001:笑
笑点の山田くんになりかわり世界中の歌丸さんにくばる座布団
002:一日
波長あわなかった一日が終わり短波ラジオから聞こえる星の音
003:助
大切なものぼろぼろとなくしてはみんないなくなる助産婦さん
004:ひだまり
わたしひさしぶりに笑ってるひだまりはてんとう虫の転倒
005:調
聞こえたらやさしい歌は短調にかわる気がして耳をふさいだ
006:水玉
いつのまにか干からびた水玉だったので丁重に川へ戻してあげた
007:ランチ
目をそらし皆いそがしくゆく街のこわれかけ保温ランチジャー
008:飾
赦されたひとたちは淡色に飾られて舞い上がる花びらのように
009:ふわふわ
静寂がつもりゆく浜辺の町でふわふわを売りつづける自動販売機
010:街
非常ベル《ホログラムエラー》鳴り響き消えてゆくトーキョーの街並み
011:嫉妬
イギリス人の彼が「座る」と言うのを「それは嫉妬だ」と聞き違える
012:達
先端をかぎりなく細く仕上げるためにのみを振るう三日月の達人
013:カタカナ
何するのかもわからないカタカナ職業の男ととりあえずかわす名刺
014:煮
電子レンジ完璧なひかりを放ち煮物とくいな母さんがきえてゆく
015:型
型抜きの青年が若干の勘違いをして着るチェ・ゲバラのTシャツ
016:Uターン
故郷なんて知らない僕のテレビの中ではじまるUターンラッシュ
017:解
叶わないのぞみを抱いて曇り空に打ち解けることなくたたまれる日傘
018:格差
もう二度と開かれることのないような風呂敷に包まれて格差
019:ノート
雨音をしるす音符のならびに泣いているようね捨てられたノート
020:貧
遠すぎて知らないふりをした貧乏神もみはなしたアフリカの村
021:くちばし
やさしい人の詩集くちばしにくわえ明けがたの海峡を渡る海鳥
022:職
いつまでも叶わないゆめを見つづける詩人のような職業につく
023:シャツ
青いシャツのひと泣きながら待っている変わらない赤の交差点
024:天ぷら
幾万のなげきのこえをききながら一定の温度で揚げる天ぶら
025:氷
南極の氷ゆっくりと少なくなって皇帝ペンギンの取り寄せる製氷機
026:コンビニ
真夜中のコンビニエンスありったけ孤独を買って釣りはいらない
027:既
渋谷東急ハンズみあげればめまい なんとなく四月の既視感
028:透明
いずれ透明な容器であった頃の記憶を取り戻すため注ぐ純水
029:くしゃくしゃ
其処にくしゃくしゃのシャツが在るから私はエクストリーム・アイロニスト
030:牛
ていねいに牛乳パックきりひらき生まれかわるための準備はじめる
031:てっぺん
富士山のてっぺんが大好きだから。ひとよんで僕のあだ名は。野口健
032:世界
この短い文章のなかに世界征服計画書の在りかを示す暗号がある
033:冠
「旅の終りに」「みれん酒」「炎」「男の子守唄」歌ってるのは冠二郎
034:序
序章。太陽がひとつありまして引き付けられるように生まれた何か
035:ロンドン
すこしだけ高いところの風をさがしてロンドンバスの二階にすわる
036:意図
穏やかな休日は公園のブランコをこぎながら青空の意図をおしはかる
037:藤
ちびまる子ちゃんの続く限りひきょうと呼ばれ続ける藤木茂の悲しみ
038:→
→の方向に進めども進めども果てしない休日のTDLの駐車場は
039:広
青空の広場がありまして明け方に小雲を拾って回る清掃員
040:すみれ
最愛の春をなくして泣いているすみれ色した庭師がひとり
041:越
それは世界が全てオレンジ校庭のフェンス越しに見た夕焼け
042:クリック
ぬくもりのようなもの右クリックして保存する癒されぬハードディスクへ
043:係
いずれ世界が満たされる時に袖を通す給食係の白いエプロン
044:わさび
どことなく湧き水のようなひとたちが食べるわさびアイスクリーム
045:幕
いつか永遠のおわりを告げる幕引きの係のひとが泣いている
046:常識
後継者不足に悩みながらも街々に常識を売り歩く行商人
047:警
いつの間にか警報器だらけの街で今日もたのしく暮らす
048:逢
お気に入りのサングラスなくして出逢うほんとうの空にあふれるひかり
049:ソムリエ
かなしみのテイスティングを拒み一本のぶどうの木となるソムリエ
050:災
いまふれればこころは真夜中の火災報知機のようにベルを鳴らす
051:言い訳
はらはらと落ちてくる言い訳ひろったらあのひとの本質でした
052:縄
強靭な一本の縄となりばらばらになりかけた世界を結ぶ
053:妊娠
もうひとつのあなたとわたしができあがる妊娠初期の鼓動
054:首
十字架をしまってくれないか 首筋のちいさな傷の意味をおしえる
055:式
ガンダムであってガンダムではない奥ゆかしき百式がとても愛しい
056:アドレス
「正確なアドレスは猫背ではない」ゴルフスイング上達ガイド
057:縁
おだやかな日常がきこえると言う縁側に設置する鉱石ラジオ
058:魔法
これは三日前あたしの貯金持ち逃げした男を召還する魔法陣
059:済
いつのまにか決済はされてあなたのとなりに見知らぬ社長令嬢
060:引退
とりあえず引退したらクルーザーを買ってモナコで暮らそうと思う
061:ピンク
お気軽にお花畑旅行社までピンクに染まる瞬間をお尋ね下さい
062:坂
坂の途中あるいは空を見上げたかった俯き加減の角度をかえる
063:ゆらり
ゆらりゆれている人に教えてあげる誰もいない公園のブランコ
064:宮
宮崎のひとが紙袋抱えてやってきて次々取り出す完熟マンゴー
065:選挙
ぬすみだす八月の選挙カー大音量TUBEながして海までいそげ
066:角
三つ目の角の先まで来ているって今あきらかに今年の夏が
067:フルート
えいえんのみらいのためにせいじゃくを奏で続ける銀のフルート
068:秋刀魚
なにか大切なものを忘れさる前にもういちど七輪で焼く秋刀魚
069:隅
おろかなるペコポン人よわがために隅田川沿いに銀色の塔を
070:CD
わが歌の永久のひびきよCDよペコポン人にあたへし銀盆
071:痩
痩身の執事水嶋ヒロから香るペコポン人にしてはいい匂ひ
072:瀬戸
するてとなにかい今頃は少々妙齢な瀬戸の花嫁つてわけかゐ
073:マスク
「マスクは売れてゐるか」と聞けば「激しく」と答へるミルマスカラス
074:肩
ひだり肩に突き出るとげよ偽らずザクとしてザクとして誇れ
075:おまけ
いきるつてそんなもんかこれからも道で拾つたグリコのおまけ
076:住
深夜ほんとうの居場所さがして駆ける無料の住宅情報誌かかえて
077:屑
またひとつ星屑という名に気づかないひとが瞬いて消えてゆく
078:アンコール
いつまでもアンコール待ちつづけゆっくりと舞台下手に同化する
079:恥
蝉の声きこえる図書館に目が合えば逸らす恥じらいの夏の始まり
080:午後
午後、風になりましょう。よろしければ夏の麦わら帽子飛ばして
081:早
戦国の武将であれと家臣から突き上げられた小早川秀秋も寂しい
082:源
ローラースケート履いた光源氏が現れてパラダイス平安京歌えば人気者
083:憂鬱
秀吉の顔がいつ何処でみてもサルに見えてしまう信長の憂鬱
084:河
運河より伸びてくる手につれられてやがては海に帰るのでしょう
085:クリスマス
クリスマスソングをうたいおえたらあなたは街へお帰りなさい
086:符
ゆきさきを聞いてはなりません。そして、あの天使に切符を渡して。
087:気分
ときに言われない気分で満たされてゆくわたしの内にあるうつわ
088:編
つかの間という短編集がわたしという書棚のすみで泣いている
089:テスト
にんげん度テストの結果が張り出されるそれはそれは真っ白な壁
090:長
長針を5分すすめる すこしだけ未来にあるような明け方
091:冬
冬の星座盤にぎりしめて50個の星を探す元アメリカ大統領
092:夕焼け
照明技師が不在ですので夕焼けの赤み調整は少々お待ち下さい
093:鼻
ズゴックをちら見しながらアッガイのアイアンネイルを磨く赤鼻
094:彼方
彼方より白いあくまがあらわれて緑児たちをぼこぼこにする
095:卓
食卓塩の赤いキャップが三倍の速度で飛んだ お皿も飛んだ
096:マイナス
ミノフスキー粒子量はマイナス傾向 外の天候は曇りのち雨
097:断
ザクとしてザクとしてヒートホークの鋼鉄の切断面の美しさ
098:電気
電気代節約のため無駄なビームサーベルはまめに消灯しましょう
099:戻
兄さん私たちまた戻ってきたのよこのコロニーになのに何故
100:好
好きという言葉ですべてゆるしあう世界はきっとまあるいでしょう