空飛ぶ自由人・2

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連作短編集『可燃物』

2024年04月21日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

米澤穂信の警察小説。

主人公は、群馬県警本部刑事部捜査第一課の葛(かつら)警部
余計なことは喋らず、上司から疎まれ、
部下にも良い上司とは思われていない。
しかし、捜査能力は卓越している。
集められた証拠を丹念に読み解き、
事件の背後にある真実を追い求めていく。
上司は、こう言う。
「俺も上も、葛班の検挙率には一目置いている。
 だが、葛班はあまりにも、
 お前のワンマンチームじゃないかと疑ってもいる。
 お前の捜査手法は独特だ。
 どこまでもスタンダードに情報を集めながら、
 最後の一歩を一人で飛び越える。
 その手法はおそらく、
 学んで学び取れるものじゃない」
上司は部下を育てられないことを危惧しているのである。
5編の短編から成り立つ。

「崖の下」

5人の若者がスキー場で遭難する。
コース外の、自然の中を滑る、
バックカントリースノーボードを試みたのだ。
うち二人か崖下に落ち、一人が死亡する。
死因は頸動脈を鋭い何かで刺された失血死だ。
骨折して生き残った一人が疑われるが、
凶器が見つからない
現場から移動できなかったし、
搬送の状況下では凶器を捨てられない。
滑落した二人の間には、
母親の交通事故死を巡る責任問題があったことが
残された友人の証言で分かっている。
もし、それが原因で殺人が行われたとして、
凶器が見つからないのでは話にならない。
凶器は何なのか、なぜ見つからないのか。
葛警部があることに気づく。

「ねむけ」

強盗致死傷事件の容疑濃厚者が警察の監視中に
交通事故を起こした。
交差点で出会い頭に衝突したのだ。
信号無視であれば、危険運転致傷罪で逮捕状を請求できる。
しかし、両車共ドライブレコーダーは登載していなかった。
目撃者が4人
下水道工事現場で誘導員をしていた男性。
現場の交差点に面して建つコンビニの店員。
事故直前に交差点を通った乗用車を運転手していた医師。
衝突音を聞いて窓から現場を見た、交差点近くに住む男性。
多すぎる
普通、目撃者を見つけるのに苦労するのに。
しかも、容疑濃厚者の側の信号が赤だったとの証言が一致している。
しかし、葛は、全員の証言が一致していることに不審を感ずる。
証言が間違っていたとしたら、誤認逮捕になる。
葛は4人と面談し、ある事実をあぶり出す。
最後に題名の「ねむけ」の意味が分かる。

「命の恩」

榛名山麓の〈きすげ回廊〉で右上腕が発見された。
山狩りで、他の場所でもばらばらになった死体が発見される。
頭部の歯の照会で、遺体の身元が判明する。
被害者宅の風呂場で、遺体を切り刻んだ痕跡が発見された。
しかし、息子にはアリバイがある。
被害者はある人物から金を借りていた。
その人物は、昔、父娘で山で遭難した時、
被害者に助けられたことがあり、
恩義を感じていた。
その人物が犯行を自供した。
しかし、娘は父の犯行を認めない。
父は常日頃、命の恩人に
一生かけて恩返しをしなければと言っていたという。
恩人を殺し、死体を切り刻むとは、不自然だ。
普通、死体をばらばらにするのは、
死体を隠すためなのに、
なぜ人目に付くような場所に死体を捨てたのか? 
葛は、人体の図を描き、発見された部位と
未発見の部位を書き込んでみる。
そして、あることを発見する。

「可燃物」

住宅街で連続放火事件が発生した。
葛班が捜査に当てられるが、容疑者を絞り込めないうちに、
犯行がぴたりと止まってしまう。
なぜ放火は止まったのか?
ゴミ集積場で燃えるものはあるのに、
なぜ燃えにくい生ゴミの袋に火をつけたのか? 
犯行の動機は何か?
一番容疑の濃いスーパーの店員に監視をつけるが、
その後、放火はしていない。
捜査は行き詰まるかに見えたが、
葛は、放火が止まったのは、
犯人の目的が達成されたからではないかと思い当たり、
ある人物に動機があることを知る・・・

「本物か」

ファミリーレストランで、立てこもり事件が発生する。
別な事件を終えたばかりの葛班が
近所にいたため、
特殊班が着くまでの間、
現場を担当する。
立てこもっているのは、
昔やんちゃをしていたタクシー運転手。
現場にいた避難客や店員の聞き取りで、
その男は息子が食べるパフェの
アレルギー物質で店長に抗議していたという。
中にいるのは、店長と、女子店員。
どうやら女子店員は殺されたらしい。
葛は、現場にいた客や店員から事情を聞き、
時系列を作ると、
ある不審点に気づく。
店員が聞いた事務室での物音、
「逃げろ」という声、
非常ベル、
そして、注文して作っていたイカスミのパスタの調理時間。
特殊係が到着した時、桂は、ある忠告をする・・・。

独特なその手法は、
警察組織内では好まれていないようだが、
主人公は我が道を行く
綿密な情報収集と事件の組み立てから、
事件の真相が見えて来る様は、
目を見張らされる。

2023年ミステリーランキングで3冠を達成したという。
「このミステリーがすごい!」第1位、
「ミステリが読みたい!」第1位、
「週刊文春ミステリーベスト10」第1位。
その評価が妥当だと思える、出来栄えだった。

シリーズ化とドラマ化が期待される。

 



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