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世界的に注目される、プラスチックのマテリアルリサイクル!「プラスチックロード」というアイデア

2019年06月28日 | サイエンスジャーナル

 なぜ、プラスチックゴミが問題なのか?

 プラスチックは軽くて丈夫で便利なものだが、環境に広がり問題になっている。しかし、プラゴミはちゃんと分別して捨てているし何が問題なのだろうか?

 日本はプラスチックの生産量で世界第3位。特に1人当たりの容器包装プラスチックごみの発生量については、世界第2位と、この問題に国際的な責任を持たなければならない立場にある。

 実際コンビニの普及もあり、国内で年間に流通するレジ袋の枚数は、推定400億枚で、一人当たり一日約一枚のペースで消費されている。また、ペットボトルの国内年間出荷は227億本に達する。

 日本では廃棄されるプラスチック(廃プラ)の有効利用率が84%と特に進んでいるとされているが、全体の57.5%は、燃焼の際にエネルギー回収をするものの燃やす「サーマルリサイクル」という処理方法に頼っている。

 重要な点は「リサイクル」という言葉の範囲だ。日本には「3R運動」という言葉があって、プラスチックそのものを減らす「Reduce」、使い捨てではなく再利用する「Reuse」、リサイクルする「Recycle」の3つをしましょう、と教育されている。

 最初の2つはわかりやすい。減らしましょう、何回も使いましょうという意味である。それでは、リサイクル、日本語訳では「再資源化」とは一体何なのか。そして日本のリサイクル率84%のリサイクルとは一体何のことなのか。

 リサイクルの方法には、プラスチックをそのまま材料として再利用する「マテリアルリサイクル」、化学原料として利用する「ケミカルリサイクル」、燃やして火力発電やセメント製造の熱源として利用する「サーマルリサイクル」の3種類がある。

 現在の主流はサーマルリサイクルであり、これはつまり、化石燃料を燃やし、CO2排出しているということなので、今後ますます深刻化する地球温暖化への対策まで含めた視点で見たときに、とても資源が有効かつ持続可能な方法で利用されているとは言えない。

 だが、マテリアルリサイクルは、ペットボトルごみがペットボトルに生まれ変わるとか、廃プラが駅ホームのベンチやバケツに生まれ変わるなど、モノからモノへと生まれ変わるものだ。多分、人が想像する「リサイクル」のイメージに一番近い。但し、このリサイクル方法だと、リサイクルする度にプラスチック分子が劣化してしまい、どんどん品質が悪くなり、使えないものになってしまう。

 そこで新技術として期待されているのがケミカルリサイクルだ。 ケミカルリサイクルは廃プラをひとまず分子に分解してからプラスチック素材に変えるので、何度でも再生できる。理想的なリサイクルのように聞こえる。しかし残念ながらこの方法は、分子に分解する工程に大掛かりな工場がいるため、資金やエネルギーが結構かかる。

 リサイクルといっても、私たちがイメージするほどうまくいっていないのが実情なのだ。

 私たちができることは何か?

 だから、私たちがすぐにできることといえば、なるべくプラスチックを使わないことと、なるべく捨てないことがあたり前だが大切なことである。

 マイバッグを持参し、レジ袋はもらわない。マイボトルを持ち歩き、プラスチックのカップを減らす。マイ箸を持ち歩き、プラスチックのスプーンやフォークを減らす。プラスチック製のストローの使用を控える。

 スーパーなどで食品を小分けにするポリ袋の使用を減らす。詰め替え用ボトルなど繰り返し使えるものを選ぶ。食品の保存はふた付き容器を使い、ラップの使用を減らす。

 買い物のときには簡易包装を頼む 海・川・山のレジャーではごみを持ち帰る。屋外で出たごみは家に持ち帰って処分する。河川敷や海岸の清掃活動に参加する。ごみは所定の場所・時間に、分別して出す。ごみのポイ捨て、不法投棄はしない。

 こうした中で、日本国内でも、企業がプラスチックのストローをやめたり、プラスチックに替わるものを開発したり、行政やボランティア団体などが海岸の清掃活動やプラスチックごみ削減運動をしたり、それぞれの立場で様々な取組を始めている。環境省では、そうした様々な取組を応援し、さらに広げていくために、「Plastics Smart(プラスチック・スマート)」キャンペーンを実施している。

 新技術でプラスチックのマテリアルリサイクル

 リサイクルの方法には、プラスチックをそのまま材料として再利用する「マテリアルリサイクル」、化学原料として利用する「ケミカルリサイクル」、燃やして火力発電やセメント製造の熱源として利用する「サーマルリサイクル」の3種類がある。現在の主流はサーマルリサイクルだが、これは燃焼時にCO2が出るという問題がある。一方、プラスチックを加工して再利用するマテリアルリサイクルなら、CO2の発生はより少なくなる。

 廃プラスチックを8mm程度に粉砕したフレークは、再度ペットボトルとして活用されたり、食品用トレイやラベル、カード、文房具、衣類、その他ボトルや容器と幅広くリサイクルされてきた。しかし、これらの方法では再生利用するたびに劣化する問題がある。もっと有効なマテリアルリサイクルの方法はないだろうか。

 その一つとして最近、世界的に注目されているのが廃プラスチックを道路舗装材に活用するリサイクルがある。アスファルト舗装の路面は、正確にはアスファルトに骨材を混ぜた「アスファルト混合物」が敷かれている。骨材には砕いたアスファルト、砂利、砂、石灰が使われることが多いが、その代わりに細かく破砕した廃プラスチックを使うことも可能。世界のどこでも道路は基本的な公共インフラなので、売り先(市場)としては申し分のない規模を持っている。

 現在この分野で世界をリードするのはヨーロッパで、英国スコットランドのMacRebur社は廃プラスチックを破砕してアスファルトの「骨材」として利用する技術を開発した。同社によるとプラスチック混合アスファルトは従来のアスファルトより軽いが、耐久性が増して6倍長持ちするという。2016年から英国をはじめトルコ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどへ導入の動きがひろがっている。

 なお、オランダのVolker Wessels社は2015年、廃プラスチックを「レゴ」のような箱状のブロックに加工して道路に敷き詰める別の方法の「PlasticRoad」を発表した。これは従来のアスファルト舗装に比べて約3倍の耐久性があるという。ロッテルダム市が自転車専用道路で導入を計画している。

 インド、タイ、インドネシアでは国内企業が独自に技術開発を進めており、政府のバックアップを受けて実際に国内で施工している。インドはプラスチック混合アスファルトの道路延長がすでに10万キロを超え、南部カルナタカ州政府は、道路舗装でプラスチックをアスファルトと混ぜて使用するよう義務化した。ガーナ政府は同国のNELPLAST社が開発した廃プラスチックを砂と混ぜブロックに加工し道路に敷く方法を普及させて、リサイクル率70%達成を目指している。


鎌倉のシロナガスクジラ漂着の原因は?今、世界で起きている「海洋プラスチック」の問題

2019年06月25日 | サイエンスジャーナル

 漂着したシロナガスクジラの原因は?

 2018年8月5日、鎌倉の由比ガ浜に漂着したのはシロナガスクジラだった。シロナガスクジラは体長は30メートルにもなる、地球上で最大の動物であるが、漂着したのは子どもで体長は10メートルほどであった。国内の海岸に漂着したのは初めてのことだった。

 それほど貴重なクジラが漂着した理由は何だろう?その後、クジラは国立科学博物館が調査のため引き取られくわしく調査された。

 その結果、胃の中からプラスチックごみが発見された。3センチ四方ほどに折りたたまれたプラスチックで、赤ちゃんは生後3ヶ月から半年ほどと見られ、まだ母乳以外は飲んでいない時期であることから、餌と間違えて飲み込んだのではなく、泳いでいる間に誤って飲み込んだと見られる。それだけ海にプラスチックが浮かんでいる、ということだ。

 神奈川県の研究機関が、横浜の環境系イベントで写真を展示していたので聞いてみたところ、飲み込んでいたプラ片の材質はナイロンだったとのこと。おそらく業務用で使われたナイロンフィルムの切れ端だろうという。

 かながわプラごみゼロ宣言

 神奈川県は、これを「クジラからのメッセージ」として受け止め、持続可能な社会を目指す具体的な取組として、深刻化する海洋汚染、特にマイクロプラスチック問題に取り組むことに決めた。

 プラスチック製ストローやレジ袋の利用廃止・回収などの取組を、市町村や企業、県民とともに広げていくことで、2030年までのできるだけ早期に、リサイクルされない、廃棄されるプラごみゼロを目指す。

 海岸利用者に対して、海洋汚染の原因となるプラごみの持ち帰りを呼びかけていく。「かながわプラごみゼロ宣言」を行っている。

 「SDGs」とは、持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)のことで、2015年9月の国連サミットで採択された持続可能な世界を実現するための開発目標である。2030年を年限とする17のゴールと169のターゲットで構成され、地球上の誰一人として取り残さないことを誓っている。

 また「SDGs未来都市」として、本年6月、国は、全国でSDGs達成に向けた優れた取組を行う29自治体をSDGs未来都市として選定し、そのうち、特に先導的な10の取組を自治体SDGsモデル事業に選定した。神奈川県は「SDGs未来都市」及び「自治体SDGsモデル事業」の両方に認定された。 

 今、世界で起きている「海洋プラスチック」の問題

 洋服から自動車、建設資材に至るまで、私たちの生活のあらゆる場面で利用されているといっても過言ではないプラスチック。

 手軽で耐久性に富み、安価に生産できることから、製品そのものだけでなく、ビニールや発泡スチロールなどの包装や梱包、緩衝材、ケースなどにも幅広く使われている。

 しかし、プラスチックの多くは「使い捨て」されており、利用後、きちんと処理されず、環境中に流出してしまうことも少なくない。手軽に使える分、手軽に捨てられてしまう、そうした面もあるといえる。

 そして環境中に流出したプラスチックのほとんどが最終的に行きつく場所が「海」。プラスチックごみは、河川などから海へと流れ込むためだ。

 世界中のプラゴミは1億5,000万トン

 既に世界の海に存在しているといわれるプラスチックごみは、合計で1億5,000万トン。そこへ少なくとも年間800万トン(重さにして、ジャンボジェット機5万機相当)が、新たに流入していると推定される。

 こうした大量のプラスチックごみは、既に海の生態系に甚大な影響を与えており、このままでは今後ますます悪化していくことになる。

 例えば海洋ごみの影響により、魚類、海鳥、アザラシなどの海洋哺乳動物、ウミガメを含む少なくとも約700種もの生物が傷つけられたり死んだりしている。このうち実に92%がプラスチックの影響、例えば漁網などに絡まったり、ポリ袋を餌と間違えて摂取することによるものだ。プラスチックごみの摂取率は、ウミガメで52%、海鳥の90%と推定されている。

 このようなプラスチックごみは、豊かな自然で成り立っている産業にも直接的、間接的な被害を与え、甚大な経済的損失をもたらしている。例えば、アジア太平洋地域でのプラスチックごみによる年間の損失は、観光業年間6.2億ドル、漁業・養殖業では年間3.6億ドルになると推定されている。

 一度放出されたプラスチックごみは容易には自然分解されず、多くが数百年間以上もの間、残り続ける。海洋ごみが完全に自然分解されるまでに要する年数。上記の内、アルミ缶以外は全てプラスチックが主成分の「海洋プラスチックごみ」

 注目されるマイクロプラスチック

 これらのプラスチックごみの多くは、例えば海岸での波や紫外線等の影響を受けるなどして、やがて小さなプラスチックの粒子となり、それが世界中の海中や海底に存在している。5mm以下になったプラスチックは、マイクロプラスチックと呼ばれている。

 マイクロプラスチックは、日本でも洗顔料や歯磨き粉にスクラブ剤として広く使われてきたプラスチック粒子(マイクロビーズ)や、プラスチックの原料として使用されるペレット(レジンペレット)の流出、合成ゴムでできたタイヤの摩耗やフリースなどの合成繊維の衣料の洗濯等によっても発生している。

 海洋に投棄されたプラスチックゴミはやがて微細なマイクロプラスチックとなり、食物連鎖を通じて多くの生物に取り込まれている。製造の際に化学物質が添加される場合があったり、漂流する際に化学物質が吸着したりすることで、マイクロプラスチックには有害物質が含まれていることが少なくない。そして、既に世界中の海に存在するマイクロプラスチックが海洋生態系に取り込まれ、さらにボトル入り飲料水や食塩などに含まれている可能性が指摘されている。

 マイクロプラスチックについては、人を含む生物の身体や繁殖などに、具体的にどのような影響を及ぼすのか、詳しいことはまだ明らかにされていない。しかし、本来自然界に存在しない物質が広く生物の体内に取り込まれた結果を、楽観視することはできない。

 拡大する問題とその原因 特にアジアの課題

 プラスチックの年間生産量は、過去50年で20倍に増大した。しかし、これまでにリサイクルされたのは、生産量全体のわずか9%に過ぎない。そして、前述したように、これらのプラスチックは自然界の中で、半永久的に完全に分解されることなく存在し続ける。

 これまで生産されたプラスチックの分布状況。再利用されたのは全体の9%に留まる。この問題になっている海洋プラスチックの8割以上は、陸上で発生し海に流入したもの。特に多いのが、使い捨て用が中心の「容器包装用等」。この用途に使われるプラスチックは、世界全体のプラスチック生産量の36%、世界で発生するプラスチックごみの47%を占めていると考えられる。

 世界と国内でのプラスチックの生産量と用途別の生産割合。「容器包装等」が最も多い。海で発生する海洋プラスチックは、陸上からの物と比較すれば多くない。しかしながら、やむを得ず放棄されたもしくは投棄された漁具(ALDFG: Abandoned, lost or otherwise discarded fishing gear)の多くがプラスチックでできたものであり、特に深刻な問題を引き起こしている。

 その一例が、「ゴーストネット」と呼ばれる、廃棄された漁網。例えば「流し網」などは何キロにもおよぶ長さを持つ漁網だが、主にプラスチックでできている。これら漁網が意図的であるかどうかに関わらず、一旦海に廃棄されると、やはり分解されることなく長い間海に残り続ける。そして、アザラシや海鳥、ウミガメなどに誤って絡まり、これらの動物がひどい場合には何年間も苦しんだりして命を落とす問題が、世界各地の海で頻発している。

 「海洋プラスチック」2050年の予測

 ダボス会議で知られる世界経済フォーラムは、現在、海へ流入している海洋プラスチックごみは、アジア諸国からの発生によるものが、全体の82%を占めるとしている。

 環境に負荷をかけた、持続可能とはいえない経済発展が続く限り、この海洋プラスチックの問題も、今後さらに拡大すると考えられている。同フォーラムは、2050年にはプラスチック生産量はさらに約4倍となり、「海洋プラスチックごみの量が海にいる魚を上回る」というショッキングな予測を発表している。

 さらに、プラスチックの原料となる原油の使用は、地球温暖化の主要な原因の一つ。

 プラスチックの生産拡大傾向がこのまま続くと、パリ協定の目標である「2℃未満」を達成するときに許される2050年の排出量の約15%を、プラスチックの生産および焼却時の排出が占めると試算されている。

 2050年には海洋プラスチックゴミは魚の量を上回り、消費する原油の20%がプラスチック生産に使用されると予測されている。

 日本として取り組むべきこと

 日本はプラスチックの生産量で世界第3位。特に1人当たりの容器包装プラスチックごみの発生量については、世界第2位と、この問題に国際的な責任を持たなければならない立場にある。

 実際コンビニの普及もあり、国内で年間に流通するレジ袋の枚数は、推定400億枚で、一人当たり一日約一枚のペースで消費されている。また、ペットボトルの国内年間出荷は227億本に達する。

 日本では廃棄されるプラスチック(廃プラ)の有効利用率が84%と特に進んでいるとされているが、全体の57.5%は、燃焼の際にエネルギー回収をするものの燃やす「サーマルリサイクル」という処理方法に頼っている。これはつまり、化石燃料を燃やし、CO2排出しているということなので、今後ますます深刻化する地球温暖化への対策まで含めた視点で見たときに、とても資源が有効かつ持続可能な方法で利用されているとは言えない。

 廃プラの処理状況。

 マテリアルリサイクル:廃プラを原材料としてプラスチック製品に再生

 ケミカルリサイクル:廃プラを化学的に分解するなどして、化学原料に再生

 サーマルリサイクル:廃プラを固形燃料にしたり、焼却して熱エネルギーを回収

 また、日本は年間150万トンものプラスチックくずを「資源」という位置づけで中国を中心にアジア諸国に輸出していた。しかし、世界最大の輸入国である中国がリサイクル処理に伴う環境汚染などを理由に2017年から輸入規制を始めたことで、日本のプラスチックごみの行き場がなかなか見つからないといった問題も起こっている。

 しかしプラスチックくずの海外輸出については、プラスチックごみの処理を、処理体制が整っていないアジアの途上国に実質的に押し付けることにより、アジアからの海洋プラスチックごみ流出を加速させることにつながるとして懸念する声もある。他の輸出先を探すのではなく、輸出すること自体を見直すべきではないだろうか。

 海洋プラスチックの問題は、ごみの廃棄やリサイクルの側面だけでなく、自然そのものへの影響についても深刻。日本沿岸で回収された漂着ごみは年間約3万トンから5万トンにも及ぶ。モニタリング調査によると、漂着ごみにおいて、海外から流れ着くものを含めたボトルや漁網等プラスチック類が占める割合は個数をベースにすると65.8%。また、日本近海でのマイクロプラスチックの濃度は、世界平均の27倍にも相当するという調査結果もある。

 日本の海岸に漂着したごみの量と内訳。

 漂着ごみの大半を漁具を含むプラスチック類が占めている。また、日本海側で漂着が多いのが分かる。

 海洋プラスチックの問題を解決していくうえでは、法律の整備に基づいた生産・使用削減やリサイクルシステムの改良などが重要な手立てになるが、そうした政策面での改善は、日本はまだ遅れを取っている。

 2018年6月にカナダで開催されたG7シャルルボア・サミットにて、プラスチックの製造、使用、管理及び廃棄に関して、より踏み込んで取り組むとする「G7海洋プラスチック憲章」に、日本とアメリカだけが署名しなかったことが、それを示す顕著な例となります。

 問題の解決に向けて

 プラスチックごみの問題を解決するために必要なことの基本は、いわゆる3Rです。リデュース(Reduce)=出すごみの総量を減らすこと。リユース(Reuse)=再利用すること。リサイクル(Recycle)=再生産に回すこと

 これを徹底することが、海に流入するプラスチックを減らすことにつながる。とりわけ、プラスチック生産量の多い日本の場合、重要となるのは生産・使用を「リデュース=減らすこと」。

 特に、日本でも廃プラの約半分を占める「使い捨て用が中心の容器包装等のプラスチック」(※20)を減らすことで、最も効果的なリデュース推進が可能となります。

 世界では、使い捨てプラスチックの代表格であるレジ袋の使用規制が、2018年2月の時点で45か国以上で発効、若しくは、議会承認を受けています。課税・有料化を決めた国を含めると60か国に上ります(※16)。

 日本でも神奈川県が、鎌倉市の海岸に打ち上げられたシロナガスクジラの胃の中からプラスチックごみが発見されたことをきっかけに、2030年までのできるだけ早期に、リサイクルされない、廃棄されるプラごみゼロを目指すとの「かながわプラごみゼロ宣言」を行った。

 今日本では、これら先進事例に学びながら、負の遺産ならぬ負のプラスチックごみを未来の世代にのこすことのないよう、取り組みの強化が求められている。

 海洋プラスチック問題に対するWWFジャパンの取り組み

 国際的にもその深刻さがクローズアップされる「海洋プラスチック問題」。その解決に向けて、WWFジャパンでは特に、「使い捨て用プラスチック」の使用削減を中心とした取り組みを推進していきます。

 プラスチックごみへの日本と海外の対応

 海外ではプラスチックの生産・使用自体を削減する動きが、さらに加速しつつある。例えば2018年6月にカナダで開かれたG7シャルルボワ・サミットでは、「海洋プラスチック憲章」が提示されました。

 「海洋プラスチック憲章」自体は、2030年に向けて先進国各国で海洋プラスチック問題に取り組んでいくための大枠を定めたもので、問題解決には十分な内容とは言えませんが、日本はアメリカと並び、この「憲章」への署名を見合わせました。

 その後、国内外から日本に対し、プラスチック問題へのより責任ある取組への要請が高まったこともあり、日本では2019年6月に大阪で開催予定のG20サミットに向け、世界のプラスチック対策をリードしていくことを目指して「プラスチック資源循環戦略」を策定中です。

 しかし、海外では既に45か国以上でレジ袋の使用禁止が議会承認されています。また欧州連合の下院に当たる欧州議会では、2018年10月24日に、代替可能な使い捨てプラスチック、例えばストロー、食器、綿棒、マドラー等の使用を2021年から禁止する法案を可決。

 また主要なプラスチックごみである、たばこのフィルターについても2030年までに8割削減するとしています。また、マレーシア政府は、使い捨てプラスチック削減のロードマップを発表しましたが、そこでは2030年までに使い捨てプラスチックの使用を全面的に禁止するとしています。

 このように世界ではプラスチックを減らす動きが加速しており、海洋プラスチック問題の深刻さと今後への影響、そしてプラスチックの大量生産・使用国としての日本の立場を考えるならば、日本は「憲章」の内容に合わせることでなく、その内容を十分に上回る取り組みを約束することが求められるといえる。

 日本で取り組むべきこと:使い捨て用プラスチックを中心としたリデュース(削減)

 大量のプラスチックが日常的に利用される暮らしが当たり前になっている日本は、1人当たりの容器包装等プラスチックの発生量が世界で2番目に多く、世界第3位のプラスチックの生産国として、世界の海洋プラスチックごみ問題の一因を作りだしていることは事実です。

 使用量を削減するための代替品として、バイオマスプラスチックや、生分解性プラスチック、紙などの利用への移行が考えられます。

 だだ、これらについては、本当に環境への影響がないといえるのか、また紙のように森林の破壊につながる可能性のある資源については、その持続的な利用が担保できる状態での代替品への移行が可能なのかを、慎重に検討していくべきと考えます。

 例えばヨーロッパでは、オキソプラスチックという酸化型生分解性プラスチックが、潜在的にマイクロプラスチックによる環境汚染の原因となる、非常に小さな粒子に分解されるとして、使用規制に向けた動きが進んでいます(※29)。

 海外と同様日本でも、廃棄されるプラスチックの約半分がレジ袋やペットボトルを含めた「容器包装等/コンテナ類」として使われているもの。これらの多くが使い捨てされています。

 プラスチックに代わる代替品が十分に確立されていない中で、削減余地の大きい「使い捨てプラスチック」の生産・使用を減らしていくことこそが、日本でも優先的に取り組むべき課題として重要なものであるとWWFジャパンは考えています。

 日本で取り組むべきこと:サーマルリカバリーを含む燃焼処理からの脱却

 日本では、プラスチックのリサイクル、有効利用が進んでいるとする意見が聞かれますが、実はこの中身には、焼却による「熱エネルギーとしての再利用」が多く含まれています。

 これは、「サーマルリカバリー」「サーマルリサイクル」「熱回収」といった呼称で呼ばれますが、プラスチック資源としての再利用を目指した取り組み(マテリアルリサイクル)とは根本的に異なります。

 地球温暖化が全人類の問題となっている中で、原油由来のプラスチックの燃焼処理を推進することは、今世紀後半の実質的な温室効果ガス排出ゼロを目指すパリ協定の理念、そして、2050年までの温室効果ガス排出量80%削減を目指す日本の姿勢とも明らかに矛盾するものです。

 ヨーロッパ他の先進国では、サーマルリカバリーは、リサイクルとはみなされていません。したがって、日本政府がサーマルリカバリーを推進するかのような文脈でプラスチックの資源循環戦略を進めるとした場合、国内外で受け入れられない可能性もあります。

 WWFジャパンの取り組み

 日本はこれから、海洋プラスチックごみ問題に、どのように取り組むべきなのか。WWFジャパンは、海洋プラスチックごみ問題の解決に取り組むNGOや市民団体と、「減プラスチック社会を実現するNGOネットワーク」を結成し、今後の海洋プラスチック問題に日本としてどう取り組むべきかの議論を重ねてきました。

 そして、2018年10月29日、環境大臣向けに「減プラスチック社会提言書」を「減プラスチック社会を実現するNGOネットワーク」による共同提言として提出。

 「減プラスチック社会提言書」は、海洋プラスチック問題の解決に向け、2030年までに日本が「減プラスチック社会」転換することを図るものです。

 その中で、使い捨てプラスチックの大幅使用削減、サーマルリカバリー(熱回収)を含むプラスチックの燃焼処理への依存からの脱却、そして、それらを促進する法的規制の導入を骨子としています。使い捨てプラスチック削減については、2018年10月に環境省が素案として示した、「2030年までの使い捨て(ワンウェイ)プラスチックの使用削減25%」を大幅に上回る「最低でも50%以上の削減」を求めています。

 減プラスチック社会提言書

 WWFジャパンで引き続き、「減プラスチック社会を実現するNGOネットワーク」のメンバーをはじめ、国内外でこの問題に取り組む研究者、諸機関、団体、企業等と共に、問題の解決を目指した取り組みを推進していきます。

 また、サンゴ礁をはじめ、世界でも貴重な海洋生態系が残る南西諸島の島々などをフィールドに、地域の市民団体などと協力した、海岸に漂たゴミのクリーンアップなども行なってゆきます。

https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3776.html


令和・大阪初の世界遺産に!仁徳天皇陵を含む「百舌鳥・古市古墳群」とは?

2019年06月16日 | サイエンスジャーナル

 仁徳天皇陵、世界遺産登録へ

 ユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界文化遺産に、大阪府の仁徳天皇陵などを含む「百舌鳥・古市古墳群」が登録される見通しとなった。ユネスコの諮問機関であるイコモスが「(世界遺産一覧表への)記載が適当」と勧告したと、文化庁が5月14日発表した。

 6月30日からアゼルバイジャンで開かれる世界遺産委員会で正式に決まる見込みだ。決定すれば、日本の世界遺産では23件目。令和に入って初めて、かつ大阪府としては初の世界遺産登録となる。(時事通信社)

 「百舌鳥・古市古墳群」とは何?

 登録されれば、日本では23件目の世界遺産登録となる「百舌鳥・古市古墳群」は、どんな遺産なのだろうか?

「百舌鳥(もず)・古市(ふるいち)」というのは地名であり、そこにある古墳という意味である。構成遺産として含まれるのは45件49基の古墳で、エリアが2つに分かれている。

 大阪府堺市の百舌鳥エリアには、仁徳天皇陵古墳を含む23基があり、大阪府羽曳野市・藤井寺市の古市エリアには応神天皇陵を含む26基の古墳がある。文化庁の資料によれば、百舌鳥・古市古墳群が造られたのは、古墳時代の最盛期であった4世紀後半から5世紀後半。当時の政治・文化の中心地のひとつとして、大阪湾に接する平野の上に造られた。

 20メートル台の墳墓から長さ500メートル近くに達する前方後円墳まで、大きさと形状には多様性がある。幾何学的にデザインされた墳丘は、葬送儀礼の舞台であり、外観は埴輪(はにわ)などで飾り立てられた。「百舌鳥・古市古墳群」は、墳墓によって権力を象徴した日本列島の人々の歴史を語る上で顕著な物証であると考えられている。

 評価されたポイント・理由は?

 今回、なぜ「百舌鳥・古市古墳群」は世界遺産登録にふさわしいとの評価を受けたのだろうか。評価を受けた理由とポイントを整理する。文化庁が発表したイコモスの勧告の概要によると、百舌鳥・古市古墳群における45件49基の構成資産は、傑出した古墳時代の埋葬の伝統と社会政治的構造を証明しており、一連の資産は顕著な普遍的価値を証明していると考えると説明されている。

 日本ユネスコ協会連盟によれば、世界遺産として登録されるためには、次のような基準をクリアする必要がある。

・「世界遺産条約履行のための作業指針」に記載されている(i)〜(x)までの10の登録基準のうち、1つ以上に合致すること

・遺産が「顕著な普遍的価値」を持つこと

・「真実性」や「完全性」の条件を満たしていること

・締約国の国内法によって、適切な保護管理体制がとられていること

 これらを踏まえ今回の登録勧告は、以下の登録基準(iii)と(iv)が適用された。

(iii)現存するか消滅しているかにかかわらず、ある文化的伝統又は文明の存在を伝承する物証として無二の存在(少なくとも希有な存在)である。

(iv) 歴史上の重要な段階を物語る建築物、その集合体、科学技術の集合体、あるいは景観を代表する顕著な見本である。

 文化庁文化資源課の小林万里子課長は、ハフポスト日本版の取材に対し、「顕著な普遍的価値とともに、古墳群の歴史性や保存状況などの点でも真実性がしっかり認められている点も評価された」と語った。

 一方、今回世界遺産に登録される49基の古墳のうち、29基が歴代の天皇皇族の墓として宮内庁が管理し、一般の人の立ち入りは禁じられ、真正性を実証するための学術的な調査が制限されていることが専門家の間などで議論となっている。

 小林さんは「その点については、こちらからは明確にお答えはできない」と明言を避けた。

 イコモスが発表した概要では、真実性について、「古墳の歴史性や保存状況にもとづき、真実性は満たされていると考えるが、その程度には多様性が認められる」と記載されている。

 令和・大阪初の世界遺産

 今回遺産に登録される見込みである古墳群は、一部が住宅地の近くに位置している。

 世界遺産登録を機に住宅地が観光化されるなど、今回の登録が及ぼす影響や懸念について、小林さんはこのように語る。

「まず、必ずしも観光地が世界遺産になるわけではありません。地元である大阪府の堺市などが個別に環境の整備に向けた努力を進めていますが、それぞれの遺産と観光化のバランスを取ることは必要になってくると思います」

 今回の登録勧告を地元・大阪ではどのように受け止められたのか?

 大阪府と古墳群のある堺市・羽曳野市・藤井寺市が合同で設置する世界文化遺産推進室の担当者は、「イコモスからの勧告を受けて、長年訴えてきた主張が認められる評価に喜んでおります」と喜びを語り、地元の声についても「全体的に今回の登録を祝福する声が多い」とした。

 古墳群の周辺の住宅に住む人々への対応については、「地元の人々も、清掃やボランティア活動などに意欲的です。現状では反対の声は少ないと思います。登録実現に向けて、引き続き取り組んで行きたいと思います」と語った。

 仁徳天皇陵は誰のお墓?

 仁徳天皇陵は仁徳天皇のお墓という意味であるが、本当に仁徳天皇のものかどうか疑問視する学者もいる。

 宮内庁によると江戸時代の元禄年間(1688〜1704)に、朝廷が「仁徳天皇陵」と指定したというのが現在の名前の由来。しかし、本当に仁徳天皇の墓なのかをめぐっては、考古学者の間でも意見が分かれている。

 久世仁士さんの「百舌鳥古墳群をあるく」(創元社)を元に学会での論争をまとめると、こうだ。 日本書紀から推定すると仁徳天皇が亡くなったのが西暦399年。「仁徳天皇陵」の築造は5世紀中頃との説が有力で、50年以上のずれが生じてしまう。

 年代的には允恭(いんぎょう)天皇、もしくは安康天皇の墓ではないかと指摘する声がある。しかし、そもそも「仁徳天皇が実在しなかった」という説もあり、真相は藪の中だ。

 この結果、学校の歴史教科書には以前は「仁徳天皇陵」の呼称が使われていたが、現在では誰の墓かは明示せず「大山古墳」と記載するケースが増えている。 宮内庁陵墓課の担当者に、本当に仁徳天皇の墓なのかを聞いてみると...。

 「元禄年間に朝廷が仁徳天皇の墓と指定しました。宮内庁はこの見解を支持しています。考古学者の間で諸説出ていることは認識していますが、墓碑銘などの100%確実な"仁徳天皇陵ではない"という証拠が出てこない限りは、指定を変える予定はありません」

 宮内庁は江戸時代の認定を覆すつもりはないようだ。墳丘内の発掘調査で真相が明らかになることを期待する声は大きいが、今のところ墳丘内を発掘調査する予定はない。

 2018年10月15日から12月にかけて、宮内庁は、今月下旬から堺市などと共同で大山陵古墳(仁徳天皇陵)を発掘された。しかしこれは古墳保存のための基礎調査で、本格的な調査ではなかった。2018年11月22日、採掘調査中に埴輪や石敷きが発見されている。

 仁徳天皇の逸話「民が富んでこそ、国も富む」

 大阪府にある百舌鳥・古市(もず・ふるいち)古墳群がこのほど、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界文化遺産に登録される見通しとなった。正式には、7月ごろに開かれる国際会議で決定する。

 登録される古墳はあわせて49基。なかでも有名なのが、5世紀に造られた国内最大の前方後円墳である、大山古墳。エジプトにあるクフ王のピラミッドや、中国にある秦の始皇帝陵と並び、世界三大墳墓の一つとなっている。

 この古墳は、第16代天皇の仁徳天皇の陵墓として伝えられているため、仁徳天皇陵とも言われ、地元では「仁徳さん」と親しまれている。この仁徳天皇の『日本書紀』における逸話が、昨今の消費増税論議を考えるにあたって、非常に示唆深いのだ。

 仁徳天皇が即位してから4年のこと。帝が難波高津宮から国を眺めていると、どの民家からも、炊事の煙が立ち上っていないことに気づかれた。帝は「民が貧しく、炊くものがないのではないか」と悲しまれる。そして、民の苦しみをやわらげるため、徴税を止められたのだ。

 当然、宮中では貧しい生活を余儀無くされた。屋根から雨漏りがしても修理ができない。帝はお召し物がぼろぼろになっても、新調なさらなかった。それでも帝は、民の生活が元に戻るのを、じっと待たれたのだ。

 それから3年後、帝が再び国を眺めると、家々から炊事の煙が上がっていた。宮殿もお召し物もぼろぼろのなか、帝はこうおっしゃったのだ。

 「私はもう豊かになった」それを聞いた横の皇后は、不思議になってわけを尋ねた。すると帝はこう答えられたという。

 天が人君を立てるのは、人民の為である。だから人民が根本である。それで古の聖王は、一人でも人民に飢えや寒さに苦しむ者があれば、自分を責められた。人民が貧しいのは自分が貧しいのと同じである。人民が富んだならば自分が富んだことになる。人民が富んでいるのに、人君が貧しいということはないのである」(宇治谷孟著『日本書紀(上)全現代語訳』(講談社学術文庫))

 帝は、民が十分に豊かになるのを待ってから、ようやく徴税を再開されたのだった。そのとたん、民は大勢で材木を持ち寄り、あっという間に御所を再建したのだった。

 民が富んでこそ、政府も富む...この、「民が富むことが、為政者が富むこと」という考え方は、現代の日本財政を考えるにあたっても決して古びていない。

 日本の政府債務が1100兆円にまで膨れ上がったのは、「失われた30年」と呼ばれた長期不況に伴ってのことだった。その間、政府は「財政再建」と称して消費税率を上げたが、経済成長が鈍化し、かえって税収も減少。政府債務も増えてしまった。

 一方、仁徳天皇は、民が十分に富むのを待たれた。その結果、"政府の再建"は迅速に行われた。さらに帝は民に慕われ、世界に誇る巨大な陵墓が残ったのだ。ちなみに、仁徳天皇陵を人力で造るとなると、1日最大2000人が働いても、少なくとも15年8カ月以上かかるとの試算もある。

 一般的に、為政者が大きな墳墓を造るのは、力を誇るためと言われており、秦の始皇帝陵では、無数の民が強制的に徴用された。しかし、仁徳天皇の逸話を見れば、過酷な徴用が強いられたとは考えにくい。仁徳天皇陵が大きい理由は、民を慈しむ「徳」にあるだろう。

 そう考えると、不況で国民が苦しんでいる時に、国の財源を確保するために増税しようとしている今の政府は、逆判断をしている。(Liberty Web)

参考 HUFPOST: https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5cda0d8ae4b073aa0b327779


なんと10億V超!雷を計れる新型電圧計を発見、その正体はミュー粒子観測装置

2019年06月05日 | サイエンスジャーナル

 雷雲の電圧測定に成功

 雷の電圧はどのくらいだろうか?

 落雷時の電圧は200万~10億ボルト、電流は1千~20万、時に50万アンペアにも達する。しかし、この値は予想値でその根拠は判然としなかった。だいたい、あんなに巨大な電圧を測定する電圧計は存在しない。

 1752年、米フィラデルフィアの上空に分厚い雨雲が現れた。ベンジャミン・フランクリンはその下に立ち、凧を飛ばした。凧に落雷した電流が一瞬だけ電球を光らせた。それだけの簡単な実験で、雷が電気であることを証明した。

 この時、フランクリンが感電死しなかったのは、奇跡だといわれている。非常に危険な実験だった。それから250年以上が経ち、雷雲の驚くべき秘密がまたひとつ明らかになった。

 何と落雷の電圧を測定する画期的な電圧計を発見したのである。このたび学術誌「Physical Review Letters」に掲載された論文によると、その電圧計で雷雲全体の電圧を分析したところ、瞬間的に13億ボルトにも達していたという。その電力はおよそ2ギガワット。これはニューヨーク市全域に電力を30分間供給できるほどのエネルギーだ。

 巨大な雷雲の電気的性質をインドの科学チームが正確な電圧計で分析できたのは、宇宙から降り注ぐ荷電粒子「ミュー粒子」のおかげだった。雷雲のエネルギーは、過去に実施されたどの値より10倍も高かった。この研究結果により、宇宙と地球上で起こっていることの関係性がわかっただけでなく、高エネルギー物理学における25年来の謎も解決されるかもしれない。

 素粒子のシャワーの異変

 2001年の運用開始以来、インド南部のウダガマンダラムにある宇宙シャワー現象観測施設「GRAPES-3(Gamma Ray Astronomy PeV EnergieS phase-3)」で、物理学者たちはミュー粒子を観測している。ミュー粒子は、宇宙線が地球の上層大気に衝突すると発生し、地上に降り注ぐ素粒子だ。

 どういうわけか、高感度のGRAPES-3はしばしば、4月から6月の間と、9月から11月の間にミュー粒子のシャワーがわずかに弱くなることを示す。それがちょうど一年で最も雨の多い時期と重なっていた。

 面白いなとは思っていましたが、それほど真剣には考えていませんでした」と、グプタ氏は言う。「私たちの研究対象は高エネルギー宇宙線と惑星間空間で、雷雲にはあまり関心がなかったものですから」

 ミュー粒子は負の電荷を持ち、その動きは電場によって歪められる。グプタ氏はこの性質を利用して、雷雲にどれだけのエネルギーが含まれているかを計算できないかと考えた。使用したのは、GRAPES-3というミュー粒子観測装置だ。

 ミュー粒子観測装置が雷雲の電圧計

 ノーベル物理学賞を受賞したチャールズ・トムソン・リーズ・ウィルソンが1929年、ある雷雲の電場を計測したところ、1インチ(約2.5センチ)の間隔で1万2700ボルトという驚きの数値が出た。ということは、数キロも先まで広がる雷雲は、全体で乾電池10億個分に相当する電位差を秘めている可能性がある。

 電圧を測るには通常、2本の端子を対象物の両端にそれぞれ接続する必要がある。だが、雲のように巨大でつかみどころのないものを相手に、どうしたらそんなことができるのか。これまで誰も思いついた者はいない。雷雲の中に飛行機や風船を飛ばす実験も行われたが、その結果これまでに記録されたのは、最高でも1億3000万ボルトだった。

 今回の研究の共著者バラクリシュナン・ハリハラン氏は、GRAPES-3が検出するミュー粒子の数が変化するには、電場がどれほど強力でなければならないかを測るモデルを考案した。これがあれば、観測されたミュー粒子から雲の電場を逆に推測できる。

 次に、GRAPES-3の過去3年間のデータを使って、研究チームは184の雷雲を分析した。すると、ミュー粒子の数値から、2014年12月1日に発生した雷雲の電圧は瞬間的に13億ボルトに達していたことがはじめて明らかになった。

 ミュー粒子を使ったこの測定法なら、雲の広い範囲を測定できるので、飛行機や風船による実験よりも正確だ。ということは、以前のデータは実際よりも数値が低く、その多くは数十億ボルトのエネルギーを含んでいた可能性がある。さらに、大気物理学者を長いこと悩ませていた謎も、これで解けるかもしれない。

 雷雲は巨大な荷電粒子加速器

 1994年、遠い銀河で発生する強力なガンマ線バーストの観測用に作られたNASAのコンプトンガンマ線観測衛星が、地球の大気から放射される高エネルギーを検出した。宇宙でも最大級のエネルギーを発する現象に似たことがなぜ地球で起こっていたのかについて、誰も説明をつけられなかった。

 雷が関係しているとは考えられていたが、過去の実験で観測された雷雲のエネルギーは、ガンマ線バーストに匹敵するほどの強さはでなかった。

 それが今、GRAPES-3による10億ボルト級の測定結果により、地球上の雷雲にもこの謎の現象を起こせる可能性があることが初めて示唆された。グプタ氏は、この関連性をさらに裏付けるためにガンマ線検出器を導入したいと考えている。また、落雷によって雷雲のなかの電圧がどれくらい早く消散するのかも調べたいという。

「放電についても調べたいです。これが最も大きな災害を引き起こしますから」

 だが今回の研究結果だけでも、既に他の研究者から高い評価を受けている。

「これまで誰も考えつかなかった方法です」。

 ルイジアナ州立大学バトンルージュ校で高エネルギー宇宙線とガンマ線を研究するマイケル・チェリー氏は言う。同氏は、この研究には参加していない。

 超強力な宇宙線が比較的ありふれた雷などの影響を受けるといわれても、以前ならほとんどの研究者が懐疑の目を向けていただろうと、チェリー氏は付け加えた。しかし雷が、地球上の物理学者の手が届く最も強力な天然の粒子加速器のひとつであることを、この研究結果は示唆している。

 こうした高エネルギーを研究できる対象は、はるか遠方にあるブラックホールや超新星に限りません。空を見上げればすぐそこにある雷でも研究できるのです」

参考 National Geographic news: https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/042500253/

 ミュー粒子とは何か?

 ミュー粒子 (muon, μ) とは、素粒子標準模型における第二世代の荷電レプトンである。英語名でミューオン(時にはミュオン)と表記することもある。

 ミューオンは、イオンビーム(粒子線)として世界に数カ所ある中間子工場(Meson Factory)と呼ばれる陽子加速器施設で利用に供されており、素粒子・原子核物理学からミュオンスピン回転(μSR)による物性物理学、物理化学の研究に至るまで幅広く利用されている。

 また、ミューオンを用いたミューオン触媒核融合、μ-捕獲X線による非破壊元素分析など、学際的な応用研究も行われている。ミューオンを使った放射線治療も研究されている。

 

 ミュー粒子は、電気素量に等しい負の電荷と1/2のスピンを持つ。ミュー粒子の静止質量は105.6 MeV/C2(電子の約206.7倍の重さ)、平均寿命は2.2×10-6秒。ミュー粒子 (μ-) は電子、ミューニュートリノおよび反電子ニュートリノに、その反粒子である反ミュー粒子 (μ+) は陽電子、反ミューニュートリノおよび電子ニュートリノに崩壊する。

 この崩壊過程は不安定核のベータ崩壊と同じく弱い相互作用によるものであり、崩壊で放出される電子/陽電子はパリティの非保存によりもとのミュー粒子が持っていたスピンの向きに対して空間的に非対称な分布を持って放出される。同じレプトンとしてはこれよりさらに重いタウ粒子(タウオン、τ)があり、電子と合わせてレプトンの三世代構造として知られている。

 ミュー粒子は、1936年にカール・アンダーソンとセス・ネッダーマイヤーによって宇宙線の中に観測された。粒子が霧箱の中で描く曲飛跡から、電子と同じ電荷だが電子より重い新粒子であると推定された。

 1937年には、日本の理化学研究所の仁科芳雄のグループ(仁科芳雄、竹内柾、一宮虎雄)およびストリート(J.C. Street)とスティヴンソン(E.C. Stevenson)らが独立に、ウィルソン霧箱実験によって新粒子の飛跡を捉えた 。論文投稿の順番は、ネッダーマイヤーとアンダーソンが1937年3月30日、理研組が8月28日、そしてストリートとスティヴンソンが10月6日である。(理研組の論文の投稿は一度拒否され12月に掲載されたので、発表時期は三番目である。)翌年、仁科らは飛跡の曲率から、ミュー粒子の質量を電子の(180±20)倍という精度で決定した。これは現在知られているミュー粒子の質量と一致している。

 発見当初はその質量が湯川秀樹によって提唱された核力を媒介する粒子である中間子と非常に近かったため、ミュー中間子と呼ばれていた。しかし、ミュー粒子は核力を媒介しないことが分かり、中間子の性質を持たないことが判明した。

 1942年、坂田昌一、谷川安孝および井上健は、中間子とミュー粒子は別種であり、中間子はミュー粒子より重く、中間子が自然崩壊してミュー粒子に変化するという二中間子説を提唱した。1947年、セシル・パウエルらによりパイ中間子が発見されたことで湯川の中間子説および二中間子説が正しいことが証明され(実際には、反パイ中間子がミュー粒子に崩壊する)、ミュー粒子は電子と類似した性質を持つレプトンの一種として分類された。この時に、核力による強い相互作用をしない素粒子としてレプトンという名称と概念が導入された。

 ミュオグラフィ

 近年では、東京大学地震研究所により、宇宙線由来のミューオンを用いて火山の内部構造を画像化するミュオグラフィの研究が進められている。同様の手法で福島第一原子力発電所の炉心の現状を調査するためにも使用された。


硬骨魚類なのに軟骨化!水深7千mの超深海魚、驚くべき体の秘密を解明

2019年06月05日 | サイエンスジャーナル

 世界一深い海で棲息している魚は何だろう?

 それは、マリアナ海溝の水深8,178mで撮影に成功したシンカイクサウオ(Pseudoliparis swirei)かもしれない。2017年8月、海洋研究開発機構(JAMSTEC)は、日本放送協会(NHK)と共同で、フルデプスミニランダーに搭載した4Kカメラにより撮影した。

 海溝やさらに深い海淵における生物やその生態は古くから興味の対象となっており、海溝域における魚類の存在は、1960年にチャレンジャー海淵の海底に潜航したジャック・ピカールとドン・ウォルシュらが「ヒラメのように平たい形をした魚を見た」と証言したが、これまで記録された魚類の種類や生息深度などから、彼らが見たものは魚ではなく、別の生物でないかという論文が発表された。

 ところが、2014年、マリアナ海溝の水深6,198~8,145mの海底において2種類のシンカイクサウオが撮影され、動画サイトと論文上に発表されたほか、2017年4月には中国科学院がマリアナ海溝の水深8,152mの海底で魚類の撮影に成功したと発表している。

続きはこちら → http://sciencejournal.livedoor.biz/ 

参考 National Geographic news: https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/041600232/

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