倉野立人のブログです。

日々の思いを、訥々と。

惨状

2019-10-31 | 日記

10/30 Wed.

 

去る日、台風19号からの復旧ボランティアへの途上に 篠ノ井エリアの堤外圃場(果樹園)の被害状況の原調(現地調査)を乞われ、ボラ作業終了後に直行しました。

 

合流したYさんは「クラちゃん、長沼から来たんだってな。ご苦労サン。あっちは堤防が決壊して大変なことになっているようで、同じ農家のモン(者)としてお察し申すところだ。

今回の台風はおれら(農家)に対してもエライことをしてってくれた。先ずは現場を見てくんねーか。」と、普段の温和な表情はどこに、非常に厳しい表情で話されます。

さっそく、現場へ。

そこは、千曲川と堤防との間に広がる、イヤ 広がっていた、桃畑です。

季節によっては「桃源郷」と称されるように 桃色の絨毯が敷き詰められる、この地域ならではの桃畑です (下の写真は参考)

 

その桃源郷に、台風19号は いわば土足で踏み込み、耕作者に何の断りもなく 大量の泥流を流し込んでいったのでした。

 

 

溢れ出た河川水は、たちまちのうちに堤防の際(きわ)まで達したのですが、その間、堤外農地に広がる桃の木を巻き込み、泥水といわず流木といわず異物といわず、あらゆる流物(りゅうぶつ)を置き土産にして去っていったのでした。

 

本来 桃の木は、このように佇(たたず)んでいます(下の写真は参考)永年に亘る耕作者の工夫により、V字形を維持しています。

 

その佇まいに、泥流は無情に襲いかかりました。

 

 

規則正しく植えられた桃の木たちも、今や 累々と横たわる屍(しかばね)です。

 

Yさんは、溜め息交じりに説明してくれます。

「いいかクラちゃん、こっちから見えるのは「根」だ。オレが立っている方が上流。佐久(地域)から流れてきた ものすごい量の水は、勢いをつけてここ(桃畑)まで押し寄せてきた。ここの地盤は砂地だから、場所によっては弱いところもある。川の水は、そこ(弱い地盤)を突いて、桃の木をひっくり返して行っちまった。まったくひでもんだ。」

 

猛烈な水の勢いでひっくり返され、いわば仰向けにされた桃の木の根には、雑木やらゴミやらが大量に引っかかっています。かわいそうでなりません。

 

Yさんは、丹精込めて育ててきた桃の木たちを 一夜にして失うこととなり「腕をもがれた思いだ。」と絞り出しておられました。

 

 

大きな被害に遭ったのは、桃の木だけではありません。果樹農園に通ずる「農道」が 通行不全に陥っていました。

かつて農道だった経路には、多くの流泥(りゅうでい)が堆積し、4WDでもスタックしてしまいそうなほどです。

 

行く先の農道には大きな凹みができており、クルマのでの進入を断念せざるを得ませんでした。

 

土砂や流木の堆積物の切れ間に、ようやく農道の跡と覚しきアスファルト部分が見えました。が、その先でYさんは「ほれ、見てみろ。」と一言。

 

何と、その先は大きくえぐり取られて道すらも無くなっていたのでした。

 

これは おそらく、満水時に川床が激しく いわばスクリューのように螺旋状(らせんじょう)に暴れ、川底の砂をもって行ってしまったと思われます。流れ下る水の猛威を実感させられます。

で、これ(写真上部の右から左)に沿って やはり農道があったのですが、それも水流の勢いによって落盤し、跡にはアスファルトの〝かけら〟が、まるで板チョコを割って食べ残したみたいに転がっていました。

 

これらの農道は、果樹園をぐるりと囲むように設置されており、一筆描きのように 果樹園を一巡できるようになっていたそうです。

その経路も無残に断たれてしまっていました。

 

今や、流木などが堆積しているところが「かつての農地」砂地が縦状に延びているのが「かつての農道」と識別する他ない状況になってしまっています。

 

クルマの行方には延々と砂地が続き「こないだまで普通に抜けられてたのに、危なくって行けやしね。」とYさんは顔をしかめておられました。

 

農道には、さらなるやっかい者が横たわっていました。

 

上流から流れ着いた、おそらくニセアカシアの巨木です。

こんな大物は、チェーンソーで切り刻むしかないのですが、幹自体に砂やら石やらが付着しており、刃を当てると それ(チェ-ンソーの刃)が じきにダメになってしまうのです。マレット場などでは日よけになってくれる重宝ものですが、こう(流倒木に)なってしまうと やっかい者の最たる物になり下がってしまうのでした。

 

Yさん曰く「今回の台風(19号)は、千曲川沿いの家屋敷はもとより、河川敷の堤外農地に とんでもない被害を及ぼしてくれた。それで、テレビ(報道)なんかは、堤防の決壊した赤沼(エリア)の果樹被害を盛んに伝えているけど、あっち(赤沼)の多くは、下流域で 流れがゆるくなったところでの冠水被害なので、(原形が)残っている樹が多くあるだろう。あの状態なら、一定期間 我慢(養生)すれば、また(果樹)生産を再開できる。」

 

「ところが、だ。こっち(篠ノ井エリア)は このザマだ。上流域で流れが強かった分、根こそぎやら折枝やらの壊滅状態。こいつら(桃の木)は瀕死の状態になっちまった。」

「もしかしたら、果樹被害は こっちの方が深刻かもしれない。」

 

 

・・・・・・。

いずれにしても、このまま捨て置くワケにはゆきません。

Yさんによると、これからは一刻を争う事態だとのことです。

壊滅的な打撃を受けた果樹園だが、根を張って現存している樹については、根の部分の 河川特有の細かい砂(花泥)を除いてやれば、生き残る可能性がある。それには早期に作業に着手しなければ、根が〝酸欠状態〟に陥ってしまい、助かる樹も助からなくなってしまうとのことです。

 

それには 取りも直さず、農道の仮復旧をしなければなりません。

本来 農道などの道路(復旧)工事は、市が入札などを経て業者を指名し、それら(業者)が工事に当たるものですが、言われたように 一刻を争う状況、また被害面積の大きさを考えると、そんな悠長なことは言ってはおれません。

訊けば 当地区には、Yさんを中心に ユンボなどの作業機械を扱える方が複数おられるとのことですので、かかる「民間力」を動員していただき 農道復旧を行なうことが合理的と思われることから、この件について 行政側との調整役を担わせていただくことといたしました。

 

 

台風19号の被害は、多岐・多方面に亘っていることを思い知らされたところです。

 

 

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