報道写真家から

我々が信じてきた世界の姿は、本当の世界の実像なのか

メディアに騙されないための指針

2005年09月22日 15時09分10秒 | ■メディア・リテラシー
これは、コメントへのお返事として書いたものですが、コメント欄だけではもったいない気がするので、若干加筆して再掲載いたします。

<メディアに騙されないための指針>

メディアのウソを見抜くというのは、簡単なことではない。僕自身が騙され続けてきた。あとになって「そうだったのか!」と悔しい思いをしたことはいくらでもある。

たとえば91年の第一次湾岸戦争時の「ナイラ証言」と「油まみれの水鳥」などは典型的な例だ。アメリカ政府もメディアも、イラク攻撃の世論作りのために露骨な捏造と情報操作をおこなった。世界が、みごとに嵌められてしまった。

「ナイラ証言」というのは、完璧な捏造であることがはっきりしている。ナイラというクウェートの少女が、米公聴会で「イラクの兵士がクウェートの産院の乳飲み子を保育器からだし、次々と床に叩きつけて殺したのを見た」と涙ながらに証言した。しかし、後にこの少女は、駐米クウェート大使の娘で、ずっとアメリカにいたことが分かった。つまり、証言は真っ赤なウソだった。この証言は、アメリカの広告代理店がシナリオを作り演出したものだった。リハーサルもきちんとしていた。もちろん、スポンサーはアメリカ政府以外にない。ただし、捏造がニューヨークタイムズで暴かれたのは、1年3ヶ月後のことだ。

この「ナイラ証言」が出るまでは、アメリカの世論は反戦が多数を占めていた。しかし、この証言で世論は一気に会戦へと転じた。周到に準備された、たったひとつの捏造が、世論を完璧に逆転させてしまった。しかも、素人の少女のウソ泣きによって。

もうひとつの「油まみれの水鳥」の映像でも、世界はまんまと騙された。フセイン大統領がわざと原油を海に流出させたという証拠はなかった。アメリカ軍の爆撃による可能性も十分考えられた。しかし、米政府はサダム・フセインの暴挙だと非難した。「油まみれの水鳥」の映像はフセインの「環境テロ」として世界を駆け巡った。「極悪フセイン」のイメージが、世界の何億という人々の脳裏に焼きついた。この原油流出の原因は、今日では米軍の爆撃であるとされている。

この二つの事例は、情報操作の典型例として、かなり広範に流布してはいるのだが、人は忘れるのが早い。そして、いまだに世界はアメリカの情報操作にまんまと振り回されている。

2003年、パウエル国務長官(当時)は、イラクの「大量破壊兵器」の確固たる証拠を持って、世界の首脳に提示して回った。日本にも来て小泉首相と会談した。小泉首相は「(大量破壊兵器の)存在を確信した」と発言した。しかし2004年に、パウエル長官は大量破壊兵器について「いかなる備蓄も見つかっておらず、この先も発見されることはないだろう」と証言した。小泉首相は、いかなる証拠によって、大量破壊兵器の存在を確信したのか。

あるいは、ジェシカ・リンチ上等兵の劇的な救出作戦も、安物の映画を模造した稚拙な演出だった。病院には、武装した人間は一人もいなかったのに、戦闘の末、救出したと宣伝された。暗視カメラによる迫真の映像だったが、リンチ上等兵の証言によってすぐにウソが露見した。

こうした過去の一連のウソから重要な教訓が得られる。つまり、
「多数のメディアが、繰り返し強調する事例はまず疑え」
ということだ。

ソビエト連邦=共産主義=世界の脅威
サダム・フセイン=大量破壊兵器=世界の脅威
タリバーン=原理主義=世界の脅威
「アル・カイーダ」=テロリスト=911、疸阻菌、ロンドン爆破=世界の脅威
・・・etc.

メディアが総出で、あたかも「既成事実」であるかのように連呼するとき、まず疑いの眼で見ることが大切だ。しかし、ことの真相をすぐに見抜くことはたいへん難しい。情報を正確に評価するのは簡単なことではない。しかし、疑いの眼で見ている限り、情報操作に振り回されることはない。メディアが大騒ぎしているときは、クールになろう。

また「感性や直感:こころの眼」もとても大切だ。「なんか怪しいな」「腑に落ちないな」という感覚は往々にして当っているものだ。ただ、そのあと理性がそれを打ち消してしまうことが多い。

安斎育郎氏(立命館大学教授)は、
『(人間は)部分の情報から全体をイメージできる』そこから思いこみが生まれだまされてしまう、と述べておられる。『(人間は)理性的だからこそだまされやすい』と。

過去の情報操作の具体的事例を知り、また、人間とはいかに騙されやすいものであるかを自覚しておくことが大切だ。

ソビエト連邦も、フセインも、タリバーンも世界の脅威ではなかった。
意図的に強調されてきたにすぎない。
「アル・カイーダ」は実際に存在するのかどうかさえ怪しい。
本当の世界の脅威とは、常套的に情報操作し、平気で他国を爆撃するアメリカ合州国自身ではないのか。


「油まみれの水鳥」について、日本のテレビ番組がそのウソを解説している。
http://www.jca.apc.org/~altmedka/TV-houdousousa.html