むしあつい電車のなかでもくもくと新聞をよむこの国のひと
木造の校舎はきえてあたらしい鉄筋の校舎がじまんげにたつ
コンビニはざわめきのなか百円の梅おにぎりがうれのこる午後
*
「冷たい」。
ぬくもりを信じるように小刻みにふるえる頬にのばす指先
砂浜がたえてひさしい真夜中のテトラポットはつめたい波音
*
「からだから短歌」。
15 頬
もういちど春先ごろのぬくもりを信じるように頬杖をつく
16 骨
言葉ではわかりあえない瞬間が鎖骨にのこすよわい爪痕
17 肉
自ずから近づくことの躊躇いを知るかのように微熱する肉
18 眉
ゆっくりと額にふれる指先にひかりをそそぐ三日月の眉
19 睫毛
廃校に忘れ去られたブランコで少女は長い睫毛を揺らす
20 感覚
分別はねむらせておく鋭敏な皮膚感覚でひかれあうから
21 耳
週末にじどうしゃばくだん組み立てる奴の耳には届かぬ祈り
22 目（眼）
サングラス隠した目元ひくつかせ赤いボタンをゆっくりと押す人
23 瞳
くらやみを瞳にたたえやけあとに少女は母のかたちをさがす
24 涙
もう捨ててしまう手紙の文面にあおくゆるんだ涙腺をひく
25 まぶた
いちにちを確かめながらいちにちを信じるようにまぶたを閉じる
26 鼻
ひとすじの涙をたどりやわらかにきみの鼻梁にたどりつくゆび
27 ほくろ
鼓動する胸のほくろを指先で冬の星座のかたちになぞる
28 髭
明け方は頬をひきよせ夕べにはなかったあわい髭の感触
29 唇
沈黙にたえるかたちを投げすてて唇たちは語りはじめる
30 口
夕暮れがおとなびている街かどで少女がてにとる赤い口紅
31 歯
うっすらと笑みを湛えた口元がきえさる部屋にのこす歯ブラシ
32 舌
月あかりよるはひっそり佇んで竜舌蘭をしずかに照らす
33 唾液
不確かなうすい唾液を飲み下しほの明るさを信じています
34 顎
月光にあなたの顎が鰐のよう一口でいって下さいますか
35 関節
うまれでる赤子のように関節をあさの空気に感じてのばす
36 うなじ
うすやみの廃墟のなかの瞬きにレプリカントはうなじをさらす
37 首
うっすらと翳りをおびた後れ毛がすこし汗ばむ首にはりつく
38 呼吸
呼吸する冷蔵庫のよう真夜中は空疎なからだ冷やしつづける
39 喉
くらやみが背後をよぎる瞬間に仔猫はちいさく喉をならした
40 管
とうめいの管にいだかれゆつくりと遠い太古の海へとかえる
41 肺
あけがたが深呼吸して肺肝はひえた空気にすこしふるえる
42 肩
朔風にあらがうように立ち尽くすふるえる肩をうしろから抱け
43 腋（脇）
たいおんけい腋にはさんで目玉焼きひたいの上でつくるけいかく
44 運動
たくましい運動選手のあしもとにシロツメクサが花を咲かせる
45 筋
イラク派兵反対のこえききながらでたらめにやる腹筋運動
46 腕（手）
ためこんだ含み笑いをうけとめて悲鳴をあげる上腕二頭筋
47 肘
つまらないフランス映画ずかずかと肘でおしのける街の人ごみ
48 掌
からからとサクマドロップス音たてて黄色いつぶを掌におとす
49 指
マジックでえがおをかいて粛々と指にんぎょうの劇をつづける
50 上半身
車椅子マラソン選手がゆるやかに上半身にちからをいれる
*
「うたうクラブ」。
焼け跡に真っ赤に散った花びらを少女の両手がおおい隠した
そびえたつ都会のビルのかたすみで目をとじた時 灼熱でした
シーソーが右にかたむく真ん中に立ったわたしは北をみている
ふところにロケット花火を隠し持ち大人になった そんな奴でした
*
「付け句・マイケルの秘密の部屋で君が見た」。
マイケルの秘密の部屋で君が見たむかしマイケルだった黒いひと
マイケルの秘密の部屋で君が見たムーンウォークするバブルス君
マイケルの秘密の部屋で君が見た男装をするジャネットジャクソン
マイケルの秘密の部屋で君が見たマイケルと名乗る人たちの真実
マイケルの秘密の部屋で君が見たピーターパンとその他おおぜい
マイケルの秘密の部屋で君が見たネバーランドへの片道切符
マイケルの秘密の部屋で君が見たおなじ顔したクローンベービー
*
「付け句・３年Ｃ組念力先生」。
飛びおりる中学生を浮遊さす３年Ｃ組念力先生
終業のベルが１０分あとに鳴る３年Ｃ組念力先生
あきらめるよわいこころを鉄化する３年Ｃ組念力先生
カンニングしようとする子に花が咲く３年Ｃ組念力先生
チョコレートなぜかたくさん手にしてる３年Ｃ組念力先生
校庭に砂塵と共に顕れる３年Ｃ組念力先生
教頭の教育論は崩れ去り３年Ｃ組念力先生
頬に手を援交少女は懺悔する３年Ｃ組念力先生
我が為に給食カレーの増量を３年Ｃ組念力先生
アルバムの杉田かおるが純情で３年Ｃ組念力先生
中庭に白きシャトーを建てたるは３年Ｃ組念力先生
教え子の不思議少女に手をつけた３年Ｃ組念力先生
一晩で万里の長城かけぬけたっ！３年Ｃ組念力先生
一晩でピサの斜塔の傾きがっ！３年Ｃ組念力先生
一晩で大ピラミッドが一つ増えっ！３年Ｃ組念力先生
バビロンの空中庭園みたという３年Ｃ組念力先生
マチュ・ピチュに先祖の墓を持つという３年Ｃ組念力先生
*
「付け句・人食いザメの腹を捌けばあらわれる」。
人食いザメの腹を捌けばあらわれる ゆくえしれずの夫の日記
人食いザメの腹を捌けばあらわれる わかれた妻に贈った指輪
人食いザメの腹を捌けばあらわれる なぎさに散ったあたしの初恋
人食いザメの腹を捌けばあらわれる 潜航艇にのったツヨポン
人食いザメの腹を捌けばあらわれる タイタニックの最期の悲鳴
人食いザメの腹を捌けばあらわれる ついに手つかずの卵サンドが
人食いザメの腹を捌けばあらわれる アフリカのあたらしき瀑布が
人食いザメの腹を捌けばあらわれる 風船おじさんのケータイでんわ
人喰いザメの腹を捌けばあらわれる 結婚まえにすてたガンプラ
人喰いザメの腹を捌けばあらわれる んなっわけねぇだろ念力図鑑
人喰いザメの腹を捌けばあらわれるような気がしたサメ肌の女性（ひと）
人喰いザメの腹を捌けばあらわれることでいいのかほんとだな 来て
人食いザメの腹を捌けばあらわれる定めであろう隠密同心
人食いザメの腹を捌けばあらわれるかもしれないと古文書に
人食いザメの腹を捌けばあらわれることがあるかも過剰副作用
人食いザメの腹を捌けばあらわれる予定であったパチンコの新機種
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ゆっくりと額にふれる指先にひかりをそそぐ三日月の眉
19 睫毛
廃校に忘れ去られたブランコで少女は長い睫毛を揺らす
20 感覚
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25 まぶた
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26 鼻
ひとすじの涙をたどりやわらかにきみの鼻梁にたどりつくゆび
27 ほくろ
鼓動する胸のほくろを指先で冬の星座のかたちになぞる
28 髭
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29 唇
沈黙にたえるかたちを投げすてて唇たちは語りはじめる
30 口
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うっすらと笑みを湛えた口元がきえさる部屋にのこす歯ブラシ
32 舌
月あかりよるはひっそり佇んで竜舌蘭をしずかに照らす
33 唾液
不確かなうすい唾液を飲み下しほの明るさを信じています
34 顎
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35 関節
うまれでる赤子のように関節をあさの空気に感じてのばす
36 うなじ
うすやみの廃墟のなかの瞬きにレプリカントはうなじをさらす
37 首
うっすらと翳りをおびた後れ毛がすこし汗ばむ首にはりつく
38 呼吸
呼吸する冷蔵庫のよう真夜中は空疎なからだ冷やしつづける
39 喉
くらやみが背後をよぎる瞬間に仔猫はちいさく喉をならした
40 管
とうめいの管にいだかれゆつくりと遠い太古の海へとかえる
41 肺
あけがたが深呼吸して肺肝はひえた空気にすこしふるえる
42 肩
朔風にあらがうように立ち尽くすふるえる肩をうしろから抱け
43 腋（脇）
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46 腕（手）
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*
「付け句・３年Ｃ組念力先生」。
飛びおりる中学生を浮遊さす３年Ｃ組念力先生
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教頭の教育論は崩れ去り３年Ｃ組念力先生
頬に手を援交少女は懺悔する３年Ｃ組念力先生
我が為に給食カレーの増量を３年Ｃ組念力先生
アルバムの杉田かおるが純情で３年Ｃ組念力先生
中庭に白きシャトーを建てたるは３年Ｃ組念力先生
教え子の不思議少女に手をつけた３年Ｃ組念力先生
一晩で万里の長城かけぬけたっ！３年Ｃ組念力先生
一晩でピサの斜塔の傾きがっ！３年Ｃ組念力先生
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*
「付け句・人食いザメの腹を捌けばあらわれる」。
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