J2は約1/4となる第10節を終了。今季もまたドラマチックなリーグとなっており、序盤から吹き荒れる琉球旋風、わずか4節にしてエスナイデル監督解任、太陽王はさすがの強さ…とか思っていたけれども、実際に首位に立っているのは水戸、なのである。
■組織力の高さを見せる水戸、山形
首位・水戸は、決して“個”のタレントが凄い訳ではない。もちろん前寛之、黒川淳史など目立つ選手はいるが(というか粒揃い)、あくまでも組織の中の一員として優れた仕事をしているという印象。チームを支えているのはまぎれもなく高い組織力で、あまり個に依存しないチームといえる。同じタイプのチームが山形。三鬼海のプレスキックなど個のストロングポイントも持ち合わせるが、それ以上にチーム全体としての意志統一や規律が整っている。この手のチームがゴリゴリの戦力を擁する「大型予算クラブ」を抑えてしまえるあたりがJ2の面白さ。振り返れば今年J1で躍進する大分も[組織>個]のチームだったが、水戸や山形は大分よりも守備面でのバランスがいい。特に水戸はここまで失点数がわずか4。守備のエラー自体も少ないが、たとえ初手でミスっても次の手でカバーでかるようなリスクヘッジが組み込まれており、試合をこなすごとに自信を持ってプレーしているのがうかがえる。
■上位チームにおける被シュート数の少なさ
10節時点の被シュート数の一覧を見てみよう(上表)。シュートを打たれる機会が少ないチームが軒並み上位にいる(例外は町田で、シュート数が少なすぎる)。今季のJ2は「守る時はしっかり引いて守る」ことを前提するチームが目立ち、各チームでやり方は違うものの、結局は相手にいい形でシュートを打たせないことが結果に繋がっているといえる。前述した水戸と山形、それに金沢は去年から同じ監督で継続して守備組織を積み上げているチーム。一方、大宮と甲府は新監督を迎え、組織自体を作り変えながらも、「シュートを比較的打たれないチーム」として好位置に付けている。
■組織+個が融合する大宮・甲府
現在5連勝中の大宮。2節の琉球戦こそ3-4という打ち合いになったが、それ以外は失点1or無失点で、守備に安定感がある。元々堅守のチーム作りに定評がある高木監督、しっかりブロックを構築して守りつつ、攻撃面では高い個人能力を持つファンマや大前元紀を活かすという必勝ルートが整いつつある感じ。勝ち方は僅差が多く、爆発力不足にも映るかもしれないが、きちんと守りきるルートを重視してるあたり、J2マスターの戦い方だ。甲府はしっかり引いて守備に人数をかけつつ、攻撃面はウタカ&ドゥドゥの破壊力に依存するスタイル。両外国人のマークがキツくなった時にも佐藤洸一や曽根田穣が現れ、今のところは上手くいっている。この手の堅守+外国人の破壊力型チームで思い出すのが、井原監督時代の福岡。守備に人数をかけてウェリントンで仕留めていったあの形は、J2を勝ち抜くにはとても合理的だった。その井原氏がヘッドコーチを務めるのが、柏なのだが…。
■文句ない戦力を誇る柏、だが
柏は今季のJ2で飛び抜けたシュート数(151/2位山口135、3位水戸113)を誇る。しかし得点数9は全体の14位。シュート数が半分以下の京都(77)と同得点というのはいかにも効率が悪い。タイプとしては甲府同様にしっかり守って縦に速くボールを動かして前線のタレントを活かす…のだが、少々ゴリ押しが多いように映る。個と個の連携でちょっとJ2では止められないような攻撃を繰り出すことはあるものの、発動率は低め。個人の調子に左右されそうなスタイルなので、夏場を迎えるとさらに「渋く」なる可能性もある。守備面はやはりJ2屈指の堅さで、この点も井原福岡とキャラの近いチームになってきている。問題はGK中村航輔が代表で抜ける期間がある場合。柏が実力も戦力も抜群なのは間違いないが、他クラブにしてみれば、抑えるべきポイントもわかりやすいという“糸口”も見えているはずだ。
■琉球は湘南系ハードワーク走力スタイル
激しく球際に寄せ、奪ったら守→攻の切り換えを速くして敵陣に殺到。ボールをロストすれば攻→守を切り換えて帰陣する…といういわゆる湘南型ハードワークスタイルで序盤の主役になった琉球。鈴木孝司という10節8ゴールの得点王を擁しているものの、彼の個人能力というよりも人がたくさん動いてチャンスシーンをたくさんインプットし、ゴールへとアウトプットしているのが鈴木、という感じ。途中横浜Mに中川風希が電撃移籍したものの、誰が出ても同じ絵を描けるのは大したもの。加えて2017年9月以来のホーム無敗記録を更新中。ただ、4月に入ってから●△△●と調子は下降気味。ハードワーク系では愛媛も人がたくさん動いてナンボのチームだが、鈴木孝司ほどのアウトプッターがいないせいか、結果には結びついていない。
■極端なポゼッションを志向する異端チーム
10節まで好調気配のチームを志向スタイル別に挙げてきたが、序盤低迷していた長崎や福岡あたりもここ数試合でようやく復調の兆しを見せるなど、ここからまだまだ浮き沈みはあるはず。最後に取り上げたいのがボール支配率の高さで異彩を放つ京都(下図/Football LABより)。
京都はとにかくボールを掌握するもの、安易にボールをロストするようなプレーを選択しない。なのでクロスやロングボールが極端に少なく、敵陣に入ってもボールを回して相手守備陣形のズレや崩れを狙う(そのため隙を見せない相手だと崩せない)。4バック時にはサイドバックが中央に入ってゲームメイクする“偽サイドバック”など、ペップ・グアルディオラっぽい戦術も駆使。まだ完成度は高くない。しっかりと基礎を構築し、敵陣への仕掛けが洗練されていけば決定機も増やせるだろう。中田一三監督の存在は、ここまでのJ2を総括する上で欠かせないサプライズの1つといえる。ポゼッション志向のチームでは、岡山も今年からボールを繋ぐ意識を強めている。が、こちらはそこまで極端ではなく、状況に応じて長いパスも使う。特に前線で多機能レシーバーとなるイヨンジェの使い方が最適解に近づいている気配があり、今後有馬監督のチーム作りも要注目だ。
■まだあと32試合もあるのだ
上図は昨季2018シーズン10節時点の順位表(作成:Kyoemoon)。こうしてみれば、この時点で2位にいた岡山→最終順位15位、6位熊本→21位【降格】、9位松本→1位【昇格】、15位大宮→5位【PO進出】など、この段階での順位はあまりアテにはならない。というのも、各チームの手の内が明らかになったので当然ながらここから対策が講じられるし、消耗が激しくなる夏場を乗り越えるための準備や選手層も問われていく。去年は夏のウインドーにJ1に主力を奪われて目論みが崩れたチームも複数あった。今年はU-20ワールドカップやコパアメリカで代表に選手を取られるチームもあるだろう。失速する“トラップ”はたくさん仕掛けられている。この難所を切り抜けて上位へと浮上するカギを1つ挙げるとすれば「スカウティング」ではなかろうか。敵情を的確に分析して、場合によってはドローを選択できるような強かさを持っているチームが生き残るだろうし、強力外国人FWだってある程度何とかなるはず(対策を講じても止められなかった2017年のガブリエルシャビエル級はいない)。個人能力よりもチーム全体の組織力が求められるリーグである点は変わらないが、チョウキジェ監督が作った“走るJ2サッカー”のフラッグシップモデルが、少しモデルチェンジしていくのではないか、という予感はある。今回触れられなかったチームの中では、徳島が気になる。不気味な存在。