未利用バイオマスの利用
バイオマスとは何だろう?
そう、枯渇性資源ではない、現生生物体構成物質起源の産業資源をバイオマスと呼ぶ。新技術として乾溜ガス化発電を用いたエネルギー利用が脚光を浴びている。日本政府が定めた「バイオマス・ニッポン総合戦略」では、「再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」と定義されている。
主なバイオマス資源には、廃棄物系しては、紙、家畜糞尿、食品廃棄物、建設廃材、黒液、下水汚泥、生ゴミなど、未利用のものとしては、稲わら、麦わら、籾殻、林地残材(間伐材・被害木など)、資源作物、飼料作物、でんぷん系作物等がある。
その中で、稲ワラなど農業廃棄物系バイオマスから生産可能なバイオ燃料にも大きな期待が寄せられている。
しかし、これらの廃棄物系バイオマスの主成分は分解が難しい繊維であることから、その利用が進んでいない状況にある。そのため、低コストで繊維を分解できる細菌・酵素の探索が世界的に行われていた。
発見!ワラを分解する細菌
今回、稲ワラなど利用しにくいバイオマスからエタノールなどを作り出すのに役立つと期待される細菌を農業・食品産業技術総合研究機構畜産草地研究所の研究者が羊のふんから発見した。
畜産草地研究所の横山浩・主任研究員が米ジョージア大学の研究者と共同で見つけた細菌は、おどろいたことに、高温(70℃以上)で増殖する特徴を持ち、稲ワラなどに多く含まれるヘミセルロースの成分であるキシランを効率よく分解した。
くわしく調べると、増殖速度が最大となる温度が65℃以上である高度好熱嫌気性細菌が畜フンから単離されたのは、世界で初めてのこと。
この新しい細菌をカルディコプロバクター・オーシマイ(Caldicoprobacter oshimai )と命名した。本細菌は既知の細菌と比較して進化的に非常に離れていたため、国際原核生物分類命名委員会に種より二つ上位の分類階級である新科(「種」の上位分類が「属」、「属」の上位分類が「科」)として認定された。
本細菌の分解反応により、キシランはキシロースに分解され、バイオ燃料(バイオエタノール)などの原料としての利用可能性が広がることから、稲ワラ等の未利用バイオマスの利用促進に向けて、その応用が期待される。また、本細菌は新しい遺伝資源として利用可能である。(サイエンスポータル 2010年8月10日)
高度高熱嫌気性細菌!
キシランを含む培地に羊フンを接種し、74℃の無酸素(嫌気)条件で培養を行った。その結果、キシランを分解する新規細菌が単離された。この新規細菌はキシランを炭素源かつエネルギー源として増殖し、様々な種類のキシラン(ブナや樺の木由来など)を、バイオ燃料(バイオエタノール)などの原料として利用可能なキシロースに分解できる。
驚くべきことに、この細菌は、無酸素条件下、44-77℃(至適70℃)の温度(図1)、pH5.9-8.6(至適7.2)で増殖可能。牛フンなどで至適増殖温度が45-60℃の中度好熱嫌気性細菌が存在していることはよく知られているが、至適増殖温度が65℃以上の高度好熱嫌気性細菌が畜フンから単離されたのは、世界で初めてのこと。
新細菌の形態・分類
図2の写真は新規細菌の形態を示す光学顕微鏡像である。長さ4-14μm、直径0.4-0.5μmの桿体で、細胞壁は一重膜でグラム染色陽性細菌であり、運動性はない。細胞増殖後の死滅期には、細胞の先端が膨張して、その中に胞子を形成する。
近年、細菌の分類は、全ての細菌が共通に持っているDNA配列の一つである16S rDNA配列に基づいて行われており、近縁種との類似性が97%以下の場合、新種であると考えられている。新規細菌の16S rDNA配列を解析したところ、最も進化的に近い細菌はカタバクター・ホンコンジェンシス(Catabacter hongkongensis )であり、その類似性はわずか85%であった。
新規細菌はクロストリジウム目(科より一つ上位の分類)に属すが、その中のどの科にも属さないことが判明。したがって、この細菌はクロストリジウム目に属する新しい科であると結論され、その新規細菌名をカルディコプロバクター・オーシマイ、新科名をカルディコプロバクター科と命名した。
本細菌は、好熱細菌研究の世界的第一人者である大島泰郎先生(共和加工株式会社 環境微生物研究所 所長、東京工業大学名誉教授、東京薬科大学名誉教授)に因み命名された。本細菌株はアメリカの細胞バンクATCCとドイツの細胞バンクDSMZに寄託され、非営利目的で利用可能(菌株番号:BAA-1711、DMS 21659)。
参考HP サイエンスポータル「羊のフンから未利用バイオマスの利用に期待の細菌」・畜産草地研究所「羊の糞から新規の好熱細菌発見!」
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