086:メイド（富田林薫）

メイド・イン・チャイナの絹でカーテンとわたしに似合いのリボンをつくる

085:富（富田林薫）

膨大な富の力に病める街　わたしは画家になろうと思う

084:世紀（富田林薫）

病室で二十世紀の皮を剥くほそくきれいに途切れぬように

083:拝（富田林薫）

手紙では　拝啓、きみの横顔も忘れてしまう　夏も終わるね

082:整（富田林薫）

整えたベットの上で跳びはねるうさぎのように月見タンゴを

081:硝子（富田林薫）

ゆうぐれの硝子細工の乱反射　ばくは買い物かごのなかへと

080:響（富田林薫）

街角のピアノのなかの響板に忘れ去られた四分音符ひとつ

079:芽（富田林薫）

庭先のさやえんどうが発芽する音に目覚めるツキノワグマは

078:予想（富田林薫）

おおかたの予想を裏切りくちびるはイスカンダルへ旅立ちました

077:針（富田林薫）

立ち込める夏のかおりにあわよくば避雷針から求婚されて

076:あくび（富田林薫）

あくびする仔猫をひざに抱きかかえ眠りの森へのチケットを買う

075:打（富田林薫）

明け方の雨に打たれる右ほほに伝うしずくに映るプルート

074:水晶（富田林薫）

くびすじに百万年のときを経た水晶球のひかりをうつす

073:トランプ（富田林薫）

トランプをひいてごらんよ指先はハートのエースの形をしてる

072:箱（富田林薫）

きがつけば四角い箱の世界から飛び出す術をなくしていました