(Image source:www.cinempire.com)
ちょっと現実逃避したい心境だったので、ロードムービーならどこまで逃げられるかなぁなんて思いつつ・・・昨年TIFFで上映されていたにもかかわらず、見逃した『インビジブル・ウェーブ』(2006年 監督:ペンエーグ・ラッタナルアーン)。
心の中に水路ができて逃げられる感じがしたのだけど、結局逃げられないってことがわかった(笑) 映画に諭されたって感じで、心情的には納得 。
愛-美しき人妻との情熱的な愛
罪-代償として夫に命じられた彼女の殺害
そして愛を失った男は異国へ旅立った
このキャッチコピーは、ちょっと違うかも・・・ これじゃ、なんだか愛はすべてという話のように思えてしまう。裏切り感が心地よいかどうかは見た人によると思うけれど。
こってり、しっとり、激しさなどの感情の突出はなく、このタイトルどおり、「見えない波」が現実世界にも精神世界にもじわじわ寄せては返しという淡々としたイメージ。監督はタイのタランティーノと呼ばれているペンエーグ・ラッタナルアーン。他の作品は未見。アジア的なツボは抑えているという感じがする。どんなツボかと突っ込まれると返答に困るけど・・・見えない波だから(言い訳)。
料理人キョウジ(浅野忠信)は、ボスの情婦と逢瀬を楽しんだ後、ボスの命令で彼女を殺す。翌日、勤務先のレストランに出向いた彼はボスから休暇を言い渡され、用意されたチケットで船に乗り、タイのプーケットへと向かう。船中では小さなトラブルに巻き込まれたり、赤ん坊を連れた女性ノイ(カン・ヘジョン)と出逢ったり、何者かにつけ狙われたり・・・そして、プーケットでキョウジを待ち受けているのは・・・
ただ、万人には勧めません。ストーリーとしての面白さはやや物足りない。撮影監督クリストファー・ドイルの流れるようなカメラワークや心象風景などの映像を辛抱づよく楽しみたい場合とか、浅野忠信という俳優を楽しみたい場合にはOK。
セリフも少ないのに、浅野さん1人でぐいぐいとすべてを引っ張っていく。1人遊びのようにコミカルだったり、シリアスだったり、そんなさじ加減が実に上手い。英語のセリフも流暢に言い回そうとせず、無理なく自然で彼らしい。
ボスの情婦を自分の女にして、結局ボスの命令で殺すことになったキョウジの罪の意識は、罪の深さ、重苦しさに身もだえするような情緒的なものではなくて、自分に次々とふりかかる不遇や不運を受け入れるというストイックな方法で表現されているように思える。アパートのみすぼらしさや、窓のない無機質な船室など、キョウジの心の陰影を映し出しているのかと思わせる演出。
各国から参加している脇役陣も個性的で、浅野忠信のキャラと交わりそうで交わらない、交わらなさそうで交わっている。
『インファナル・アフェア』のエリック・ツェンの顔を見ると、この人、アンダーグラウンドな世界には欠かせない人物だわー、とニンマリしてしまう。
カン・ヘジョンという女優は、カメレオンのようであり、不思議ちゃんでもある。英語のセリフにもふりまわされず、発音もよくて聞きやすい。作品ごとに変わっていくのに、足元がしっかりしているというか、彼女の存在には安定感がある。
浅野忠信のストイックキャラとは、とっても対照的なキャラでギラギラしている光石研との、かみ合わないやりとりもちょっと面白い。