『かんぱーい』
言いながら、僕とイオン様は、お互いのコップをチョンと触れ合わせた。
二人しかいない部屋に、ガラスの響く音が加わる。
しかし、その音は、そのまま居座ることもなく、また二人だけの空間が戻った。
ちょっとした沈黙。
乾杯の音頭をしたもののイオン様はコップを口に持っていくこともなく、目に見えて分かるほどに顔を赤らめて、ただただ視線を落としていた。
……まあ、無理もないか。
今日のイオン様は、あの、いつものローブ姿ではなく、パーティ用のドレス(しもか女性用)を着ている。
僕が一昔前にあるつてから頂いたドレスなのだが、どうにも中々、イオン様にピッタリのサイズで。
最初は女性用ということで躊躇っていたのだが、必死のお願いの末、着てもらうことに成功した。
女性向けのドレスだということもあって多少露出度の高い作りになっていて、首元から胸元にかけて、イオン様の女性のような見事な白い肌が露わになっている。
……鼻血出そ
(しかし、ずっと何もしないのもアレだしな……)
ということで、行動に移すことにした。
「ほら、イオン様! この日のために2ヶ月も前から予約して買った『GODIVA』のチョコレート、このまま食べずにいたら勿体無いですよ?」
そう言いながら僕は、チョコレートが入っているとは思えないほどに高級感溢れるジュアリーボックスを開け、取り取りの粒チョコレートを眺めてみる。
「……すみません。このような格好に、あまり慣れていなくて。ちょっと、恥ずかしくて……」
そりゃあ、女性用のドレスを着るなんてこと、大抵の男性は経験することがないですからねぇ。
しかし、さっきよりは幾分か緊張が解れてきたのか、表情にいつものイオン様が戻ってきたように感じる。
「さてさて、イオン様。ずっとこのままでいるのもアレなので、そろそろバレンタインデーを満喫しましょー」
まあ、ずっとこのままイオン様のドレス姿を見ているのも悪くはないのだが、折角のバレンタインデー、しかも、万単位出して買ったチョコレートも用意してある。このまま1日過ごすのは勿体無い。
ささ、グイッとどうぞー、と、僕はイオン様に飲み物を飲むように勧めた。
イオン様はそれにつられ、ちびちびとだが、しかし、徐々にコップの中身を減らしていく。
大分喉が乾いていたのか、気づけば半分くらいは飲み終えていた。
「ふーっ。……ありがとうございます。わざわざ僕のためにこんなに用意してくださって」
高かったんじゃないですか? と言いながら、イオン様はジュアリーボックスの中のチョコレートを眺める。
「そうでもないですよ。味と量、相応ってくらいです。それに、この手の商品だったら妥当なくらいでしたよ?」
敢えて値段は伏せ、イオン様に値段の心配をされないようにする。
ほら、好きな人へのプレゼントなのに、値段的な面で心配されるのって嫌じゃない?
「そうでしたか。では、早速一粒、頂きますね」
目星をつけたのか、イオン様はある一粒に手を伸ばした。
「あ、ちょっと待ってください」
「はい!?」
しかし僕は、イオン様の指がチョコレートに触れる前に、それを制止した。
不思議な顔でイオン様は僕を見る。
すいません、イオン様。ちょっとやりたいことがあって……。
僕はこれからイオン様が取るであろうチョコレートをつまみ、そのチョコレートをイオン様の方に向ける。
「はい、イオン様。あーん、してくださいな」
「あ、あーん??」
最初は意味を理解できなかったようだが、すぐにその言葉の意味を理解してくれた。
「あ、あーんですか?」
「そうです。あーんです」
再びイオン様の顔に赤みが掛かる。もしかしたら、ドレスを着た直後以上の赤さかもしれない。
しかし、そう簡単に僕が引き下がらない事を知っていてか、それとも、実は結構乗り気なのか、観念したような顔をした。
「……分かりました。ちょっとは、雰囲気に流されてみるのも良いかもしれませんね」
そう言いイオン様は、あーんと、その小さな口を一杯に開けた。
おいおい、可愛すぎだろ、これは。
あまり渋ることなく承諾を貰ってしまって、提案した本人が一番驚き、しかもかなりの緊張状態に陥ってしまったり。
この緊張をイオン様に悟られないよう、震える指をなんとか落ち着かせ、イオン様の口にチョコを持っていく。
そして、無事にイオン様の口へ持っていくことが出来、イオン様は多少恥ずかしがりながらも、チョコを頬張っていた。
「ど、どうですか?」
どうしてもジッとすることが出来ず、声が裏返らないように注意して、イオン様にチョコの味を聞いた。
「……んく。あ、これは美味しいチョコレートですね。そこまで甘すぎることもなく、それでもチョコ本来の甘みが消えないくらいの程よい甘さ。とても美味しいです」
ふぅー。それは良かった。口に合わなかったらどうしようかと、買った後に迷っていたが、とりあえずは一件落着、というところか。
「……それに、先ほどの、アレもあってか、その、それ以上の美味しさがあったと思います」
……はい?
「えっと、先ほどのアレといいますと……」
暫し困惑。
そして、すぐに理解。
「アレ、ですか?」
イオン様はちょっと頬を赤らめ、しかし、その瞳は僕に向けたまま、こくんと頷いた。
・
・
・
そして僕は、今年一発目の、幸せ失神をすることになった。
ps;常に貼り付け、黒潮25号設立のホームページのURL公開。直リンにしないのは、なんとなくだ
『http://nouwotanrenda.web.fc2.com/』
言いながら、僕とイオン様は、お互いのコップをチョンと触れ合わせた。
二人しかいない部屋に、ガラスの響く音が加わる。
しかし、その音は、そのまま居座ることもなく、また二人だけの空間が戻った。
ちょっとした沈黙。
乾杯の音頭をしたもののイオン様はコップを口に持っていくこともなく、目に見えて分かるほどに顔を赤らめて、ただただ視線を落としていた。
……まあ、無理もないか。
今日のイオン様は、あの、いつものローブ姿ではなく、パーティ用のドレス(しもか女性用)を着ている。
僕が一昔前にあるつてから頂いたドレスなのだが、どうにも中々、イオン様にピッタリのサイズで。
最初は女性用ということで躊躇っていたのだが、必死のお願いの末、着てもらうことに成功した。
女性向けのドレスだということもあって多少露出度の高い作りになっていて、首元から胸元にかけて、イオン様の女性のような見事な白い肌が露わになっている。
……鼻血出そ
(しかし、ずっと何もしないのもアレだしな……)
ということで、行動に移すことにした。
「ほら、イオン様! この日のために2ヶ月も前から予約して買った『GODIVA』のチョコレート、このまま食べずにいたら勿体無いですよ?」
そう言いながら僕は、チョコレートが入っているとは思えないほどに高級感溢れるジュアリーボックスを開け、取り取りの粒チョコレートを眺めてみる。
「……すみません。このような格好に、あまり慣れていなくて。ちょっと、恥ずかしくて……」
そりゃあ、女性用のドレスを着るなんてこと、大抵の男性は経験することがないですからねぇ。
しかし、さっきよりは幾分か緊張が解れてきたのか、表情にいつものイオン様が戻ってきたように感じる。
「さてさて、イオン様。ずっとこのままでいるのもアレなので、そろそろバレンタインデーを満喫しましょー」
まあ、ずっとこのままイオン様のドレス姿を見ているのも悪くはないのだが、折角のバレンタインデー、しかも、万単位出して買ったチョコレートも用意してある。このまま1日過ごすのは勿体無い。
ささ、グイッとどうぞー、と、僕はイオン様に飲み物を飲むように勧めた。
イオン様はそれにつられ、ちびちびとだが、しかし、徐々にコップの中身を減らしていく。
大分喉が乾いていたのか、気づけば半分くらいは飲み終えていた。
「ふーっ。……ありがとうございます。わざわざ僕のためにこんなに用意してくださって」
高かったんじゃないですか? と言いながら、イオン様はジュアリーボックスの中のチョコレートを眺める。
「そうでもないですよ。味と量、相応ってくらいです。それに、この手の商品だったら妥当なくらいでしたよ?」
敢えて値段は伏せ、イオン様に値段の心配をされないようにする。
ほら、好きな人へのプレゼントなのに、値段的な面で心配されるのって嫌じゃない?
「そうでしたか。では、早速一粒、頂きますね」
目星をつけたのか、イオン様はある一粒に手を伸ばした。
「あ、ちょっと待ってください」
「はい!?」
しかし僕は、イオン様の指がチョコレートに触れる前に、それを制止した。
不思議な顔でイオン様は僕を見る。
すいません、イオン様。ちょっとやりたいことがあって……。
僕はこれからイオン様が取るであろうチョコレートをつまみ、そのチョコレートをイオン様の方に向ける。
「はい、イオン様。あーん、してくださいな」
「あ、あーん??」
最初は意味を理解できなかったようだが、すぐにその言葉の意味を理解してくれた。
「あ、あーんですか?」
「そうです。あーんです」
再びイオン様の顔に赤みが掛かる。もしかしたら、ドレスを着た直後以上の赤さかもしれない。
しかし、そう簡単に僕が引き下がらない事を知っていてか、それとも、実は結構乗り気なのか、観念したような顔をした。
「……分かりました。ちょっとは、雰囲気に流されてみるのも良いかもしれませんね」
そう言いイオン様は、あーんと、その小さな口を一杯に開けた。
おいおい、可愛すぎだろ、これは。
あまり渋ることなく承諾を貰ってしまって、提案した本人が一番驚き、しかもかなりの緊張状態に陥ってしまったり。
この緊張をイオン様に悟られないよう、震える指をなんとか落ち着かせ、イオン様の口にチョコを持っていく。
そして、無事にイオン様の口へ持っていくことが出来、イオン様は多少恥ずかしがりながらも、チョコを頬張っていた。
「ど、どうですか?」
どうしてもジッとすることが出来ず、声が裏返らないように注意して、イオン様にチョコの味を聞いた。
「……んく。あ、これは美味しいチョコレートですね。そこまで甘すぎることもなく、それでもチョコ本来の甘みが消えないくらいの程よい甘さ。とても美味しいです」
ふぅー。それは良かった。口に合わなかったらどうしようかと、買った後に迷っていたが、とりあえずは一件落着、というところか。
「……それに、先ほどの、アレもあってか、その、それ以上の美味しさがあったと思います」
……はい?
「えっと、先ほどのアレといいますと……」
暫し困惑。
そして、すぐに理解。
「アレ、ですか?」
イオン様はちょっと頬を赤らめ、しかし、その瞳は僕に向けたまま、こくんと頷いた。
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そして僕は、今年一発目の、幸せ失神をすることになった。
ps;常に貼り付け、黒潮25号設立のホームページのURL公開。直リンにしないのは、なんとなくだ
『http://nouwotanrenda.web.fc2.com/』