「南極の」。

南極の氷がとけるあけがたに未来をかたる三輪車たち

間違えてうさぎの耳にしたきみの森はとおくてもう帰れない

「まあたらしい」。

まあたらしい蛇口をひねる熱水は銀のシンクに今ほとばしる

歩道からみあげた窓のあかるさを明日のわたしに投影している

「ただいま！」と大声でいう　キッチンのフラワーロックが陽気におどる

のこされたとてもみじかい文章が黄砂のようにかすんでゆきます

こんにちはハローえぶりばでぃ皆の衆　さよならはない街角で会釈

080:響（富田林薫）

街角のピアノのなかの響板に忘れ去られた四分音符ひとつ

079:芽（富田林薫）

庭先のさやえんどうが発芽する音に目覚めるツキノワグマは

078:予想（富田林薫）

おおかたの予想を裏切りくちびるはイスカンダルへ旅立ちました

077:針（富田林薫）

立ち込める夏のかおりにあわよくば避雷針から求婚されて

076:あくび（富田林薫）

あくびする仔猫をひざに抱きかかえ眠りの森へのチケットを買う

075:打（富田林薫）

明け方の雨に打たれる右ほほに伝うしずくに映るプルート

「お酒短歌13」。

理科室のフラスコのなか泡だった密造ビールに触れるくちびる

「お酒短歌12」。

夕空をコニャック色に染め上げてヘネシーワルツを踊りませんか

「お酒短歌11」。

ベランダにひかりをあつめ月星はオリオンビールの空き瓶の中

「お酒短歌10」。

鼻先のビールの泡は青空をすりぬけてきた夏の粉雪

「お酒短歌9」。

人知れず都会の森のかたすみで樹液ビールをすする僕たち

「お酒短歌8」。

二丁目のゆうこりんから注がれたピンクのマリモが浮かぶカクテル

「お酒短歌7」。

明け方に清く正しく美しくタカラジェンヌのように酔い散れ