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うめと愉快な仲間達

うめから始まった、我が家の猫模様。
犬好きな私は、チワワの夢を見ながら、
今日も癖が強めの猫達に振り回される。

敵は己にある? 2

2025年04月18日 | 稲川淳子の怪談

 ああ、悪口が止まらない・・・。

微笑んでいる地蔵にも、ますます可笑しくなっていく父にも、

父から訳もなく責め立てられ、怒ることさえ忘れ戸惑うかずこに対し、

私までもが苛立ち、きつく当たるようになっていった。

ダメだ。

違うんだ。

心では止めようとしても、

「どうして、お皿がこんな所にあるの?

父さん、だから母さんにやらせるなって言ってんの。

あんた、病気でもないのに、どうして病気のかずこさんを使うの?

そんなことしてて、恥ずかしいと思わないの?

ああ、もうっ!

かずこさんは触らないで。

何も触らないで!

あっちいっててよ!!」

と叫んでいた。

叫びながら、

母を担当するケアマネージャーに言った自分の言葉が脳内に響く。

『私は、母の笑顔を守りたいです。』

そのはずが、今かずこは私に怒鳴られ、しょんぼりと自室へ歩いていく。

「あっ・・・」

はっと我に返り自分に言い聞かせる。

違う。 こんなんじゃダメ。

気を取り直そうと息を深く吸うと、

悪臭はますます体内に染みこんで来る。

部屋の中は、荒れ放題だ。

床には、かずこの食べこぼしたカスが無数に転がっている。

拾わないと。

掃除しなきゃ。

動こうとしても、どこから手を付けたらいいか分からないほど荒んだ部屋を見て

途方に暮れた。

かずこのとこ行って、笑わせないと・・・。

「かーずこさん?ごめんね。」

「わしよぉ」

「うん?」

「あのクソじじぃ、こらしめたるでな。いっひっひっひ。」

困ったような、ハの字まゆ毛のまま、笑うかずこに、

「あははは、笑った。かずこさんが笑ったぁ。」

と言ったら、涙がこぼれた。

 

この頃、私も父のように、まったく眠れなくなっていた。

まともな食事も摂った記憶がない。

体のあちこちに湿疹ができ、肌荒れも酷い。

怒りや苛立ち、焦燥感で疲れ果てているくせに、

血液は怒り狂ったように沸騰している。

 

そういえば、一年前、見ず知らずの老人が枕元に現れたことがあった。

あれはきっと、かずこのお祖父さんだ。

老人は、いろんな話を聞かせてくれたはずだが、

覚えているのは1つだけだった。

『いいか、稲川さん(父)の因縁と向き合ってはいかんぞ。

おまえの手には負えるものじゃない。

お前の命が取られる。』

 

1年前は、あの老人の言葉の意味が分からなかった。

けれど、今なら、

「こういうことか…。」

悪霊は、何もない所に忍び込んでは来られない。

人の憎悪や苦しみを見つけた時、その傷口に入り込み、共鳴し悪霊となる。

憎悪や苦しみが深ければ深いほど、巣食いやすい。

「あたし、もしかして、

父さんに憑いたヤバい何某かと共鳴している?』

だったら、これ以上アイツと向き合ってはダメだ。

自分の心と向き合わなければ。

 

それ以来、意識すればするほど、

自分の狂気と正気が交錯し、

凄まじいストレスで頻繁な動悸で立てなくなるほどの眩暈に襲われる。

「あぁ…あたし、死ぬかも。」

 

そんな最中、実家で唯一まともだったのは、かずこだった。

現状を説明したって、理解など出来ない認知症患者が、

「おまえ、えらい顔しとるぞ。

病気やないか?わし、病院連れてったる。」

と、私を気遣い、

理不尽に怒鳴り散らす父にさえも、

酒の入ったグラスを倒せば、咄嗟に塗れた箇所を拭いてやる。

しかし、そこは認知症のおかげで、

かずこが拭き取るために手に持ったのはサランラップだった。

かずこはサランラップが液体を吸い取らないことも、

理解できないほど進行している。

サランラップで丁寧に拭き取ろうとするかずこに、

まともじゃなくなっている父は、気付かない。

まったく、まともじゃない光景だ。

しかし、幸い、私はぎりぎり気が付いた!

「優しいね、かずこさん・・・」

かずこは、いつだって、

「あんなクソじじぃ、はよ死ねばええのに」っと笑いながら言う。

死ねばいいなんて言うくせに、こんな時は咄嗟に手を差し出す。

この優しさは、なんだ?

私は、かずこの行動が、この世の中で極めて純粋なもののように感じた。

まるで、幼子か、野良猫だ。

心が鎮まって行く。

かずこだって、何から何まで介助が要るほど、

絶望的にボケているというのに。

その時、自分の体臭と悪臭が混ざり合う汚れた空気の中、

私の鼻腔の奥の悪臭が消えた。

 

そんなわけで、私は翌日、急いで、

「たーしゅけてー、お姉ちゃーーーん」

と、姉に泣きついてみた。

この期に及んでも、やはり他力だ。

不思議なことだが、今まで、

誰かに相談するという発想が浮かばなかったのだ。

悪臭が消え、ようやく正気に戻ったのかもしれない。

姉は、

「そんなことになってたの?もっと早く言ってくれればいいのにぃ」

と言って、すぐに動いてくれた。

そのおかげで、詳細は言えないが、 やはりラッキーなことに、

私にへばり付いていた何某かは一掃してもらえた。

そして、その翌朝、実家へ行ってみると、

荒れ果てていた部屋もベランダも、綺麗に掃除されていた。

どう考えても、父の仕業だ。

かずこでは難しい。

綺麗好きな父にしか出来ない完璧な仕事。

ほとんど寝たきりだったはずの父が、久しぶりに掃除をした。

そして、

「おぉ、淳子か。いっつも、ありがとな」

と穏やかな顔で言った。

昨日までの亡霊みたいな父とは、まるで別人で、私は逆に引いてしまった。

 

父に憑りつく何某かは、家系での深い因縁のあるものらしい。

それを完全に祓う事は難しいとのことだ。

今は、そいつを鎮めた状態らしいが、

かずこが長年苦しんでいた因縁というのは、おそらく、そいつだ。

だから、私はまだ気が抜けない。

けれど、父はあの数か月をすっかり忘れている様子だ。

「認知症? これこそ、本格的に認知症なのでは?」

あるいは、やっぱり悪霊に乗っ取られていたからなのか?

そう思うと、さらに、いろんな意味で気が抜けない。

現在も時々、父がアイツと戦っているように独り言を言ってる時がある。

アイツとは、悪霊であり、けれど自分の中の弱い自分でもある。

私も、今回の事で、自分の中の弱い自分を思い知った。

そして再び、あの悪臭が漂ってきた時、

それは悪霊だけのせいではなく、自分の弱さが招いたことなのだと、

肝に銘じておこうと思った次第だ。

本当に怖いのは、

見えもしない、何者かも知らない何某かなんかじゃない・・・のかもしれない。

 

「た~しゅけるら~」

おっと、のんちゃん、どうしたの?

のん「かかぁ・・・のん、もうだめら」

 

のん「笑ってる場合らないら。かかぁったら!」

 

「怖いのは、人間の心よ。

あんただって、いつ、あたしから目を逸らすようになるか、

分かったもんじゃないわ。

あたしはね、そういう人間を何人も見て来たのだから」


敵は、己にある? 1

2025年04月16日 | 稲川淳子の怪談

gooブログサイトが終了するって。

あたしゃね、戦慄が走っちゃった。

ツーっと背筋がひやーっとしちゃったんだ。

あれ?なんだ?

ヤバいなぁ、こわいなぁ、やだなぁ。

引っ越しっつっても、あたしゃ機械が苦手で。

さて・・・これからどうなるのかなぁ。

そんな訳で、

お久しぶりです、稲川淳子です。

ちょっと長いので、2回に分けてお話ししましょうかね。

怖いですね~。

いえね、この話。

お化けってのは、全く出て来ないんですがね。

何が怖いんでしょうかねぇ。

 

 去年の暮れ、父の様子は一変した。

 いや一変したというよりも、むしろ遂に正体を現した。

 

 かずこは昔から、酒におぼれては、

「あの人に憑りつく因縁がどうしても取れんのや」

 と、酷く苦しそうに吐き出していた。

幼い私は、父の因縁より、

酒を飲んで立てなくなり うごめくように這うかずこの方がよほど不気味で恐ろしかった。

それどころか、実家では、日常的に、 照明はパカパカ点滅し、

玄関には、どこのどなたか知らない人が ただただ蹲っていたり、

 爽やかな春の日差しを浴びようとカーテンを開けても、

これまた別の どなたか知らない人が、窓の向こうにへばりついてじっとり見ていりして、

ぎょっとした。

 深夜には、意識もないまま眠るかずこの読経する声が響き、

家族全員、飛び起きた。

しかし、人間は、生育環境によって、何にでも慣れてしまう。

 受験中の姉は、寝ぼけ眼で

「もう、ほんと怒れちゃう!」

 と怒りながら起きてきて、こう続けた。

「勉強合間に仮眠取ろうとしてんのに、誰か知らんけど、

 私の腹に、どんどん乗ってくるじゃんね。

 しかも金縛り状態で逃げれんもんだから、 寝れやしないじゃん。

 いいかげんにしなさいよって怒鳴ったら退いたけどさ。

 もうほんっと、怒れちゃう!」

姉にとって、それは怖い思いをした怪談ではないのだ。

 とにかく、睡眠を邪魔されて怒れちゃう話なのである。

姉をこよなく尊敬していた私は、この発言を聞いて、更に姉にひれ伏したが、

さすがに、

「姉ちゃん、それは・・・怒る話じゃないから」

とささやかにツッコんだ。

 そんな怪奇現象に見舞われても慣れてしまう程、実家はまるでお化け屋敷だった。

どれもこれも、 母の霊媒体質のせいだと思っていた。

 

 霊媒体質のかずこの血を引く私はといえば、

 姉曰く「あんたはね、霊感が強いというより野生が強い!」らしく、

野生の勘で、何某かを感知してしまう事が時々あるのだが、

その時々が、やたらヤバい何某かだったりするから不運だ。

そして、もちろん、かずこのように読経して祓うことも出来ず、

 姉のように怒りのパワーで突っぱねる術もないまま、

野生児どころか、まだ武器も火も知らぬ猿よりの原人な私は、

丸腰で、やたらヤバい何某かと出くわして、命を縮める寸前に陥ったりしてきたから、 もはや不遇だ。

しかし、この不遇な人生を乗り越えられてきたのは、紛れもないラッキー運だった。

 ラッキーしかない人生だ!

我が人生、一片の実力無し!!

そして猿よりの原人は、父の中で密かにうごめく何某かも感知していた。

 

去年末から、突如、父は食べ物を口にしなくなり、そのくせ酒量は増え、

ろれつの回らぬ口からは、見苦しい虚栄と恨み節ばかりで、 とても聞いていられないものだった。

身綺麗にしていた几帳面な父が、髭も剃らず風呂にも入りたがらない。

口数は醜い言葉で溺れそうになるほど増していくのに、 体は動かなくなっていく。

「まるで、亡霊みたい・・・。」

認知症ですっかり過去を脱ぎ捨て、赤ん坊のように心がつんつるてんになったかずこさえ、

 「最近よ。ジジぃおかしいぞ。変な事ばっかり言う。」

 と、久しぶりに的を得た事を言った。

しかし、それを、鼻をほじりながら、めちゃくちゃ面白そうに言う辺り、

さすが、つんつるてんに生まれ変わっただけのことはある。

 昔のかずこなら、

「悪いもんが乗っとる。」

 と、悪いもんより恐ろしい顔して、寺に走るか読経の準備をするだろう。

私は、微かな期待を込めて、

「ねえ、父さんって、最近臭くない?」

と聞いてみた。

すると、かずこは

「ああ。これか?」

と言って、体温計を差し出した。

「あぁぁ、やっぱダメかぁ」

 つんつるてんになったかずこに、対処してもらうことは、もう無理だと諦めた。

 

父の変化と同時に、私の右鼻に、悪臭が突き刺さるようになっていた。

 何の匂いかと問われても、例えようのない、酷い臭いが鼻をかすめる。

 野生児は、野生の勘で匂いを慎重に辿る。

「この匂いは、父さんからだ。」

我が野生の勘は、 さらに、

「うほっ、うほー!うっふぉーーーー!!」

と伝えてきた。

猿よりの原人だから、こうなる。

 訳すと、酷い恨みを持った悪臭を放つ魂の匂いだ。

 しかも、それが父から放たれている。

「うっほ、うほうほ」(訳:これは、かなりヤバめのやつだ)

戦慄が走った。

 

 だからといって、今更知らん振りはできない。

知らず知らずのうちに、とっくに、深く関わってしまっている。

 その証拠に、悪臭は父が居なくとも、常に漂うようになってきている。

右だ。

私の右側にぴったりと存在を感じる。

悪霊が憑りついた父の生霊。そんな感じだろう。

「私、死ぬかもしれん。 おじさん、一応、必要な連絡先教えておく。」

 私は、男にかずこのケアマネージャーの電話番号や 姉の携帯電話など、

いくつかの番号を書いた紙を渡した。

「またまたぁ。淳子ちゃんったらぁ。」

男は、この類の告白を、私から過去にも一度聞かされているが、

その際も、 私が普通に生きてたから呑気に受け止めている。

 がしかし、その時も死を匂わせる程、悍ましい何某かのせいで、

 苦しみもがき、フラフラのペラペラになった頃、 最強霊媒師と偶然会えたことで救われている。

この時も、一片の実力なくラッキーで生き延びた。

けれど、男は知らぬが仏。

いつだって微笑みを絶やさぬ地蔵のようだ。

 この地蔵は、私がフラフラのペラペラになっても、気付きもせず、 

飯時だって微動だにせず座り続ける。

 皿の一枚どころか、己の箸さえ取りに来ない。

その地蔵の前に、そそっと食事を並べていると、

本当に地蔵にお供えしている気分になるが、だからといって なんのご利益もない、この地蔵には。

 ムカつくだけだ。

ああ、悪口が止まらない。

 どうしよう・・・。

 

父は、桜がチラホラ咲き始めた頃、ますます衰弱していた。

病院で様々な検査を受けても、目立った病変は見当たらない。

 主治医は首を傾げるばかりで、アドバイスとしては、

「ん~、90歳にしては血液検査も良いんですよ。

うん、すごくいいんですよ。

 だぁ~かぁ~らねぇ、お父さん?

 頑張ってぇ、ご飯食べてぇ、ちょっと運動しましょう~?

お酒は呑んでいいです、呑めるんだもんね。 ほどほどね~。」

 と言うしかなかった。

 診察室まで歩くのもやっとな父は、

それなのに、昼夜問わず酒を呑みつづけ、昼夜問わず 人の悪口を並べ立てていた。

元気な若者でも、こんな暮らしをしたらくたびれるだろうに、

父の勢いは凄まじくなっていく。

 見た目も何もかも、父の面影が消えてしまった。

そして、濁ったビー玉みたいな眼のまま、

「お前を恨みに恨み抜いて死んでやる。」

と、吐いた。

これが、朝晩通い世話を続ける私に対しての言葉だ。

私は瞬間的に、顔が熱くなった。

「どうして私が恨まれるの?いい加減にしてよ。もう、あんたなんか・・・」

 寸での所で言葉を飲みこみ、玄関まで走り、実家を出るなり

「死ねっ」 と呟いた。

 

ここにも、うごめく何某かがぁぁぁ

うねっこ

 

うねうね

 

実にうごめいていますねぇ。

こわいですねぇ。

こわいなぁ。

 

ずっと、真顔でってのが、怖いなぁ。


稲川順子の、長話

2018年08月12日 | 稲川淳子の怪談

昨日から連休に突入したが、

動かない・・・か・・・体が

体がまったく・・・うごかな・・・い

 

ゴロゴロのし過ぎで、体が思うように動かない。

このペースでいくと、3日目には日本語を忘れると思うんです。

嫌な予感するな~怖いな~。

ということで、おはようございます。

稲川順子です。

 

あれは、ある秋の事だったと思うんですがね。

当時、以前少しだけ、いい感じになりかけたけど、

それは私の勘違いだったとう、男がいたんですよね。

その男が、ある日、相談があるだなんて、

メールして来たもんだから、あたしゃ、

いつもより3割増しで化粧して待ち合わせ場所に行った訳です。

すると、がっちりしてたはず男が、

馬でも肥える季節だというのに、痩せこけていたんです。

「ど・・・どうしたんですか?」そう聞くと、

男は、息も絶え絶えな様子で、訴えてきたんです。

 

最初は、二回り以上も年齢が離れた若い女性に現を抜かし、

ちょっと火傷した程度の話だと思って聞いていたんですよね。

「とにかく、彼女からの金の無心が酷くて、

ぼく、ついに会社の金にまで手を付けてしまっているんだ」と。

「いや、渡さなければいいだけの話でしょ?」そう言うと、

男は、

「そうなんだけど。どうしても断れないんだ」と、

泣きそうな顔で訴えてくる。

 

この男は、世間では出世した、分別のある大人の男で、

それが、二十歳の女の見え透いた嘘を見抜けないはずもないが、

もはや、完全な支配下に置かれていたんです。

 

「彼女、可哀そうな子なんだよ。

周りの人は、なぜか、どんどん亡くなってしまうの。

もう一人の彼氏も、この前、突然亡くなったんだ。」

 

もう一人の彼氏というのも引っかかるが、

それより遥かに恐ろしい事に気づいて、聞いてみた。

「あなたも、先日、お母様を亡くされてるよね?

まさか、そのお母様と彼女とは面識ありますか?」と。

 

「面識ってほどではないけど・・・」

無いけど?

無いけど何?

「問い詰められて、母には正直に言ったんだ。

それで、彼女を1度だけ母に合わせたよ。

母が、彼女に身を引いてもらうよう説得してくれたんだ」

 

その次の日に、男の母親は突然亡くなっているという訳です。

聞いてみれば、その女の周囲の人は、

みーんな、同じ症状で突然死しているんですよね。

私も、さすがに、背筋がぞーっとしたんです。

そして、そのぞっとさせる正体が、

彼女に憑依した強大で悍ましい何かではないか?そう感じたんですよね。

 

私は、考えた。

この男は、もう、その何かに飲み込まれそうになっている。

いずれ、死んでしまうかもしれない。

ならばと思い、

「次に彼女からの連絡が来たら、

ある場所に待ち合わせの約束をして。

私も、そこで落ち合って、彼女と話してみるわ」と男に伝えたんです。

 

いえね、私には、何の力も自信も無いんですよ。

ただね、あたしゃ、腹が立ってね。

下心丸出しで近付いた男の事なんて、自業自得ですがね。

その女の子は、まだ20歳でしょ?

しかも、たぶん、何の自覚も無いままなんですよね。

悪霊だか何だか知らないが、

こんな娘さんを利用して何しやがるんだってね。

ましてや、何人もの人の命を奪ったとなりゃ、

許しておけねーって、腹が立っちゃったんですよね。

あたしだって、こう見えて、

ひとはだ脱いだら凄いだぞって思ったんです。

私が脱いだら、地獄絵図の亡者みたいなんですからねって。

 

その数日後、

私は、家で静かな休日を過ごしていたんです。

そこに携帯電話が鳴りました。

「おかっぱちゃん、彼女から、また金の無心が来た。

助けて、おかっぱちゃん、俺もうだめだ。助けて」

そこで、私は、

「しっかりして!とにかく私が会って、やっつけてやるから!」

と、怒り心頭のまま、約束を取り付けろと促して一旦電話を切ったんです。

 

私は、ふーっと息を大きく吐き、

これからやってくる戦いに武者震いをした。

と、その瞬間。

 

ドドドドドドドーーーン!

 

窓が割れんばかりに、叩かれた。

もちろん、姿は見えない。

しかし、部屋中が震えるほどの音に、

まったり昼寝していた猫達が、一斉に散った。

膝の上の猫は、仁王立ちになり総毛立っている。

 

やつが来た・・・

 

そして、

もう来たの?

ねえ、すげー早くね?

まだ宿主とも会ってないのに、

あんただけ来るって、せっかち過ぎない?

そう思ったんです。

あたしゃ、すっかり驚いちゃってね。

 

そして、やつに負けず劣らぬ程のせっかちな私は、

「わし、勝てない」と早急に判断を下し、

実家の母さんの所へ全速力で走った。

私ね、こんな時だけ、足が速いんですよね。

ベンジョンソンかってくらいのフォームで走ったんですよね。

 

私は、実家に着いて、開口一番、

「母さん?お経を唱えてくれ」と叫んだ。

「なんでや?おまえ、また変なもんに関わったんか?」

そう呆れた顔で言う母に、事情は言わなかったんです。

言ったら、母さんにも害が及ぶような気がしたんですよね。

「とにかく、何も考えず仏壇の前で、3回唱えてやってくれ」と

頼みました。

 

ちなみに、我が家は

特定の宗教を深く信仰している訳ではないんです。

いわば、一般的な仏教徒でしてね。

母は年齢的に、私世代よりは信仰心があるようですが、

普段は、仏壇に花を供えて手を合わせる程度でね。

私は、気が向いた時だけ、おはぎを買って供える程度でして。

ただ、母は昔から、俗にいう、霊感の強い人でした。

私の方は、霊感が強いというより、

無鉄砲に関わり過ぎて、たまに罰が当たってるって所でしょうかね。

その都度、母にお経をあげてもらうと、

不思議とスッキリするという訳なんです。

 

「わしはよ、こんな大層な事、いやなんやぞ。

わしは神さんでもないのに、こんな事して恐縮なんや。

仕方ないから、嫌々やっとるんや」

母は、そうブツブツ言いながら、仏壇に蝋燭を灯し、

お経を唱え始めた。

 

こうして、

途中、「あれ?わし、ここ唱えたっけか?」

「えーっと、これはなんと読むんだっけか?」

と、荘厳とは言い難い、緊張感のない読経が終了した。

それでも、私は、こんな読経の最中、

何度も嘔吐していたんですよね。

 

やつは、強力だ。

そして執念深い。

 

やつが誰かも分からないが、私にはそう思えて、

母さんの事が心配になってしまったんです。

その日の夜は、さすがに、

なかなか寝付けずいるのが本来でしょうが、

私は、普通に熟睡しちゃったんです。

そして、目覚めて、すぐ、実家へ向かったんです。

 

「母さん?大丈夫か?なんか怖い事なかったか?」とね。

腹が減っている朝は、だいたい恐ろしく不機嫌な母さんにしては珍しく、

この日は、穏やかなほほ笑みを湛えて、こう言ったんです。

 

「夜中に、蛇が、ぎょうさん出てきたぞ。」

へびが沢山?

母さん、ごめん。

私のせいで、怖い思いしたやろ?

 

「いや、わしが見てたらよ。

そのうち、全ての蛇がクターッと、死んだ」

死んだ?

「うん、死んだ。アハハハハァ~」

 

その時、私、思ったんですよね。

もう大丈夫やなって。

そして、本当に強力で恐ろしいのは、

母さん、なんだなってね。

 

うんこ「男と彼女は、どうなったの?」

男は、すっかり立ち直って、幸せに暮らしてるみたい。

女性の方は、どうなったかな?

結局、私は会う事なく、あの日を境に、

男にもぱったり連絡が無くなったんだってさ。

恐ろしいな、母さんって。

 

あや「そんな事言ってる暇があったら」

 

うんこ「床の掃除をしなさいよ、母さんめ!」

おっそろしや~!

稲川順子の怪談でした。

リクエストくださって、ありがとうございました。

では、またフフフフフフ


お久しぶりの、稲川ジュンコです

2017年05月04日 | 稲川淳子の怪談

すっかり暖かくなり、

炬燵をしまうのなら今しかない。

それほどの暖かさになり、

それでも、炬燵をしまえない。

恐ろしや~。

 

おはようございます。

よねさんが、今こそ、ビバ炬燵!

だそうでして、

お籠もりになって居られるのです。

冬の間は、座布団に居られたのに、

今になって、炬燵の中を「我が城」として、死守しておられる。

梅雨時まで、待とうか・・・

 

そんな訳で、今日は、

暖かな春の日差しの中の炬燵。

そんな不調和な、この部屋に、

もっと恐ろしい不調和が生じていた数日を書きます。

お久しぶりです、稲川ジュンコです。

 

あれは、晴れた昼下がりの事でした。

突然の強風に、窓は割れんばかりに軋み、

私は、嫌だな~嫌な気がするな~と思っていたんです。

すると今度は、ぱたっと風が止んだ。

止んだ途端に、部屋の中で、ギシッと音が鳴ったんです。

私は、とっさに思ったんです。

「何かが、来た!」と。

 

私は、たまに、そう思う事が、あるんです。

でも、そんな時は、気のせいだと流すようにしている。

そうしていると、知らぬ間に、気配は消える。

ところが、今回は、そうは行かなかったようなんです。

 

1日目、せっかくの連休の昼下がりだ。

ゴロゴロと昼寝に興じようと思っても、

どうにも居心地が悪い。

空気が重くて、なんだか息苦しい。

その日を境に、

そもそも寝つきがいい私が、夜も眠れなくなって行くんです。

 

2日目、重い体を引きずるように過ごす中、

気配は、さらに存在感を増していく。

下の階に響くのではないかと思う程の足音が鳴る。

ドシドシっとこれ見よがしに鳴るんです。

そこで、私は、あえて言ったんです。

「気にしない、気にしな~い」と。

 

3日目になると、やたら物が無くなり始める。

目の前の机上に置いたペンが、忽然と無くなるんです。

あれ?おかしいな~おかしいな~っと思い、

あちこちを探し回り、再び机に戻ると、

あるんです。ちゃんとペンが置いてあるんですよ。

そんな事を何度も繰り返し、苛立った私は、

さすがに、思わず言いましたよ。

「お前は、無邪気な堕天使か」ってね。

 

この程度の悪戯に、恐れてはいけない。

誰かは知らんが、誰だろうな~とも思わんぞ!

お前の事なんて、考える暇も持たん!

無視だ。お前なんて、無視だ。

 

そう己に言い聞かせながらも、

そうは行かない気もし出した矢先の事でした。

 

その日の夜も、やっぱり寝付けないんです。

さすがに3日目ともなると、気持ちが萎えてくる。

「ここで、負けたら、つけこまれる」そう感じても、

なぜか、訳もなく涙が溢れてくるんです。

すると、まさに、つけこむように私の首に何かが触れた。

そして、ギュッと絞めてきたんです。

 

ギュッ、ギュッ、ギューッ。

ギュッ、ギュッ、ギューッ。

 

「ぐぅぅ、く・・・苦しい・・・」

 

ギュッ、ギュッ、ギューッ。

ギュッ、ギュッ、ギューッ。

 

「う・・・た・・・たすけ・・・」

 

ギュッ、ギュッ、ギューッ。

ギュッ、ギュッ、ギューッ。

 

「おまっ、ど・・・どんだけリズミカルなん・・・や?」

そうなんです。

リズミカルに首を絞めてくるんです。

まるで、苦しむ私を、弄んでいるかのごとく

アン・デゥ・トロワーのリズムで絞めてくる。

私も思わずリズムにノリかけた、その時、

携帯電話が鳴ったんです。

 

ポチャンッ・・・ポチャンッ・・・ポチャンッ・・・

 

呼び出し音が、怖い!

なぜ、わざわざ水の落ちる音を設定したんだ、私め!

お馬鹿さんか!

そう思っても、藁をも掴みたい私は、

携帯電話に必死に手を伸ばしたんです。

「も・・・しもしも」

その後の声が出せない。

これでは、ただバブリーにふざけている44歳の女だと思われてしまう。

「どな・・・た?」と声を絞り出した。

すると、電話の向こうで、相手が言ったんです。

「うめうめ、うめだけど」

 

うめ?

うめなの?

あの、亡くなって以来、夢にも出て来てくれない、うめさんなの?

 

戸惑っている私に、電話の主は構わず続ける。

「あのね、アレよ、アレ。

こんな時は、アレをやんなさい。」と。

 

アレって?アレってなんの事?

声にならぬまま、心でそう訴えると、うめが答えてくれたんです。

「アレって・・・アレ?なんだっけ?」

コラー!

 

ここで、首絞めバレリーナは、更にリズムを速めてきた。

もう携帯電話すら持っていられない。

そんな時のために、強い呪文を知っている私は、

それを唱えようにも、唱える事を許さない首絞めバレリーナ。

どうする、おかっぱ?

 

その時だ。

シャンシャンシャンシャンという音と共に、風が吹いた。

顔に当たる風に気付いて、眼をガッと見開いた私の目の前に、

立っていたんですよ。

 

うめさんだ!

 

突如現れたうめは、そのまま家中を走り回り始めたんです。

シャンシャンと音を鳴らして、走り回って風を吹かせる。

その風は、まるで春風のように、優しく暖かく部屋中を包んでいく。

どこに居たのか、他の猫達も起き上がって集まってきた。

 

どれほどの時間だったろうか。

美しい、その姿を目で追っていたら、

うめは食卓に飛び乗り、スッと立った。

そして、床に横たわっている私を見下ろした。

 

うめ・・・うめさんだ。

 

自分の涙のせいで霞む、うめの姿を、

しっかり見直そうと、私は眼をこすりながら起き上がった。

そして、再び食卓を見たんです。

 

しかし

うめの姿は、もう消えていたんです。

そして、首絞めバレリーナの気配も、

すっかり消えていたんですよ。

 

うめが旅立ってからというもの、

夢でもいいから、出て来てよ。

そんな事を、何度言って、泣いた事か。

 

でも、私、この事で思ったんです。

もう、そんな事、言わないからね。

あんたに心配かけないよう、もっと強くなるから。

ありがとう、うめさん。って、

空に向かって、呟いたんです。


今日の記事の下書きを昨日公開してしまった失態の追記

2016年09月13日 | 稲川淳子の怪談

これはね、先日アタシが体験した事なんですがね。

もう、驚いちゃったっていうか、

おかしいな~、不思議だな~というね、

本当の話なんですがね。

 

おはようございます。

稲川ジュンコです。

スーパーって、皆さん行くでしょ?アタシもね、先日行ったんですよね。

スーパーマーケットってとこにね。

駐車場に車を停めて、降りたんですけどね。

何気にふっと、前を見たら、

ちいさーな、5・6歳くらいの、ちいさーなね、かわいーい少女がね、

すーっと立ってる。独りですーっとね、立ってるんですよね。

おかしいな~不思議だな~って見てたらね、

さささささーっと、アタシに向かって走ってくんですよね。

なんだろな~不思議だな~って思ってたら、

「ねぇ、おばちゃん」って話しかけてきたんですよね。

「ねぇ、おばちゃん。あっちで遊ぼう。」って、言ってくるんですよね。

いやだな~困ったな~、お姉さん今から買い物だからごめんねって、

お姉さんは買い物するのって、アタシ伝えたんですがね。

「ねぇ、おばちゃん。あっちに行こう」って、

今度は向こうの方へ指差しながら、言ってくるんです、おばちゃんってね。

お姉さん、遊べないのって、もう1度伝えたんですよね。

するってーと、その少女が、にこーって笑って、

アタシの肩を人差し指でチョンって優しく触ってね、

ばばばばーって走って行っちゃったんですよね。

なんだろな~不思議だな~と思いながら、買い物を始めたところ、

突然、ズーンって肩が痛くなってきちゃったんですね。

あれれれ、どうしたかな~って見てみたら、

直径3ミリほど、丸く綺麗に皮膚だけが無くなってるんですよ。

皮膚だけが、綺麗に剥がされちゃってんですよね。

しかも、その個所ってーのが、さっき、あの少女が触った部分だったんですよね。

あぁぁ、そうかそうかそうか。

アタシが行かないから、皮だけでも、持って行ったのかぁって思ったんですよね。

それでアタシ、やっと気づいたんですよね。

あの少女は、この世のモノでは無い、

そして、どうにかして、アタシを何処かへ連れて行きたかったんだなぁ~てー事をね。

もし着いて行っちゃってたら、アタシどうなってたんだろうってね、

恐ろしくなったんですよね。

という不思議な話だったんですがね。

 

実は、もう一つ、あるんですよね。

というとこまでを、下書きしたんですよね。

アタシ、大体が、記事は当日の朝に下書き無しで書くんですがね。

今日に限って、昼休みに下書きを、書いてみたんですね。

明日ボツにするか、このまま記事として書き進めるか、決めるためにね。

なのに、なぜか、気付いたら公開してたんですよね。

おかしいな~不思議だな~って思ったんですがね。

これは、きっと、この世のモノでは無い何かの仕業かもしれないという、

不可思議な話なんですがね。

ん?あれれれ~だたのミスですかね?

という事で、この続きは、明日の朝、書こうと思うんですよね。

稲川ジュンコでした。

 

と、ここまでを読んで下さった、皆さん、

今日は、この記事の続きなんですがね。

そろそろ、今日とか明日とか昨日とか、時系列の感覚が、

こんがらがって来たと思うんですよね。

そんなパラレルワールドにようこそ。

おはようございます、稲川ジュンコです。

 

もう一つの、不思議な話なんですがね。

覚えてますか?4週間でベターっと開脚できるミッション。

もちろん、さぼらず、毎日ストレッチをやってんですがね。

 

「ミッション前」

撮って、今撮ってっておじさんに頼んでもね。

「嘘でしょ?」って言うんですよね。

 

「これで、マックスの前屈状態なの?」っ言うんですよね。

そうだ、今ガチでリアルに裏モモがちぎれそうだから、

早く撮れって、アタシ叫んだんですよね。

おかしいな~不思議だな~って思いながら、

この日から、ミッションをやり続ける事1週間経ったんですがね・・・

 

「ミッション体験、1週間経過」

ヤバいよ、ヤバいよ~!

思ったほど、変わってないよ~!!

でも、これが、ガチでリアルだから。

 

おたま「おばちゃん、口調が出川に変わってねーか?」

 

仕方ないんだよ。これこそが、ガチでリアルなヤツだから。

この感じからすると、ミッション終了後がヤバいよヤバいよ~。

出川テツコでした。