来とった。ババァを問いたださんといかん。」
と言ったのだ。
私は、自分の体の芯がガタガタと振るえているのを感じだ。
それとほぼ同時に、訳の分からない怒りが噴火した。
「そんな訳ないじゃん。それは妄想?酒の吞みすぎ?どっち?
だから、酒を控えてってずっと言ってたんじゃん?!
いい歳して、いつまで吞んだくれてんだよ。
自分だけが苦しいと思ってんじゃねぇよ。
もう、しっかりしてってば!いい加減にして!!」
父さんが狂って来たのは、車を手放した時期だ。
私は、免許更新を応援していたが、
父さんはこの頃から、日常ではない用事や外出への対応が出来なくなって来ていた。
ちゃんとやらなければという思いがプレッシャーとなり、
そのプレッシャーのせいで、思考が混乱するのだろう。
私は、その様子を見て、運転はもう無理だと判断せざるを得なかった。
「車を取り上げられたから、俺はおかしくなったんだ」
父は事あるごとに、そう言う。
1日に10回は言う。
こうなると、卵が先が鶏が先かだ。
挙句に、
「俺が一人でババァの介護しとるんだぞ。
だから、俺までおかしくなった。ババァのがうつったんだ。」
と言い出す。
「はぁ?何言っとるの?
父さんは、かずこさんを罵倒してるだけじゃんか。
ご飯を茶わんによそってやることさえしてやらないどころか、
かずこさんにやらせて、文句言ってるだけじゃん。
だから私が、毎日毎日、駆けずり回ってんの。
貴方は、病気一つある訳じゃないくせに、
さも世界で一番大変で苦しい思いしてるような振りして、
ゴロゴロ寝転がって、文句言ってるだけじゃねーか!ふざけんな!!」
私は、この後の言葉だけは、なんとか飲み込んだ。
死ね、クソジジィ!だけは辛うじて飲み込んだ。
こんな見苦しい言い争いの最中、
かずこだけが、まるでお地蔵さんみたいに、お行儀よく座っている。
本当にまっすぐ、どこも見ず、微笑みを浮かべて座っているのだ。
それに気付くと、ハッと我に返り、不思議なくらい怒りが収まる。
かずこは、よく粗相もするようになった。
我儘は相変わらずで、難易度は、高めだ。
だけど、私は今、かずこが愛おしくて仕方ない。
私は、ケアマネージャーに
「かずこさんのことは守っていきたいけれど、
私・・・どうしても父のことは無理です。あの人は無理。
あの人の介護はしたくない・・・。」
と言って俯いてしまった。
ケアマネージャーは
「ほんとはね、かずこさんを施設に預けるのが良いとは思う。
思うけど、今のかずこさんでは、おそらくまだ難しい。」
と言う。
やっぱり難易度高めなのだ。
いまだに、時々、デイサービスセンターからSOSの連絡が来る。
以前、重度心筋梗塞で入院した時も、
病院の歴史上始まって以来の2泊3日で帰されるほど、
かずこは環境の変化に適応できない。
孤高の野良猫だ。
「だから、父にはせめて、正気で居てもらわないと。
かずこさんへの罵倒は辛いけど、そこは私が守る。守りたい。
だけど、父はどうしても受け入れられない自分がいます。
北風と太陽も通用しない。
どうしたって裏切られるんです。
でも考えてみれば、かずこさんのことも初めはそうだったから、
もう少し頑張ってみます。
父のことも、この山を越えたら、受け入れられるのかもしれんですもんね。
あたし、頑張ってみます。」
かずこを施設に入所させるのは難しい。
だから、うちの両親の場合、現状、自宅介護の一択なのだ。
どうしよう・・・
見ず知らず、とっくに干からびた雛を哀れと思うくせに、
どうして、父に優しくなれないのだろうか。
この日、
私は雛の姿を思い浮かべながら、父と相変わらず言い争っていた。
言い争いながら、気が付いた。
私が父を嫌だと感じているのは、私の嫌な部分を父に見出しているからだ。
私がもっとも隠しておきたい、妬みやそねみ、被害妄想、嘘つきな自分。
楽になりたいという思い、逃げたい、曲がった顔がいや。
楽して金持ちになりたい、
ああ、銭が欲しい・・・・せめて、顔のシミ消したい!
わんさか出てくる、嫌いな自分。
私は、父さんと何も変わりはしない、生臭い人間だ。
「あぁ、ちくしょうめ!あたしも同類だわ!
父さんと同類だ。
苦しいのは誰のせいでもなかった。
こんな自分が嫌なんだ。
だけど、湧いてくるもんは消せない。
だったら、このまま行くで。こんな感じで行く。
グチャグチャになりながらでも行くぞ、クソジジイ!
絶対、絶対にあたしはクソジジイからも自分からも逃げない。」
そう言って、涙を潤ませながらかずこの頭を撫ぜていると、
父さんも瞼を手で拭いながら苦笑いした。
その時、私は、なぜか清々しい気分になっていた。
自分は、簡単には変われない。
どれほど嫌でも、
嫌な自分は湧いてくる。
それも自分だと、心底納得したら、さぞや気楽だろう。
私は、見苦しくグチャグチャな自分と向き合う覚悟が持てた気がした。
父にも自分にも、期待など持たなくていい。
むしろ、どこに期待を持とうとしてたのだろうか?
笑っちゃう。
変われないくせに、変えられるもんなんて、無いのだ。
がしかし、月は変わっていた!
今月は、あやとのんちゃんだ。
君らも相変わらずだな。
とくに、のん太よ!
のん太「おじさん、そこ退け!のんの陣地らぞ!!」
おじさん「のんちゃん、どしたの?撫ぜて欲しいの?」
のん太「ちゃわるな!」
のん太「早く退くんら!!」
相変わらず、おじさんに懐かないねぇ〜ウフフ
これは、
認知症ならではの被害妄想だろうか・・・
おはようございます。
昨日、朝ご飯を作りに実家へ行くなり、
父が、
「俺の薬どこへやった?
お前が変な操作してるんじゃねぇかと思ってる。」
と言った。
父は、脳神経内科では、今のところ認知症ではないという段階らしい。
加えて、他の疾病もない。いうならば、健康体なのである。
とはいえ、90歳の体は着々と衰えてが進んでいる。
特に足の衰えに、父は不便を感じ苛立っている。
病院へ行く度、足の衰えに効く薬を欲しがるが、
そんな薬はない。
ない中で、医師は最善を尽くす。
「足の浮腫みが動かし辛い原因かもしれないから、
ちょっと利尿剤を増やしてみましょう。
あと・・・一つ、倦怠感が出やすい降圧剤を替えてみましょう。
それとねぇ、やっぱり運動するんがいいねぇ。足、頑張って動かしましょう!」
と試行錯誤している。
皮肉にも、
父のような持病を持たない老人の方が、出せる薬が多い。
持病に悪影響が出るといった問題がないからだ。
かずこのように、心不全・脳梗塞・アルツハイマー・てんかんと
いろいろやっちゃってる人の方が薬が少ない。
父の場合は、ほとんどが栄養補助薬だが、
その種類が、えっと・・・何種類だったかな?
そんな具合だから、薬の管理は私がしていた。
朝に飲ませる薬が、えっとえっと・・・たぶん8種類。
それでも、父の衰えは止められない訳で、
「もっと効く薬があると思うだけどなぁ」と言い、
挙句、私が父を悪くさせるよう画策しているという思考に至ったようだ。
無茶苦茶だ。
愛知弁で言うなら、「わや、こいとる。」だ。
これを認知症の症状とみるか?
そこが難しい。
父さんはそもそも、こういうことを言いがちな人なのだ。
こういうタイプの性格の悪い人間だ。
ということは・・・
「うん、正常だ!」
ケアマネージャーも、
「ん~、お父さんはまだ、認知症とまではいかないかな」
と言うし、正常だと判断しよう。
いっぽう、絶好調のかずこさんなら、こうなる。
「あのよぉ、わしの指輪全部、ナオが持ってった。」
ナオとは長女のことだ。
そして、かずこの指輪は、
数年前、かずこ本人が、すべて悪徳買い取り業者に売ってしまった。
かずこさんは続ける。
「ほんでよぉ、財布の中身も無くなっとるんや。」
玩具銀行の1万円札を、盗られたと言う。
真実は、デイサービスでスタッフにチップとして配りまくっているのだけれど、
かずこは言う。
「それはよ、ナオじゃないぞ。金を盗るんは、おかっぱや。
あいつは、上手に抜き取るでなぁ。本物の盗人や」
私の目の前で、おかっぱを盗人呼ばわりだ。
これこそ、滅茶苦茶だ。
滅茶苦茶、面白い!
「ああ、おかっぱなら、やるな。あいつは油断ならんね。」
そう言って、のってやると、かずこは、
「昨日はわしに見つかって、しれーっと財布に戻しとったでぇ」
と笑いながら、妄想を続ける。
そして、しめは、
「ナオもおかっぱも、盗人で食っとるから、
多少はやらせてやらんと、仕方ねえわな。」
と、実に慈悲深い理解を示すのだ。
そんな、被害者のかずこさんも、デイサービスでは要注意人物だ。
デイサービスに持って行くファイルに、
何から何まで入れ込んで持って帰ってしまうのだ。
時には、針山。
別の日は、色鉛筆セット。
誰のか知らんが、他人の名札の日もあり、
アンケート用紙30枚をどっさり持って帰って来た時は、
さすがにスタッフさんも驚いた。
「あんな大量な紙、いつファイルに入れたか、まったく気が付きませんでした。」
かずここそ、プロのなせる業なのだ。
盗人で食っている!
私ら母娘は、もはや盗賊だ。
『愛知のキャッツアイ』
そんな訳で、
父さんが認知症だろうが、正常だろうが、
それが分かった所で、どうにもならない。
疑われた時は、瞬間的にめちゃくちゃ腹が立ったが、
考えてみれば、私は『愛知のキャッツアイ』のナンバー3『ほっかむり』だ。
疑われても仕方ない部分がある。
目の前に薬がないことが、まず不安なのだろうと考え、
昨日は、朝・昼・晩の薬を30日分、全て小袋に分けて
でっかい箱に入れて、父に渡した。
「これが全部ね。飲むか飲まないか、
父さんの意志で決めてくれればいいから。」
さて、君達は?
挨拶できた後に、この間。
猫は互いの目を見ないよう、気まずい空気が漂う時がある。
すぐ、どっちかが、その場を離れればいいが、
その期を逃すと、こうなる。
こんな顔になる。
そんな時は・・・
「おーーーい、こっちこっち」と声をかけてやると、
「あ~、たすかった~」
と変な間が無くなり、動きやすくなるという訳だ。
我が家の猫らは、
すっかり通常モードだ。
おはようございます。
あやは朝から騒がしいし、おたまは寝てばっかりだし、
のん太は、いつもより甘えん坊になっている。
保護猫がいた時は、その時限定で、
あやは脅かさないように静かだし、おたまは子猫のために立ち上がり、
のん太は、甘えん坊を封印して、まるで母のように世話をする。
それが旅立った瞬間、通常モードに戻るのだから、
猫は凄いもんだ。
そんな様子を見ると、
「さて、私ももう一丁、やらんとかんな」と思うわけで。
ヨシヤスな!
私の父だ。
去年末から、一気に衰えた様子のヨシヤス、
愚痴と文句は衰えるどころか、愚痴と文句のスペックが上がっている。
とりあえず、総合病院で体のあちこちを調べても、異常無し。
病気も見つからないし、なんと、認知症もないという。
「あのボケはなんなのだ?」
さては・・・
ヨシヤスは昔から、手段を選ばない。
自分の欲求のために、
脅してみる。ごねてみる。下手に出てみる。暴れてみる。嘘を付いてみる。
などなど、人の迷惑顧みずだった。
それでも叶わないと、
「家族もろとも、不幸にしてやる!」と言って、
さらに、自分を拗らせるのだ。
いわゆる、メンヘラDV男だ。
さては、
わざとボケたりして、私を困らせて、思い通りに行かない己を慰めているのじゃないか?
こんな歳になっても、それでもその手段を使っているのかと思うと、
殺意が湧く。
いや、湧いていた。
「なぁんだ。父さんは弱い人間なんだ。」
俺ほど辛抱強くて、俺ほど強くて、俺ほど働き者はおらん。
昔から、魂に刻まれるほど、そう言い聞かされてきたが、
冷静に記憶をたどってみれば、
「こいつ、全然、たいしたこと、してねぇ!」
ということに気付いた。
たしかに、辛抱強いし、厳ついし、働き者だったが、
その裏で、
私と姉は辛抱し、暴力と戦い、
親を頼らず幼い頃から何でも自分でやってきた。
それは、伊達じゃない。
「私も、辛抱して耐えて、こんな親の元で育った強さがあるからさぁ。
父さん、やるならやりな。
子供だましの手段なんてね、小手先で潰してやるよ。あーっはっはっはーーー」
私は父の前で、そう言って、高らかに笑って見せた。
ヨシヤスの文句、全て奪います。
文句のもの字が出たら、その文句の矛先を改善する。
何不自由なく暮らせるよう、先手先手を打ちまくってきた。
するとヨシヤスは、頑張って文句を探し始める。
それはもう、ただの因縁だ。
そこまでするとなると、もはや哀れで笑えて来る。
「父さん、頑張って文句探しとるねぇ。見つかった?
文句、見つかったんか?脳トレになるぞ~。頑張れ!」
ところが、
当のヨシヤスは、すっかり生気を無くして、もう寝てばっかりになった。
「足が弱って来て、うまいこと歩けん」
やべっ!
やり過ぎたーーーー!!
そうなると、さすがに反省だ。
文句を奪ってやると息巻いていたが、私はやり過ぎた。
人ってのは、何でもやってもらうと、それはそれでストレスになる。
なんでもやらなきゃいけないのも、ストレスだ。
文句言うのもストレスなくせに、
文句が言えない生活は、生気を奪う。
ややこしい生き物だ。
どっちにしても、ストレスになるんだなっということを目の当たりして、
反省以上に、勉強になった。
ヨシヤスの機能を考慮して、やれることはやってもらおう。
愚痴や文句は、スルーしよう。
ヨシヤスを弱らせたことへの反省は・・・もう済んだ。
お互い様だから。
私も苦しんだし、ヨシヤスも苦しんだ。
苦しんだ先に、今があるんだから、それでいいじゃんっと思えている。
ということで、今後の目標は、
ヨシヤス、デイサービスへ行けーい!だ。
リハビリに特化したセンターで、ガツガツ足腰を鍛えてもらおうと思います。
おい、おたま!
お前は最近、立ったとこ、あまり見ないけど、
それでいいのか?
おたま「猫は、それでいいだ。」
だね。