空飛ぶ自由人・2

旅・映画・本 その他、人生を楽しくするもの、沢山

小説『流浪の月』

2022年09月20日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

引きこもりの大学生・佐伯文(ふみ)は、
公園で、「家に帰りたくない」と言う10歳の少女・更紗を、
自分のアパートに連れて帰り、2カ月間共に過ごす。
更紗は伯母の家に引き取られた「やっかいもの」で、
家に帰りたくない強烈な理由があったのだ。
一方、文は、ある秘密を抱えている。
その2か月間は、孤独な二人にとって、
輝くような時間だった。
(念のために書くが、二人には一切性的関係はない。)

しかし、捜索願いが出され、
文は更紗の目の前で逮捕されてしまう。
文は「誘拐犯」の「女児性愛者」の「ロリコン男」で少年院送りになり、
更紗は可哀相な「被害女児」となってしまった。

それから15年
更紗はファミレス店員として働いているが、
事件当時、「家内更紗」という珍しい実名で報道されたため、
周囲の人間には、ロリコン男の被害女児と知られおり、
同情の目で見られていた。
15年経ってもネット上の記事は消えることはなかった。

そんなある日、
同僚に連れられて訪れた深夜営業カフェの店主が
文であることに更紗は気付き、動揺する。
その日を境に15年間封じこめて来た思いが動き出す。

同棲している恋人から暴力を受けたことを契機に、
文と更紗の交流は復活し、
やがて、「15年前の誘拐犯が喫茶店を営んでいて、
被害女児との交際が再び始まっている」、
という煽情的情報が報道され、
二人は追い詰められていく。

あの2カ月間がどんなに輝くよう自由な時間であったか、
孤独な二人がどう魂の共鳴をしたかを、
世間は理解せず、
悪意のある憶測と好奇心で
興味本位に二人を話題にあげる。
人と人の間にある真実は、
誰にも分からないものなのだが、
世間は、勝手に虚像を作り上げる。
そして、「ロリコン」「変態」「可哀相な子」という罵倒の言葉。

そのため、更紗と婚約者の間は破綻し、
文と恋人らしい女性は別れを迎える。
取り残された二人は・・・

2020年本屋大賞受賞の凪良ゆう(なぎら・ゆう)の小説。
李相日監督の手によって、
松坂桃李広瀬すずの主演で映画化された。


鑑賞当時、原作は未読だったが、
今回、手に取り、
二人の気持ちが更によく分かった。
基本的に更紗の一人称で書かれ、
その中に文の視点の章がはさまり、
ある秘密が明らかになる。
その秘密は、映画では視覚的描写と、
母親との対話で描かれるが、
文の独白は、映画より一層深く苦悩として伝わって来る。

そういう意味で、映画は描き足りなく、
母親役はミスキャストだったとよく分かる。
文の「恋人」の谷あゆみは、
原作ではもっと重要なからみ方をしており、
映画で演じた多部美華子は不本意だったろう。

人間の人生の真実は、
他者からは分からないもので、
軽々しく憶測や偏見や先入観で弄ぶものではない。
同情や分かったふりは、一層傷を深めてしまう。
そのことが、物語の中から強く浮かび上がって来る。

わたしも、文も、なにも悪いことなんかしていない。
ただ一緒にいる。それだけのことを、なぜ責められるんだろう。
それも十五年も経った今になって。
誰か、どうか、この痛みを想像してみてほしい。
お願いだから、どうか。
ちがう。
そうじゃない。
わたしは、あなたたちから自由になりたい。
中途半端な理解と優しさで、
わたしをがんじがらめにする、
あなたたちから自由になりたいのだ。

昔も今も文はなにもしていない。
なのに憶測や偏見は延々と続いていき、
なにかあれば掘り起こされて、
何度も何度も新たな焼きごてを押しつけられる。

絶望的な状況で、
世間から身を隠すしかない二人だが、
ラストは映画よりもっと力強く、
希望の持てるものとなっている。

映画の感想(5月18日掲載) は↓で。

https://blog.goo.ne.jp/lukeforce/s/%E6%B5%81%E6%B5%AA%E3%81%AE%E6%9C%88 

 



最新の画像もっと見る

コメントを投稿