報道写真家から

我々が信じてきた世界の姿は、本当の世界の実像なのか

再びメディアについて

2005年09月20日 23時28分25秒 | ■メディア・リテラシー
メディアというのは、あらゆるものから独立した不偏不党、公正中立な存在などではない。実も蓋もない言い方をすれば、しょせん民間企業なのだ。国家から独立した民間企業など存在しない。

911事件のあとアメリカのメディアは程度の差はあっても、ほとんどがブッシュ政権のスポークスマンと化した。当時の報道を振り返ってCNNのあるリポーターは「自国が攻撃されているときに、客観的な報道などできるか」と言い切った。FOXは国粋報道に徹して圧倒的な視聴率を稼いだ。これが、メディアの本質だ。普段は、不偏不党、公正中立などと権威を振りかざしていても、いざとなれば積極的に権力の広報機関となってしまう。

かつて、ニューヨークに少し滞在していたときに、ケネディ大統領暗殺30周年記念があった。そのときのNewsweek誌の表紙写真は、リー・ハーベイ・オズワルドだった。腰に拳銃、手にライフルという例の写真である。タイトルは忘れたが、「オズワルドが犯人」というようなニュアンスだった。いまどき、そんなことを真に受けるアメリカ人がいるのかと思ったが、もちろんオズワルドが犯人ではないという証拠もない。オズワルドの写真に、Newsweekという雑誌の本質が表れているなと思った。つまり、権力には決して逆らわないということだ。

今年5月、Newsweekの記事中に「グアンタナモ収容所では、コーランをトイレに流している」という記載があったため、アフガニスタンで暴動が発生するという事件があった。Newsweek誌は”匿名情報源を記事にした”として、記載内容は事実ではないと謝罪をした。これもNewsweekの姿勢を端的に物語っている。事実を再確認するよりも、問題の一番手っ取り早い解決方法を選んだ。

CNNやNewsweekなどアメリカを代表するメディアに比べれば、英国のBBCは遥かに独立心が強い。2003年5月、BBCのラジオ4のアンドリュー・ギリガン記者は、「イラクは45分間で大量破壊兵器を配備できる」という政府報告書は捏造であると報じた。この報道に激怒した英国政府は、その情報源を明らかにするようBBCに迫った。しかし、BBCはこれを拒否する。英国政府とBBCの数ヶ月間の攻防の末、政府自らが情報源と目される人物、ケリー博士の名前をメディアにリークした。その数日後ケリー博士は自殺する。結局、ギリガン記者とBBC幹部が辞職してこの件は落着した。しかし、イラクで「大量破壊兵器」そのものが存在しなかったことは、すでに周知の事実だ。

BBCは言わずと知れた英国国営放送だが、国営放送でありながら政府と真っ向から対峙して一歩も引かなかった。日本のメディアには望むべくもないが、しかし、少なくともそうしたメディアが実際に存在することを忘れてはならないと思う。