報道写真家から

我々が信じてきた世界の姿は、本当の世界の実像なのか

人質解放によせて

2005年06月11日 21時15分13秒 | ●アフガニスタン05
 朝、バンコク・ポストのページをめくっていると、5ページに
"Freed Italian heads home"
 という見出しが飛び込んできた。

 カブールで誘拐されたイタリア人NGOワーカーが、昨日解放され、イタリアに戻ったという記事だった。テレビのない生活なので今日になって知った。

 政府関係者は犯行グループと接触し、イスラム聖職者も人質解放を訴えていた。三週間を経てようやく無事開放された。政府は、身代金は払っておらず、警察はもっか犯行グループを捜索中とあった。

 報道内容が事実だとだとすると、犯行グループは大胆な割にはマヌケだということになる。そんな奴らだとは、僕にはとても思えない。彼らは、残虐で欲深く臆病だ。目的も達成できず(逮捕されたリーダーの釈放)、金にもならず、おまけに今後も追跡される、そんな条件で人質を解放するだろうか。彼らは、十分な金を得、追跡の危険もないからこそ、開放したのだ。
 まあ、そんなことはどうでもいい。
 とにかく、無事開放されたのだ。

 今回の誘拐事件の重要な点は、犯行がタリバーンでもテログループでもなく、単なる犯罪組織によって易々と行われたという点だ。しかも、同じグループにより、以前、誘拐未遂事件も発生していた。犯行グループは次のターゲットを探しているということは広く知られていた。それにもかかわらず、犯罪組織を野放しにし、今回の誘拐事件を発生させてしまった。

 カブールの治安管理とは、その程度のものなのだ。
 テロにばかり気を取られている間に、犯罪組織やその予備軍はカブールに確実に根を張ったのだ。テロリストは少ないが、犯罪者やその予備軍はうじゃうじゃいる。
 わがもの顔で、タダ食いタダ飲みをするグループ。バザールの飲食店や商店、露店に「用心棒代」を請求する酷薄な目つきの男。軍人でも警官でもないのにカラシニコフを下げ、フレンチフライ(フリーダムフライ?)をたかる男。

 おそらく大小様々なグループが存在するのだろう。そして僕が目撃した限りでは、こうしたグループを形成しているのは、特定の地方出身者だ。つまり「官軍」の支配地域出身者だ。しかも「官軍中の官軍」と言っていい。だから、市民は何をされても黙っているしかない。

 たとえは相応しくないが、いわば「新撰組」みたいなものだ。
 知らない人には人気があるが、実際は酷薄で残虐な集団なのだ。
 新撰組の主要なメンバーは同郷出身者で固められた。彼らは官軍をいいことに京都で乱暴狼藉、不法の限りを尽くした。京都人からは「壬生浪(みぶろう)」と呼ばれ、恐れられ、軽蔑された。壬生とは新撰組の屯所があった地域名だ。新撰組内部では私刑も頻繁に行われた。新撰組は、決してロマンチックな集団ではない。

「官軍中の官軍」をダシに、カブールで狼藉を働く連中も、海外でのイメージはたいへんいい。なんといってもソビエト軍も歯が立たず、そしてタリバーン打倒の「ヒーロー」なのだから。
 京都人が新撰組を陰で「壬生浪」と吐き捨てたように、カブール市民は、狼藉を働く集団の背中に向かって、「パンシーリ」と聞こえないように吐き捨てる。
 ただ、その地域出身者がすべて狼藉を働くと言っているのではない。一部の連中が「官軍」をダシに、好き勝手を働いているのだ。

 一部の特権者の横暴がまかり通る風潮は、同様の無法者を排出するものだ。カブールはどんどんこうした無法者に侵食されている。
 米軍やISAFはカブールの治安維持に何の役割も果たしていない。カブール警察も市民を犯罪から守っているわけではない。「官軍中の官軍」はアフガン軍、警察の中枢でも大きな権力を持っている。同郷の犯罪組織は、警察内にも大きな影響力を持っているという指摘もある。このままではカブールは、犯罪組織に乗っとられることにもなりかねない。

 人質を無事取り戻したことは、たいへん評価する。
 しかし、犯罪組織に対して何の有効な手立ても取ってこなかった治安体制こそが問題の根底にある。そしてカブール市民は、こうした特権的無法者に対し、いまのところ何の自衛手段も持たない。

 街は整備され、便利になり、快適になる。今は、様々な期待感によって、市民の不満はあまり表にでてこない。しかし、特権的無法者の横暴がどんどんエスカレートしていけば、市民はかならず自衛し始める。彼らは、すでに自衛のための武器は所持しているのだ。拳銃程度なら国民の七割が持っているという。あるいは一家に一丁はあるという人もいる。市民の怒りと我慢が限界に達したとき・・・

 市民の安寧をおろそかにする政府は、かならず大きな混乱をもたらす。


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2 コメント

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Unknown (タリバンファン「)
2005-06-17 23:35:32
>カブール市民は、狼藉を働く集団の

>背中に向かって、「パンシーリ」と

>聞こえないように吐き捨てる。



こういう狼藉ものを取り締まり

まず、治安を良くし、市民に安全を与えたんだと思う。

賄賂は決して受け取らなかったということも

りっぱだし

統制地域の芥子栽培の根絶を果たしたのも

世界は認めてやるべきだったと思う。



今日、このようなアフガニスタンの現実を

レポートし、ネット配信された事を

とても感謝します。

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メディアの罪 (中司)
2005-06-20 00:09:44
タリバンファンさんへ。

コメントありがとうございます。

タリバーンは歴史上「悪魔」以外の表記をゆるされません。

残念ながら、歴史を塗り替えることもできません。



 タリバーンも過ちを犯しました。その最大の過ちとは、おそらく、時間を止めようとしたことです。あるいは彼らは、時間を遡ろうとしたのかもしれません。彼らの理想とする原初イスラム社会へ。しかし、現代人を過去に連れて行くことはできません。それが彼らの最大の過ちだったと思っています。

 タリバーンはアフガニスタンに最高の治安をもたらしましたが、人々は過去へ戻るのを嫌がったのです。

 しかし、それをもって他国に爆撃されるいわれはないはずです。

 

 しかし、タリバーンの実像は外界には未知であったため、アメリカはいくらでも、タリバーンの虚像を作りあげることができました。そして、世界のメディアは実像を検証することもなく、その虚像を垂れ流し、世界の人々をコントロールしたと言えます。結果、その虚像がそのまま歴史となってしまいました。



 いま、国際社会は、タリバーンが巻き戻そうとしたアフガニスタンの時間を、一気に巻き進めようとしているかのようです。
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